特集の傍流

2017.3.10

もう一度、子供に夢を。アマゾンが教えてくれた、古からの自然と人間のあり方。

2017年4月号(150号)アマゾンと、山形の人類遺産。
アマゾン研究所 所長 山口吉彦さん・山口考子さん
出羽庄内国際村(鶴岡市)

子供たちに夢を与え続けてきたアマゾン民族館・自然館の閉館後、今やブラジル国外に持ち出すことはほぼ不可能となった数多の資料は出羽庄内国際村(鶴岡市)内に保存されていたが、閉館後3年間は民族館展示室で無償での保管を認めてきた市との申し合わせ期限が、実は今年(2017年)3月末日に迫っている。

 

収蔵庫の使用期限が、あと一年に迫っています。

 

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現在の収蔵庫の様子。

 

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資料は期限までに展示スペースから片付けなくてはならないが、収蔵庫での保管期限は来年3月末までに延長された。それでも、その間に新たな展示・保存場所を確保しなければならないことには変わらない。しかし、巨額の資金を個人で用意することは難しい。そこで、散逸の危機にあるその収集資料を民間の善意による基金で守ろうと設立されたのが、「アマゾンコレクション保護・夢基金」(通称・アマゾン夢基金)だ。(基金の詳細はamazon-yy-collection.comにて)

 

アマゾンの夢をふたたび。善意がつなぐ夢基金。

基金は、山口さんご夫妻の友人である松田亮子さんが発起人となり、公益財団法人公益推進協会の「マイ基金」の制度(公益財団に寄付金を託し、そのお金を寄付者が考えた分野や地域の公益活動に公益財団が配るというもの)を使って行われている。公益推進協会(kosuikyo.com)のHPから申込書をダウンロードすれば誰でも寄付できるシステムで、現在も多くの人々から支援が寄せられている。

アマゾン自然館・民族館の閉館後も、資料の引き取り手がいないかと山口さんご夫妻は全国の研究機関に連絡をとっており、民族系だけなら、生態系だけならと引き取りの申し出はあったが、分散は資料の散逸につながるため、それだけはどうしても避けたいこと。なぜなら山口さんのコレクションは全体で「アマゾン」の資料であり、どれか一つが欠けても成り立たないからである。

 

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基金の設立、そして再公開に向けての動きを受け、応援の声が、各所から挙がっています。

(※以下、寄せられたメッセージを掲載します)

 

鶴岡に店舗設計で訪れたことが、初めてアマゾン民族館を訪問したきっかけでした。道中にて渡された鶴岡のパンフレットの中に、アマゾン民族館の館内を写した小さな写真があったのですが、見ているうちにどうしても行きたくなったのです。当時、フランスのケ・ブランリ美術館の展示の迫力に圧倒されたばかりだった僕は、元々クラフトや民芸に興味があり、アマゾン民族館のことも気になって仕方ありませんでした。民族館に着いた時は、この行政的な建物の中にあの写真にあった物たちが本当に展示されているのかと思ってしまいましたが、展示室に入った瞬間の圧倒的なインパクトは今でも忘れられません。物が訴えかけてくるメッセージがこれまでにないものだったからです。もっと多くの人に観て欲しい、これらから大切な何かを感じ取って欲しいと訴えかけているようにさえ思えたのです。

山口さんのアマゾンにおける活動のお話を聞き、その謙虚な姿勢と情熱的な行動に僕はいたく感動し、東京に戻ってすぐに、取材の相談を受けたマガジンハウス社の『ブルータスマガジン』でのコレクター特集に山口さんを推薦させていただく流れになりました。「物を残すことが重要。たとえその物を作る技術や習慣が失われたとしても、誰かがその残された物から感じ取り、新しい手段や発想で作り出せるかもしれない。だから物があって実物を見れるということが大切だ」という、取材の際の山口さんの言葉は今でも心に残っています。山口さんのこの素晴らしいコレクションが再び次世代の新しい発想に役立つと僕は信じています。そのためにはこれらをふさわしい形で公開する必要があります。あの沢山の物から溢れるメッセージをきちんと感じるための、新しい場所と設えが必要なのです。

(中原慎一郎さん/ランドスケーププロダクツ代表。内装デザイン設計の他、多岐に渡り活動。)

