表紙の小さな物語

2019.1.10

表紙の切絵「猪踊」

2019年2月号(172号)表紙

2019年の干支は「亥」。亥の字の成り立ちをみると獣の形の象形とありました。

中国では猪は家畜の豚、イノシシは野猪と書くらしい。日本では猪=イノシシだが、日本の古い言葉で「イ」という音は猪や鹿のことを指し、また同様にシシは肉、特に狩猟した肉を指します。イノシシは、そもそもは山で狩猟できる獣肉の意味だと思います。また、鹿を区別してカノシシと言ったり、山形ではカモシカのことをアオジシと言ったりしたようです。今回のモチーフにした鹿踊は、シシ踊り=狩猟した肉の踊りということだと思います。

 

友人の山田氏に県内の鹿踊について聞きました。彼は、映像関係の技術を持ちながら自身で鹿踊を舞い、民俗文化のフィールドワークやその継承に取り組んでいます。山形県内の鹿踊には、特に猪やカモシカをモチーフした鹿踊が多いといいます。分かりやすい例として、鹿踊の名前に猪がつく、「長瀞猪子踊」を教えてもらいました。ちなみ長瀞の猪子頭が今回の図案のモチーフです。東北の鹿踊は死者の鎮魂の意味合いがありますが、もともとは狩猟した肉の鎮魂と感謝の意味合いがあっただろうと思います。森の力が獣の皮をまとい目の前に現れ、それを自分たちの体の内側に取り込み、身体化させる鎮魂の技芸であったでしょう。

 

鎮魂の技芸に使われる道具には、鎮魂の意匠とも言うべき、霊(タマ)が宿る要素が含まれています。神や魂、精霊など霊(タマ)的なものは、たくさんに枝分かれした先っぽに宿ると古代人は考えました。オタカポッポの削り花や山の大木などが分かりやすいと思います。そのような意匠がシシ頭にも取り入れられていました。獣や鳥の毛で顔の周りが覆われ、獣っぽさの表現にしては多すぎる量が植え込まれています。また、顔の淵も尖っていました。今回は、そのような先っぽに注目して抜き出し、霊な宿りそうなグラフィックを目指しました。

2018年12月 吉田勝信

 

猪踊図案のパターンサンプル。縦長の図案が原版。

 

自室で切絵の制作をする吉田さん。

 

鹿踊の助言:
山田雅也氏(縦糸横糸合同会社・東京鹿踊)
http://tateito-yokoito.com/
http://to-shika.tumblr.com/

 

参考文献:
「十二支考(下)」南方熊楠・岩波文庫
「緑の資本論」中沢新一・筑摩書房
「山形のシシ踊ガイドブック-楽しく見るための手引書-」菊地和博・シシ踊りを活用した地域活性化実行委員会
「東北STANDARD-岩手-鹿踊」

 

2019年2月号(172号)山形のひっぱりうどん
表紙図案:吉田勝信氏
モチーフ:猪踊

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