日本最古のプロポーズをした神様が、三羽のうさぎを遣いに良縁を結ぶ。

2023年2月号(220号)
特集|或る、うさぎ伝
南陽熊野大社(南陽市)

東北の熊野信仰を現代に伝える

1200年の歴史を誇る南陽市宮内の熊野大社。熊野三山(和歌山)、熊野神社・熊野皇大神社(群馬・長野の県境)と並び「日本三熊野」のひとつで、「東北の伊勢」とも呼ばれる。天台宗・真言宗・羽黒修験・神道の4派が加わり修験の霊場としても栄えた時期もあったという。

参道入り口横にある樹齢約900年の御神木・大イチョウも有名で、昨年秋には初のライトアップも行われた。また、夏には風鈴を使った祈願祭が行われ、10月には風車「風花(かざはな)」のトンネルが設置されるなど、フォトスポットとしても知られ、若い参拝客も増えている。

石畳のある参道入口で出迎えてくれる大鳥居。権現造りの石鳥居としては日本一だという。
天明7年(1787年)に再建された熊野大社の拝殿。大規模な草葺屋根と特異な形式の向拝に圧倒される。

シンプルで実直な日本最古のプロポーズ

本殿に祀られているのは、熊野大神。別名として「イザナキノミコト」と「イザナミノミコト」という男女の神様だ。名前に共通する「イザナ」は「誘(いざな)う」からきており、男女の愛の言葉を表現したもの。「あなにやし、えをとめを(ああ、なんと素敵な女性だろう)」、「あなにやし、えをとこを(ああ、なんと素敵な男性だろう)」という、シンプルな言葉で、日本最初のプロポーズをしたと神話に残されており、日本で始めて結ばれた夫婦の神様、縁結びの神様として知られている。そのため、熊野大社は良縁に恵まれるパワースポットとしても人気だ。

熊野大社の拝殿正面。大木に囲まれた境内には30柱の神様を祀っており、良縁・運気上昇・健康などの願い事によって巡り方もことなるという。
ご参拝の証となる御朱印やお守りをわける授与所。お願い事にあわせお祓いしたたくさんのお守りを扱う。
風鈴の音色とともに願いごとを書いた短冊が揺れる「縁結び祈願祭 かなで」は初夏から秋に行われる。フォトスポットとしても人気(画像提供:南陽熊野大社)

見つければ良縁に恵まれると言い伝えられる、隠し彫りのうさぎ

女性の神様「イザナミノミコト」が祀られている本殿は、1775年(安永7)に建立された。裏には、三羽のうさぎが隠し彫りされていると伝えられているが、これは建立時に彫られたものではなく修繕を重ねるなかで加えられたものだと考えられており、彫られた時期は不明だという。

うさぎは神話のなかでも神様の使者として登場する。日本では月にうさぎが住んでいるという言い伝えもあるが、水面に浮かんだ満月にうさぎが映しだされ、風で揺れる月とうさぎの姿を「波にうさぎ」と言い、縁起がよいともされている。

本殿裏の隠し彫りも、波のモチーフのなかにうさぎが彫られている。「三羽のうさぎを見つけると願い事が叶う」とも伝わっているが、熊野大社の夫婦の神様の遣いとして、うさぎが幸せを運んでくるのかもしれない。

「三羽のうさぎ」が隠し彫りされている「イザナキノミコト」を祀った本殿裏側。長時間、見上げた姿勢のまま一生懸命に探す観光客や、「あれがそうじゃないか?」と友人同士で話し合う姿がよく見られる。

うさぎの伝説が伝わる熊野大社で、今年は「卯年ご縁年」として特別なお守りの頒布や、願い事の奉納をはじめた。また、境内に祀られているさまざまな神様を解説し、それぞれの願いにあわせた、ていねいなお参りの手引書も今年から配布しているそうだ。神職の齋藤恭平さんは「本年は当社にとっても特別な一年。多くの人たちの願いが叶いますようにと願い、また皆さまの身体健全、 健康及び無病息災を心より祈念しております」と話す。

干支にちなみ、うさぎに想いを託しに、熊野大社を訪れてみてはいかがだろうか。

「12年に一度の卯年ご縁年は、当社でも特別な一年」と話す神職の齋藤さん。

ここが見どころ、うさぎポイント

三羽のうさぎを見つけて良縁を

いつの頃か、本殿裏に隠し彫りされている、三羽のうさぎをすべて見つけると、「願いが叶う」、「良縁に結ばれる」などと言われるようになった。そのため、現在では多くの参拝客が、本殿の裏で三羽のうさぎを探している。どうしてもわからないかたのために、授与所で二羽目までを探す手引きを配布しているが、すべてを教わると、ご利益がなくなるとも言われている。時間をかけて自力で三羽を探している人も少なくない。

縁起の良い「波にうさぎ」にちなみ、見事な彫刻である波の中にうさぎがいるとされている(掲載写真にも1羽写り込んでいる)

満月の夜に行う祈願祭「月結び」

古くから「月にはうさぎが住んでいる」と言われているが、熊野大社では月にちなんだ縁結び祈願祭も行っている。月に1回、月の力が大きいとされる満月に近い土日祝日に執り行われ、時には100人近く集まることもあるという。金幣などによる神事の後には、参列者限定で、巫女が編んだ「たまゆら守り」が授与される。不思議なことに、祈願祭は晴れることが多いそう。

月明かりに照らされる拝殿は昼とは違う趣があり幻想的だ(画像提供:南陽熊野大社)

うさぎにちなんだ頒布品が多数

うさぎの置物に入ったおみくじや、ピンク、紫、青の3色から選べるお守り「叶う守り」など、授与所にはうさぎをあしらった頒布品が並ぶ。本来であれば、お札やお守りは参拝者に授与するものだが、様々な事情でどうしても参拝ができない人のために、郵送での頒布も行っている。

今年は、願い事をうさぎの置物とともに奉納する「奉納 願ひうさぎ」をはじめ、絵馬やお守り、御朱印帳など、新たな頒布品も増えた。縁結びの葉として信仰される「なぎの葉」を漉きこんだ「なぎの葉御朱印」や、三羽のうさぎが描かれた「新春 うさぎ御朱印」も頒布する。

見た目がかわいらしいだけでなく、神様の遣いとされているうさぎ。今年一年持ち歩いてみてはいかがだろうか。

三羽のうさぎにちなんだおみくじ付きの置物「結ひ(ゆわい)うさぎ」などが並ぶ。

熊野大社の卯にまつわる縁起物で開運を祈る

御朱印帳

表紙にうさぎがあしらわれた御朱印帳で、これまでは白色のみだったが今年は朱色も登場。御朱印には当社が旨とする「明るく清らかで素直な心」を意味した、「明き清き直き心」の特別朱印を記帳する。

卯年記念となる朱色の御朱印帳

絵馬

卯年を記念して特別に奉製した絵馬とお守りで、「波にうさぎ」が描かれている。願いを書く絵馬には二羽のうさぎが、小さなお守りには三羽目のうさぎが描かれている。

卯年記念の絵馬とお守り

願ひうさぎ

用紙に願い事を書き、手のひらにのるかわいらしいサイズのうさぎの中に込めて、境内の納め所に奉納する。うさぎの頭にのせられた特徴的なかんざしは季節によってかわるそう。

卯年記念の願掛け置物「願ひうさぎ」

gatta! 2023年2月号
特集|或る、うさぎ伝。

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