表紙の小さな物語
上山の楢下宿から国道13号線に至るまでの羽州街道沿いは、古くから果樹農園が連なる並ぶ土地。名産品となっている柿の収穫や、蔵王吹き降ろしの寒風でつくる干し柿(つるし柿)が、そろそろはじまるころだった。
街道沿いの相生地区にある一軒、須田さんのお宅へ。裏庭には果樹が広がり、近隣との境界線がわからないほど長閑な風景だ。だいぶ肌寒さを感じる時季にもかかわらず、タンクトップ姿と半ズボンで、勢いよく庭を駆けまわるのは、須田家の次男坊「正義」くん。スチロール材を器用に削って手作りしたというボールとバットでバッティングをしたり、吊るされたハシゴで木登りしたり。その横で焚き火をしながらみつめている、オイルドジャケットを着込んだお父さんとのギャップ…。ワイルドだ。
驚いたのはお父さんを中心に家族で建てたという「ウラニワシェルター」と呼んでいる木小屋。「シェルター」のなかには、蒔ストーブが設置され、ランプ・テーブル・椅子、ワインやジュースやコーヒーまである。片隅に置かれた小さなCDプレーヤーから流れるギターソロのゆるやかな音が響き、まさに秘密基地というに相応しい独特の心地良さ。この手作り空間に親子が集って、お菓子を食べたり、読書をしたり音楽を聴きながら、気ままなに過ごす時間を大切にしているという。
また、近所の友だちが遊びにきては、垣根のない町内全部をフィールドにして鬼ごっこをしたり、時季にかかわらずバーベキューやキャンプを楽しんでいたりと、その奔放さが羨ましくもあった。
陽も暮れかかり、ご家族と一緒に「シェルター」のなかで、手挽き豆で淹れたコーヒーをいただいた。蒔のはぜる音をききながら飲んだ温かい珈琲の味が、忘れられない。「冬が降ってからも開店しますから、また来てくださいね、カフェ・ド・ウラニワ」。嬉しいな。あたりが冬景色にそまったら、また訪れてみたい。

スチロール材のバットでバッティング。すごいミート率。

焚き火をしながら見守るお父さんと「ジナンボー」くん。

おやつを口に頬張りながら、ひょいとハシゴを登る。

お父さんもここに座りなよ。

チョコレートを直火にくぐしたら美味しくなるかな、実験、実験。

飼い猫のトムは綺麗な毛なみ。そっと足元にすり寄ってきてくれた。

トムもこっち来なよ!トムは別の何かが気になる様子。

表紙モデル:須田正義くん
山形県上山市相生
菅原道真を崇める天神信仰による臥牛像や、民芸品の赤べこ、俵牛など、神の使いとして親しみ深い牛。なぜ神使…
あいにくの曇り空。いまにも雨が溢れ落ちそうな初冬のある日。大人はベンチコートをまとっても足踏みするほど…
向かったのは山形県を代表するそば処として有名な村山市。国道13号線を北進し、県道25号と交わる交差点か…
山ふもとに果樹園が広がる朝日町。町の中心に位置する「宮宿商店街」を歩いていると、菓子店の換気扇から漂って…
まだ夏の気配が冷めやらぬ8月下旬、集まった3人は従姉妹同士。黄色いTシャツのみのりちゃんとピンクのハッ…
最上三十三観音の第一番札所として知られる若松観音。「目出度目出度の若松様よ〜」と花笠音頭の歌詞にも登場…