特集の傍流

2017.8.10

永く大切に育まれた地域の宝を糧に、徃にしへを繋ぐ新風。

2017年9月号(155号)突破人に学ぶ、仕事術。
佐藤商店 代表 佐藤一朗さん
山形県最上郡真室川町

 秋田県との県境に位置する真室川町及位地区。奥羽山脈の神室連峰に包まれながら、最上川の源流でもある塩根川沿いに家々が広がるこの地には、まさに日本の田舎の原風景がそのまま残されている。
 そんな山形県域北限の町のよろず商店が手がける、懐かしくて新しい、ステキな缶詰・瓶詰めの話をうかがった。

 

地域で採れる、天然食材を製造加工。

 

 

「夏の暑い日にはこの川で子どもたちが泳いだり魚を捕まえたりして遊びます。私たちの時代と変わらない光景ですよね」と話してくれたのは、及位地区で創業し今年110年目を迎えた佐藤商店の四代目社長、佐藤一朗さん。その横で「昨日も孫がイワナを獲ってきたから、今日は塩焼きにしようかと思って」と奥様が微笑む。
 佐藤商店は、一般食料品から日用品までを扱うよろず商店の顔を持ちながら、永きに亘り、原木なめこの缶詰や蕗の甘露煮といった地場食材の製造加工と販売を手がけてきた老舗だ。写真の缶詰を見て記憶が呼び戻された人も多いだろう。

 

工場にて、なめこの缶詰の製造の様子。

 

店内の様子。

 

昭和20年以前の佐藤商店。

 

包装用紙は、素朴ながら感じる温かみ、一目見たときの分かりやすさとインパクトがある昔ながらのものだ。

 

「商品を作るのに精一杯で、パッケージを変えようとか包装を新調しようとか、そこまで頭が回らないだけ」と佐藤さんご夫妻は謙遜するが、なかなかどうして、時代を経ても褪せないインパクト、描かれている山の幸を魅せるその技に隙がなく、思わず手にしてしまう存在感がある。そんな佐藤商店を支える人気商品の蕗甘露煮、原木なめこ、ふきのとう味噌に混じって、近年特異な郷土食材として注目が集まった商品がある。それが〝いなごふりかけ〟だ。そう、あの蝗(稲子とも書く)を使った商品だ。

 

五代目が一歩を踏み出した、山形を凝縮した商品。

 

「いなごふりかけ」には、真室川産のおからや梅干、庄内の藻塩入り。昔から地に伝わる天然素材を厳選した食品作りはいまも不変。

 

「下処理したいなごを細かくし、直火で煎ることを繰り返して仕上げます。そこに庄内の藻塩、真室川産のおからに梅干といった郷土食材も配合しました」と教えてくれたのは、一朗さんのご子女で佐藤商店の五代目、和実さん。当初は簡易的なパッケージで販売していたというが「味見して下さった方、買って下さった方から好評で、思い切って定番化してみようと。それで交流のあった山形在住のクリエイターさんにパッケージのプロデュースをお願いしました」商品力が和実さんの背中を押した。

 

老舗だからこそ、新しいことにも柔軟に。

 ふりかけのパッケージは、他商品ともすんなり馴染む普遍的な存在感が重視されたという。その結果、古来から目にしてきたかのような温もりあるデザインで、いなご=稲子、稲穂に結びつくイラストも添えられた。
 百年以上、地元の宝を資源に郷土の食文化をつないできた佐藤商店。豪雪地帯でもあるこの地では、食材を蓄える仕事は昔から大きな使命を持つ。

 

 

 和実さんは話す。「保存料は一切使わずに長期保存できるようつくっています。いまの製法があるのは父が日々研究を重ねてきたおかげ。便利さと引き換えにしない、ただ一路、本物のおいしさを届けたい一心で邁進する。この気持ちは受け継いでいきたいと思っています」。
「生まれ育った山や川、自然が育ててくれた食材で、生産者の顔が浮かぶものばかり。だからおいしく作って届けなくちゃいけない、ただそれだけです」と一朗さん。

 

 

 父娘、互いに良品を目指すベクトルは同じ。ベストセラーの横にふりかけが並んだ背景には、家族の強い絆と、信頼を希望へと変える柔軟な決断があった。

関連記事

上へ