特集の傍流

2021.4.9

山形における書店のパイオニア。独自の文房具から地域を興す。

2021年5月号(199号)大人の筆箱計画。
八文字屋本店 文具課長:東根智広さん
山形県山形市

 時は江戸時代。書籍や文房具を幅広く揃えたメガブックストアの魁、『八文字屋』の歴史は、初代五十嵐太右衛門が山形市七日町で雑貨商と和紙の荷受問屋を営んでいたところから幕を開ける。特産品であった紅花の仲買とともに雑貨類だけでなく浮世草子を上方から買い付け、山形で貸本業を始めたところ、たちまち大評判に。『八文字屋』は、その浮世草子の出版元である京都の八文字屋八左右衛門に由来するという。
 明治維新により養蚕が奨励されるようになると、紅花の生産は衰退の一途を辿った。そこから『八文字屋』は西洋文具や書籍を主にした小売業に徹するように。9代目太右衛門は、とくにハイカラな人物であったそうで、山形市内で自転車や自動車を乗り廻した最初の人物であるという。電話が開通すると、すぐさま店舗にとりつけ、書籍を購入した客は電話をかけることができた。その物珍しさに店は見物客で溢れかえったそうだ。

 

吹き抜けを擁するモダンな雰囲気の店内。昭和43年、この店舗が建てられた当時、近隣ではもっとも進んだ近代建築として建築雑誌にも取り上げられたそう。

 

オリジナルインクで地域の魅力を再発見

 教科書本の出版や錦絵図の印刷販売など、時代の潮流に合わせて革新的な商売を展開していった『八文字屋』。最近ではオリジナル商品の開発にも力を入れており、とくに山形の魅力を表現した万年筆用インクが注目されている。インク開発の中心人物である、本店の文具課長、東根智広さんに話を聞いた。

 開発に至ったきっかけは「街のシンボルだった百貨店が閉店し、年々人通りが少なくなっていると感じていました。本店のある七日町を盛り上げていきたい、お店に足を運んでもらいたい、という思いで開発を始めました」とのこと。文房具店がオリジナルインクを発売する動きは既に他県でも広まっており、山形県は東北でも一番最後だったという。

 

2019年のリリースから好評を奏し、2021年の2月には第6弾となる「水没林エメラルド」を発売。初回分は瞬く間に完売した。レタリング作家bechoriさんによる手書きの色見本も秀逸だ。

 

 「樹氷アメジスト」に「久保桜ブルームピンク」など、四季折々の山形を色に例えたオリジナルインク。リリースに関しては季節感を重視しており、山形を訪れた人たちにお土産にしてもらいたいという目論みもあったそうだ。「場所の選定から形になるまでは約3ヶ月かかります。実際に現地に足を運んでイメージを膨らませながら色に落とし込んでいき、納得できるまで何度もメーカーと調整を重ねています。普段は気付かないですけど、意外と山形って良いものあるじゃん、ってインクを作りながら感じました」と充実感を滲ませる東根さん。今後の目標は35市町村全てのインクを作ることだそう。「これからは企業間でコラボしたり、もっといろんな方と繋がって、地域の魅力を更に引き出せたらいいですね。山形をさらに魅力的にするお手伝いが一緒にできれば」と今後の展望を語った。

 

いまや全国の文房具フリークから問い合わせが殺到するオリジナルインク(50㎖入り2,200円)。コロナ禍という情勢も後押しし、オンラインストアを立ち上げるきっかけになったそう。インクのラベルは純粋な円形ではなく、インクをたらした形をイメージ。

 

オリジナルインクの購入者から要望があり、ペアで使える万年筆(32,450円〜)も用意。上から銀山スノーグレー、くらげアクアリウム、樹氷アメジスト。3月からは久保桜ブルームピンクの新作も発売した。

 

山形の特産物や文化遺産を紹介した、5㎜方眼ノートのやまがた学習帳(4種各264円)。山形県内の書店で販売中。

 

 『八文字屋』は東北の文房具販売店10社からなる団体「NE6 TOHOKUBUNGU LAB.」にも山形県で唯一参加。東北を訪れてもらいたい、という想いから6県の文房具店が一丸となって商品開発を手掛けているという。東北の身近にある自然を題材として最初に発売した「東北、旅するインク」は250セットが瞬く間に完売。ほかにも米沢在住のイラストレーターmizutamaさんとのコラボ商品などを開発。

 

「NE6」で発売した商品のほか、県内外に多くのファンを持つmizutamaさんの書籍・グッズも豊富に並ぶ。

 

 「何で」書くか、「何に」書くか、組み合わせ次第で無限に広がる文房具の世界。「正解がひとつじゃないのも文房具の魅力です」と東根さんは語る。『八文字屋』の店内は、季節の新商品はもちろんトートバッグやポーチなどのオリジナル商品が所狭しと並び、訪れる度に宝探しをしているかのような感覚に。書籍や文具と一緒に家庭での寛ぎ時間を提供したいと、山形市青田にある『オーロラコーヒー』のコーヒーバッグも取り扱うなど、“開拓者”の歩みは止まることを知らない。山形のカルチャー発信基地が醸し出す挑戦的な気風は、300年経ってもなお、脈々と受け継がれている。

 

 

八文字屋 本店)山形県山形市本町2丁目4-11
営業時間/10:00〜19:00(年中無休)TEL / 023-622-2150

http://www.hachimonjiya.co.jp

2021年5月号(199号)
大人の筆箱計画。

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