特集の傍流

2017.8.8

伝統の染色法と、高い加工技術を持つ町の染工場。

2017年9月号(155号)突破人に学ぶ、仕事術。
石川染工株式会社 代表取締役社長 伊藤栄一さん
山形県東村山郡山辺町

「やっぱり、山形のものづくりは素晴らしい !」。そんな誇らしい事実を再認識させてくれる数々の企業に、良いモノを創り出す仕事術とその原動力について、訊いてみる「突破人に学ぶ、仕事術」。
 1回目の今回は、石川染工株式会社(山辺町)へお邪魔した。

 

「血縁が当たり前」を、打ち破った染工会社。

 山辺町は、全国有数のニット産地として知られる。町内にある染工会社のひとつである石川染工(株)では、糸を束になった状態のままで染める、伝統的な「綛(かせ)染め」を短納期で行い、製品になったニットを染色する「後染め」、仕上げ剤を用いて生地の風合いを良くする「ミンク加工」にも力を入れている。製品になった後に染色や加工を施すのは相当な技術が必要とされ、この「ミンク加工」ができるのは、全国でも3社だけだ。

 

綛(かせ)染めの「綛」とは、ぐるぐると束になった状態の糸のこと。穴の開いた管にこの綛をかけ、穴から染液を噴射して染色する綛染めは、手間はかかるが糸の1本1本までしっかり染まり、ニット本来の風合いも残る染法だ。

 

 

染料はコンピューター制御で混色される。その後、サンプル繊維で染色テストを行い、染色機で染め上げられる。

 

 

ミンク加工の度合いによって、手触りも違ってくる。

 

 しかし、そんな石川染工にも幾多の苦難が。ニットの輸入が99パーセントを超え、国内生産が著しく減少すると、経営は悪化した。移ろいやすいこの時代に、いかに適応するか。総員一丸での改革が始まった。
 最も大きな転機は社長交代。どの業界も血縁者が継承するという固定観念があるが、「血縁でもない者が、代表権も有して社長に就任した例は他にありません」と、代表取締役社長の伊藤栄一さん。当然、戸惑いはあった。悩みに悩み抜き、それでも社長を引き受けたのは、「技術力を総合して皆が一丸となって頑張れば、絶対に負けない」という想いがあったからだ。

 

 

自主的に考える社員が、会社を牽引する。

 会社のことを考えるのに、上も下もない。皆の意識を統一し、自ら考えて選択、行動できるようにしよう。その結果として、以前は上役が決めた方針や目標を伝えるだけで社員が発言せず、単なる「報告会」と化していた会議を、社員の自主性に任せ、その議題や今後の方針も上役ではなく社員に話し合ってもらい、社長が会社の立場として判断を下すというものに変更した。また、毎月の会計監査の結果を公表、社員全員が情報を共有できるようにし、元々持っていた高い技術力を、前に出て発信していく方針を固めた。

 

 

出来上がった製品を染色する「後染め」加工を施されたニット。袖口の隙間の一つひとつ、糸の一本一本まできちんと染まっているのが分かる。

 

 

「紡績から染色、製品作りまで全て一貫して行っている、この山辺という産地、そして我が社のことを知ってほしい」。

 

乾燥させたニットを手に、説明する伊藤社長。数字に置き換えられない、加工の度合いによる風合いを推し量るのはまさに職人技だ。

 

 その手段を考えるのは社長である自分の役目との想いから、染工場では珍しく、積極的に展示会を行い、〝本物〟を知ってもらう機会づくりだけでなく、業者と直接話をし、遠方にも足を運んでいる伊藤社長。「やらないで後悔より、やって後悔。全力でやって、それで駄目だったら納得はいく。けれど、中途半端では、残るのは悔しさだけ」。百年企業を目指し、「常に前を向いて歩いていきたい」と語ってくれた。

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