特集の傍流

2017.11.7

自分のワイン造りを突き詰めることが、山形を盛り上げる。

2017年12月号(158号)やまがたワイン考《後編》
タケダワイナリー 代表取締役社長・栽培醸造責任者 岸平典子さん
山形県上山市

山形ワインの印象や評価を訊ねたとき、その知名度もクオリティも国内屈指の「タケダワイナリー」。およそ百年の歴史を刻む老舗であり、日本ワインの主流がまだ甘口の〝お土産ワイン〟だった頃から、既に本格派として評価を得ていた。そんな山形を代表するヴィニュロンに、確かな実力から定評を得てきたワイン造りの背景を訊ねた。

 

国内の業界を牽引する、山形の名ワイナリー。

 ぶどうの高品質化、地道な研修、技術指導を重ね続け、着実に全国へと知られるようになるとともに、評価も上がっていった山形県産ワイン。タケダワイナリーのワインもさらに注目を浴びるようになり、その高い評価は揺るぎないものとなった。

 

ワイナリーの歴史は大正時代、「武田食品工場」でのワイン造りにさかのぼる。創業当時のマスカット・ベリーA農園の前で(写真提供/タケダワイナリー)

 

タケダワイナリーの歴史を語るワインボトルたち。

 

出荷本数は年間約30万本。土壌改良や自然農法などに力を注ぎ、既存の商品のブラッシュアップを図りつつ、新商品への取り組みを続けてきた同ワイナリー。あまりにも有名な蔵王スターワインをはじめ、シャトー・タケダ、ドメイヌ・タケダ《キュベ・ヨシコ》などがその顕著な例だが、「ただこの地で為すべきことを為し、それをこつこつと積み重ねてきただけです」と5代目の岸平典子さんは語る。
「自分たちが飲んで、納得したもの以外作りたくない。それを届けたい一心で続けてきました。ですから、皆さんそれぞれ評価してくださってありがたいけれど、ちょっと驚いているというか。こそばゆい感じはありますね」。その言葉からも、日々ぶどうやワインに向き合う実直な姿が想像できる。

 

ぶどうは人の目と手によって丁寧に選び抜かれる。未熟果や過熟の房は匂いで分かるため、体調を万全にすることも必要だ。

 

 

また、岸平さんは「山形は良いぶどうができるということで、県産ワインが評価され始めたのは納得です。原料がしっかりしているので、技術力さえ伴えば高品質で評価されるワインはいくらでも出てくるはず」と期待を話す。

 

自然本来の力を引き出すことを考えた畑。雑草が覆い茂っている。

 

 

山形のワイナリーの持つ、多様性が呼応しあう。

 ワインが大衆化し、全国のワイナリーが今日のように本格的な製造を始めたのはバブル以降。ワイン造りはまだ新しい産業との意識が強く、「皆が手探りなんです」と岸平さんは話す。「それぞれが何をしようかと模索している。ですからワイナリーって結構オープンで、聞かれたら教える、聞いたら教えてもらうという開けた空気があるんです」。それだけに生産者の意識も高く、ワイナリー同士の横のつながりも強い。
山形のワイナリーの数は、山梨や長野などに比べれば多くはない。しかし「規模や形態もそれぞれ違い、様々なスタンスを持った作り手がいるので、そこが面白いです」と岸平さん。「多様性があるので、互いに情報を交換・共有することで、今まで見えなかったものが見えるでしょうし、それがいい方向に動けばすごく面白いと思いますね」。

 

蔵の中へ一歩足を踏み入れると、ほんわりとした暖かさと、胸いっぱいに吸い込みたくなるような、ぶどうの発酵する匂いに包まれる。

 

熟成蔵の中を案内する岸平さん。

 

ワインのブレンド(アッサンブラージュ)の様子。タンクごとの味を入念に確認し、長時間思案することも。信じる力も試される(写真提供/長谷川潤)。

 

岸平さんは、2008年に発足した「山形ヴィニョロンの会」の会長でもあり、「若い人たちが学びたいこと、困っていることをきちんとすくい上げ、全員の糧になるような勉強会にしたいと思ったんです」と就任当時を語る。山形のワインの次代を担う若手や新規に対しては、「すごく期待しています」と力説。
「自分がどういうワインを造りたいのかを、自分の中に問いかけ、突き詰めて、自分がやりたいものづくりで山形を盛り上げてほしいですね」。自身も、「ぶどうが〝こういう造りをしてください〟って言うんですよ。私はその年のぶどうを最大限に生かし、この土地の味を出すワイン造りができればと毎年思っています」。そこにこそ、ワイン造りの意義があるのだと感じさせられる。

 

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