だれかの散文

2018.1.5

第21回:サクっと行けちゃう、その場所は?


「サクっと行っちゃいましょうか?」

山形にいると遊んでくれたりお家に泊めてくれたり、なんだとお世話をしてくれる元番組スタッフ、現友達のKちゃんが夕暮れの車の中、運転しながら私にそう言いました。普段こんな事を言われたら「気になるお店へちょっと買い物に」とか「仕事まだ残っているけどビールでも飲みに行っちゃいましょう!」そんな風に解釈しちゃいそうだけど、ここは山形。彼女の言うサクっとはそう・・温泉。「車にシャンプーとかも入ってるし、向かいまーす!」その夜は山形市内にある“八百坊”へ連れて行ってくれました(静かにゆっくりくつろいでいられる、ほどよい雰囲気のいい温泉だったなあ)。

私の地元、三重県にも幾つか温泉はあるのだけど、近所にはなかったので温泉へ行くというのは私にとってビックなイベントでした。「何回入ればお湯を満喫できるのか?」ピンポイントに焦点を絞り、温泉旅館に到着した直後、食後、就寝前、起床後・・温泉を満喫するべくお湯を浴びに浴びた結果、「なんか疲れた・・」と残念な感想。そんなイメージがあったので大人になってからも温泉に特別な思い入れを持つこともなく、お家のお風呂にバブを入れて平和なお風呂タイムを満喫していました。

 

それから何年が経ったのでしょう。仕事で温泉ロケに行く機会が増えました。テレビ画面に裸体をさらすわけにもいかないので特別に許可を頂いて、水着を着た上にバスタオルを巻き、チャポンと浸かってひと感想。気持ちがいいのは確かです、洋服を着たみんなに囲まれて一人だけ温泉入っていい湯だな!なんて、もひとつ気持ちがいいのは確かです。でも直後、「このシーン OKです!」と言われ、ビタビタになったバスタオルをせっせと絞り、冷たくなっていく後れ毛をドライヤーで乾かしながら「10分後はお宿到着シーンの撮影になります〜!」って温泉の余韻ゼロ!なんか味わえない、味わいきってない(思い返せば“電車で移動しながら1日何カ所の温泉に入れるか!”という企画もやったなあ・・。ご一緒した女優さんは「いちいち面倒だし透けてもいいからバスタオルだけ巻いて入る!」とおっしゃるほど大変だったなあ・・。)!

 

そこからまた数年後、縁があって山形をくまなく紹介するという番組に出演することになり、2年にわたりさまざまな場所に行かせていただくことになりました。「山形は温泉県なんです!」何も知らない私を「加藤さん、赤湯温泉で足湯を!」「雰囲気のある街歩きの後に銀山温泉を!」「瀬見温泉でふかし湯体験を!」これまであまり味わってこなかった方向での温泉を次々に、いやもう、それは毎回と言わんばかりに連れて行ってくれました。

 

絶景に囲まれた米沢の姥湯温泉の美しさ!庄内の海に沈む夕日も堪能出来る湯野浜温泉!懐中電灯を渡され、冒険感覚でお湯へと向かう肘折温泉の手彫り洞窟温泉!お湯に入るまでが、入ってからが、入った後の余韻がどこも楽しく素敵なところばかり!そして街の方の温泉との付き合い方がどこまでも日常で「仕事の合間にね、こうしてしょっちゅうここでおしゃべりしているの」お茶をするかのよう、ごく自然にお湯に足を浸けながら教えてくれる上山のお母さん方。「ここまで出前のラーメン持ってきてくれるから試してみて!」足湯しながら食べなくても・・とつい笑っちゃった小野川温泉など、ごく自然な暮らしの中に温泉があり、誰もが独り占めすることなくお湯をみんなで味わう心の豊かさ。

 

先人たちが見つけてくれたおかげで(そこにどんな伝説があろうとも)今では山形へ行く楽しみの一つともなり、温泉に入る事が待ち遠しくもなりました。

「今日はどこへ?」なんてまたサクっと温泉へ出かけようと思います。


加藤 紀子

プロフィール:

加藤紀子

92年に歌手デビュー。歌番組やバラエティー番組、ラジオなど幅広いメディアで大活躍するさなか、2000年より芸能界を休業し、パリへ語学留学。2002年に帰国し、芸能活動を再開。現在は、東海テレビ「スイッチ!」、NHK-FM「トーキング ウィズ 松尾堂」にレギュラー出演など幅広く活躍中。

加藤紀子ブログ「加藤によだれ」
http://ameblo.jp/katonoriko/

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