表紙の小さな物語

2016.1.25

手彫りならではの味のある線、猿の切絵ビジュアル。

2016年2月号(136号)表紙

玄関を開けると沸騰したヤカンから立ちのぼる湯気の音が聞こえる。左沢にある静謐な自宅工房ではちょうど、吉田さんが小刀を手にシャクッシャクッと切絵を彫っている最中だった。手仕事ならではの質朴さに宿る、独創的な風合いの「切絵」が魅力の吉田勝信さん。これまでに手掛けてきたたくさんの切絵やグラフィックの原版をその時のエピソードとともに聞かせていただいた。そして、膝の上にチョコンとのってくる人懐っこくて可愛らしい猫を撫でながら、手挽きして淹れてもらった『IS KOFFEE』のシングルオリジンコーヒーにほっと一息。このコーヒー店のロゴやステーショナリーもすべて彼のデザインだ。

 

下絵をアタリに小刀で一気に仕上げていく切絵作業。

下絵をアタリに小刀で一気に仕上げていく切絵作業。

 

大学入学をきっかけに山形に定住し、グラフィックデザインの仕事を主体にしながらも活動は多岐に渡る。地域の食・手仕事・生業や暮らしの聞き書きをベースに本・展覧会・ワークショップをつくる『アトツギ編集室』、糸紡ぎから機織りや草木染めまでを一貫して行う実家業の『台所草木染結工房』、林業木材の有効活用のためプロダクト開発を推進する川西町玉庭地区『里山再生事業』のデザインワークなど、様々な地域・ポストを体験しながら、その土地その場所にあるべきスタイルをデザインの視点から探っているのだ。

 

いたってシンプルな道具とガッタ表紙の切絵原版(制作途中)

いたってシンプルな道具とガッタ表紙の切絵原版(制作途中)

 

県内外の様々なプロジェクトに企画からビジュアル制作にいたるまで携わり、フィールドを限定しない自在な活動に目が離せない吉田さんに、今回は干支の「申(猿)」をモチーフにしたガッタ表紙の切絵を作っていただいた。「下絵はササッとアタリで描いて、あとは小刀の筆致にまかせます」。下絵に忠実すぎない彫りから生きいきとしたライン、切文字のなかに刻んだ「猿」という字も日本で一般流通している「猿」ではなく、中国の唐時代くらいに書かれた「猿」から引用するなど、無二のインディヴィジュアリティが露わになるにつれ、見ていて次第に高揚感がわいてくる。街を歩き山をかきわけ、地域人とのコミュニケーションを日々を重ねている彼だからこそ、体や手を動かしながらアイデアを形にしていくことのデザイン本来の“美しさ”や“温度感”とかが、この作品のなかにも表現されているのではないだろうか。〈N〉

 

2016年2月号(136号)やまがた猿話
表紙切り絵:吉田勝信さん
山形県西村山郡大江町、東置賜郡川西町

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