だれかの散文

2018.3.9

第23回:山形の春と伝承野菜の思い出


山形を知るきっかけになったYBC“やまがた発 旅の見聞録”、番組レポーターとして最初のロケはまだ雪がたっぷりと残る4月初旬。その日は真室川に住んでらっしゃるベテラン農家の佐藤信栄(のぶよし)さんに取材へ伺いました。カメラが回りディレクターさんからキューが振られ「手の中にあるものを見せてください」そう私がお願いすると「これはズィンゴエモンイモです」と佐藤さん。ズィンゴエモンイモ・・?見せてくれているものはどう見たって小ぶりの里芋で「あそこから取り出してきたんだー」と掘った場所を指して教えてくれるものの、まずズィンゴエモンイモが分からない。

すると「んだば〜こっちへ〜」と古民家の中に案内されると、囲炉裏に吊るされた鍋からはシュホーッと大きな湯気が昇り、佐藤さんのお仲間と思しきお母様方がお野菜を使ったお惣菜を囲炉裏の周りにたんまり並べてくださっていて、この雰囲気あるシチュエーションに「山形かっこいい!」一気にノックアウト。

古民家で囲炉裏って素敵すぎる光景!その中で昔からある山形、真室川の風景、日常を右も左も分からない旅人に「こんなもんしかねえけどな」と笑いながら見せてくださる姿はどれも穏やかに賑やかで、そんなみなさんのお気持ちと佇まいに「山形、好きになるかも・・」静かに思っていると「カトさんズィンゴエモンイモの話だけどもね」そうだった、そうだった、大事なこと忘れてた、ズィンゴエモンイモのこと聞かなくちゃいけなかったんだ!

 

私を囲んでくださる空気と佐藤さんの最上弁に耳が馴染んだあたりで改めてお話を伺うと、ズィンゴエモンイモの正体は“甚五右ヱ門芋”という室町時代から400年以上続く伝承野菜だそうで、門外不出の栽培方法で佐藤さん一族「森の家」が代々作っている芋とのこと。

その甚五右ヱ門芋、よく見てみると一般的な里芋よりも皮が薄く出で立ちが繊細。囲炉裏で芋煮として温められていた甚五右ヱ門芋を一口いただくと、ホックホクで柔らかいながらも煮崩れしていない噛み応えしっかり芋。伝承野菜としての誇りと風格の味。朗らかなお人柄ながらプロとして育て上げた佐藤さん一族の愛情がこもった味をしっかり見て教えてもらうことができ「なるほど甚五右ヱ門芋!めでたしめでたし!」ロケ終了かと思ったら!

 

「細かく刻むのよ〜」「砂糖も入れてね〜」お母さん方からエプロンを渡され、あっという間にふきのとうを使った“ばんけ味噌作り”のレッスンがスタート。手取り足取り愉快に教えてくれ(長年の勘を最大に生かしたザックリ味付けで学べるのがお母さん世代から教わる醍醐味)「山形、好きになっちゃうかも」そう確信した直後、佐藤さんをはじめ、そこにいた皆さんが山形を知らない私に最上川音頭を歌ってくださり、ここに嫁いで来たような、受け入れてくださったような幸せと感謝の気持ちでいっぱいになり、涙が溢れて止まりませんでした。

 

山形の伝統野菜と聞くと私はここで味わった佐藤さんの甚五右ヱ門芋と素晴らしき真室川での時間を思い出します。

伝承され続ける野菜、伝統の音楽、そこにいる人々が下さった心からの優しさ。

どれも全てずっとずっと残っていってほしい・・強くそう思います。

 

春の始まりに出会った皆さんの顔を再び思い出しながら、

この「加藤紀子@山形」、まるっと二年を迎える次号が最終回となります。

出会いも春、お別れも春、これらは春の一つのお役目なのかもしれません・・ ぜひお付き合いくださいませ。

 


加藤 紀子

プロフィール:

加藤紀子

92年に歌手デビュー。歌番組やバラエティー番組、ラジオなど幅広いメディアで大活躍するさなか、2000年より芸能界を休業し、パリへ語学留学。2002年に帰国し、芸能活動を再開。現在は、東海テレビ「スイッチ!」、NHK-FM「トーキング ウィズ 松尾堂」にレギュラー出演など幅広く活躍中。

加藤紀子ブログ「加藤によだれ」
http://ameblo.jp/katonoriko/

バックナンバー
過去の記事

上へ