特集の傍流
ベルウッドヴィンヤード 代表取締役:鈴木智晃さん
山形県上山市
トンネルを抜けると、蔵王連峰を望む丘の上にたどり着いた。のどかな空気が流れる上山市久保手地区は、昔から良質なぶどうの名産地である。2017年、ここにはまだ開拓が始まったばかりのぶどう畑が広がっていた。そのなかで夢を語ってくれたのは、県内のワイナリーで19年間の修行を積んだのち、新進気鋭のドメーヌとして歩み始めたばかりの鈴木智晃さん。あれから4年経ったいま、彼の夢はどんな進化を遂げたのか。

2017年11月号「やまがたワイン考」より。後継者のいないデラウエア畑を引継ぎ、隣接する耕作放棄地に欧州系ぶどうを植樹。自社醸造に向けての一歩を踏み出した当時の鈴木さん。
「気軽に立ち寄れるワイナリーを」4年前の言葉が実った瞬間
鈴木さんが運営するワイナリー『ベルウッドヴィンヤード』では、原料栽培から醸造、販売まですべて一貫して自らの手で行なっている。これは独立時に鈴木さんが憧れ、目指していたスタイルそのものだ。就農して1〜3年目は、『秋保ワイナリー』、『月山ワイン山ぶどう研究所』、『イエローマジックワイナリー』で委託醸造を行いながら、各所でノウハウを吸収した。「もちろん、それぞれのワイナリーで設備や醸造方法は違ってきます。さまざまなアプローチを見て、体験できたことはとても勉強になりました」と鈴木さんは話す。

厳選したワインを熟成する倉庫での検品。ここに貯蔵されたワインは約1年後にお披露目とのこと。

独立前のワイナリー在籍中にコンテストで幾多の受賞歴を誇るキャリアを持つ鈴木さん。その時の経験と技術がいまにつながっている。
そして、自治体のプロジェクトやクラウドファウンディングで支援を受け、徐々にぶどうの栽培面積を増やし、より高品質な原料の収穫を目指した。2020年3月には、晴れてワイナリーが完成。そこからも勢いは止まらず、6月に果実酒製造免許を取得し、9月から自社醸造を開始した。ワイナリーの公式オープンと、初の自社醸造ワインを発売したのは11月14日。運命的にも自身の誕生日だったという。「2017年当時もいまも、ぶどうを栽培してワインを造る、とやっていることは同じですが、夢がちょっとずつ叶っている実感はあります」と、鈴木さんは顔を綻ばせた。

インダストリアルな雰囲気のワイナリーでは土日限定でワインの直売も。来客との交流を大切にしているという。

真鍮でできたサインは鈴木さんのこだわり。エイジングの風合いもだんだん味になっていく。デザイナーから施工業者まで全て“山形人”に依頼。
豊かな山形のローカルカラーをワインという便りに乗せて
渋みと旨味が凝縮された赤ワイン、すっきりと爽やかな白ワイン、ほかにもロゼワインやオレンジワインなど、年数が経つにつれオリジナルワインの幅は広がり、よりやりがいを感じているという鈴木さん。ベルウッドヴィンヤードのワインは、毎年同じ規格品のようなテイストを目指すのではなく、それぞれのぶどうが持つ味わいを生かすことに拘っており、そこから生まれる彩り豊かなラインナップは、ファンの心をしっかりと捕らえている。「ワインは農産物です。ぶどうのポテンシャル、その年の気候、その土地がもつ個性が色濃く映し出される飲み物。それを引き出すのが僕の仕事です」と鈴木さん。

2017年当時、委託醸造の1種のみだったオリジナルワインは13種まで増えたそう。ラベルにロゴを冠しているものは定番シリーズの「コレクション クラシック」。久保手地区の風景とワイナリーが描かれているものは微発泡タイプの「コレクション ヴァン ペティアン」。口に含んだ瞬間にぶどうの味がダイレクトに広がる。
いまはワイナリーで試飲ができるよう準備を進めているという。これも2017年当時に語っていた夢のひとつだ。憧憬のままで終わらせず、夢の実現に向けて一直線に突き進む鈴木さんの姿は誇らしく、眩しい。「これからは上山産ぶどうの原料比率をどんどん増やしていきたいですし、やりたいことは全然尽きなくて。いろいろ試行錯誤して、そのなかから手応えを感じたものをブラッシュアップして突き詰めていきたいです。あえて量は作らず、納得できる“いいもの”だけをお届けできれば」と語る鈴木さんの表情は充実感に満ちている。
ワインラベルに切手があしらわれているのは、「ワインはワイナリーからのお便り」というメッセージが込められているからだ。「いいものを造って届けたい」と独立時に掲げた志は、変わらず彼の言動力となっていた。
ベルウッドヴィンヤード)山形県上山市久保手字久保手4414-1
営業時間/11:00〜16:00(土・日・祝のみ営業)TEL /023-674-6020

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