 

山口吉彦さんのアマゾン・コレクションは〝あつい〟資料です。〝あつい〟というのは〝熱い〟と〝厚い〟の掛け言葉です。山口さんの情熱がほとばしり出た資料であるとともに、濃厚な情報が付随する収集品でもあります。

アマゾン各地のインディオ社会を訪ね歩き、物々交換も交えて入手したコレクションには、一つひとつに思い入れがあり、汗と涙の物語があります。ブラジルで集めた民族資料と動物標本が双璧となっていますが、これは19世紀的文明の産物である博物学の伝統を現代によみがえらせる営為でもありました。細分化された学問は20世紀の趨勢(すうせい)でしたが、山口さんはあえて総合的な道を選択し、次世代の青年層や子供たちにそれを継承しようと長年、情熱を傾けてきました。そして、その手法の原点は草の根にありました。山口さんは芋づる式にひろがる人間関係をたよりに、私財をなげうち、地縁、血縁、社縁、なかんずく〝友縁〟(フレンドシップ)の輪を広げてきました。このたびの基金も、その原点に立ち戻ったと言っていいでしょう。世界的にも稀有で貴重なコレクションの保存と活用を、有志のつながりでぜひとも実現させたいものです。

(中牧弘允さん/国立民族学博物館名誉教授。吹田市立博物館館長。文化人類学者。)

 

アマゾンの人々の自然を敬う姿や心の豊かさは、今の我々が忘れてしまった姿です。今の世の中は彼らの姿勢とは逆で、人間の便宜のため自然を破壊しています。その進行が止まらないのは、人々の心が腐敗しているからではないでしょうか。その証拠に日本は、自殺の低年齢化、いじめ、虐待など、様々な問題を抱えています。元保育士の私もそういった現場を見てしまったことがありますが、このようなことが起きてしまうのは、子供を導く大人の心が貧しいからにほかなりません。その心を少しでも豊かにするために、そして心の教育のためにも、これらの品々は保存するだけでなく、散逸させることなく人の目に触れられるべきです。山口さんご夫婦のコレクションを見てアマゾンの人々の心に触れたからといって、必ずしも心が豊かになるということではないかもしれません。しかし「いつかアマゾンに行く」という子供の頃からの信念を曲げずに実現させ、今も夢を追いかけている彼の姿は、多くの子供たちに夢と希望を与えると信じています。子供に学んでほしい大人の心の豊かさを、展示を通して伝えていけたらと思います。

(松田亮子さん/アマゾン夢基金の発起人。米沢市でイベント企画会社役員を務める。)

 

その魅力と価値を、末永く伝えていくために。

小規模でも資料の展示館を設け、再公開を目指す考えで行われている夢基金の目標額は1億5000万円。数多のコレクションを将来的には、山口さんご夫妻のものとして留めずに、より多くの人が有意義に活用できるようにしたいという。数々のコレクションも、人の目に触れられることで初めて「伝えるもの」としての意味を持つ。アマゾンのみならず人類の遺産と呼べるコレクションを後世に残し、それを見て夢を抱いたり心を潤したりする誰かの姿が再び見られることを夢見たい。

 

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民族資料は「民族の生活の知恵の集積」であります。何世代にも亘って継承されてきた、民族の血と汗の結晶でもあります。こうした資料は、私たちに「自然と人間との共生」という重要なキーワードを物語ってくれます。

アマゾン研究も、帰国後に手がけた国際交流も、地域振興も、すべて私の中ではつながっています。これからも、美しい自然と文化を有する山形にあるこの資料たちを、自然と人間がいかにして共生していけるかを考える場として提供していきたいのです。そのためには、資料の散逸は何としても避けたいことです。自然と民族の両方を知ることで、アマゾンとインディオへの理解が深まるのであって、一部の分野ごとに散逸してしまえば、本来の価値は失われてしまいます。そうさせないため、次世代に継承するためにも、その価値を最大限に発揮できる方法を探りたいと思っています。コレクションを広く一般に公開することで、子供たちに夢と笑顔を与え、研究者が育つことを、また、世界の多様な文化の理解に少しでも役立ち、民族と民族とを結ぶ「架け橋」としての役割を果たすことができるように心から願っております。(山口吉彦さん)

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