特集の傍流

2021.6.29

やまがた水伝説 その壱 三淵渓谷

2021年7月号(201号)水に導かれて。
最上川リバーツーリズムネットワーク
山形県長井市

-竜神となった卯の花姫の慈悲を水面に移して。

 

光と影、伝説が織りなす奇跡の景勝地

 長井ダムの百秋湖上流にある三淵渓谷は、市内西部にそびえる朝日山系の地内にあり、地殻変動が繰り返されたことによって生まれた奇跡の景観をいまに伝えている。特異な地形も相まって、三淵渓谷を源流とする野川はかつて大変な暴れ川だったという。大雨が降るたびに甚大な被害を及ぼし、それゆえにこの地の人々は水の神様を厚く信仰してきた。
 現在、三淵渓谷を訪ねるにはボートで行くほかなく、最上川リバーツーリズムネットワークでは「ながい百秋湖ボートツーリング・三淵渓谷通り抜け参拝」として、この特別な体験をサポートしている。

 

硬質の花崗閃緑岩のためその崖は垂直に切り立ち、断面は函状になっている。この神秘的かつ珍しい光景は、遥か遠い時代からの風化侵食によって描かれた天然の彫刻のようだ。

 

ダイナミックな景観に圧倒されながらガイドが操縦するボートはさらに奥へ。

 

光を浴びて漆黒に輝く岩肌。模様はまるで天然のアート。花崗岩から形成されるその岩質は極めて硬いという。

 

水没する前に三淵神社があった場所で現在は立ち枯れした杉の木が残る。ダム建設とともにお宮は山の上に移された。参拝するには湖上の桟橋でボートを降り、急な山道をロープを伝いながら登山するほかない。

 

現在はコロナウイルス感染症対策のため、ボート一艘貸切で全便運行している。

 

小国町と長井市の境に位置する、標高 1250mの「三体山」。かつてはこの山中に長井の商人たちが街道を築き、新潟まで特産品を運んでいたという。

 

ながい黒獅子舞の発祥「卯の花姫伝説」

 物語は平安時代後期。陸奥の豪族であった安倍貞任は長井を戦の要所と定め、愛娘である卯の花姫を遣わして統治させていた。そこへ源頼義の軍が攻め入ってくる。のちに奥州十二年合戦(1051〜1062)と語り継がれる激戦の最中、頼義の長男である義家は卯の花姫に「戦は我が本心ではなく朝廷の命によるもの。貞任将軍が降伏してくれれば安堵が保たれる。然るべきそののちには姫を妻として迎え入れたい」と何度も誓紙を送ったという。義家に密かな恋心を抱いた卯の花姫はこれ以上の流血を避けるためと義家に軍法を漏らしてしまう。すると父・貞任は討たれ、義家からの便りも途絶えてしまった。卯の花姫は「父を殺したのは、義家に騙された私だ」と嘆き、三淵の底へ身を投げたという。

 

 長井市内で語り継がれている伝説では、命果ててなお里の無事を案じる卯の花姫の御霊が、三淵の龍神と融合して獅子となったと伝えられている。その所以として、獅子ながら顔には鱗の名残りがあり、髭を携え、蛇のように長い体躯をしているそうで、長井の人々はこうした神秘の谷にまつわる伝統を大切にし、神事である「黒獅子舞い」を守り続けているのだ。5月下旬の祭りの前に必ず雨が降るのは、この黒獅子が川の水を増やし泳いで降りてくるからだとか。そんな愛郷の念に思いを馳せながら水面を覗くと、澄んだ湖底のその奥に横たわる大きな影が-。あれは常世の美しさが魅せた幻だろうか。

 

 

三淵渓谷(長井市)

長井ダムの人工湖。百秋湖の上流部にある渓谷。高さ50mを超える断崖が200m以上続く絶景スポットとして注目されている。参拝するための手段はボートのみ。湖上で祈りを捧げるという神秘的な体験が魅力だ。ボートツアーについて詳しくは下記リンクまで。

〒993-0062 山形県長井市川原沢

 

ながい百秋湖ボートツーリング公式ホームページ

https://manabikan.wixsite.com/boat

2021年7月号(201号)
水に導かれて。

この記事の電子版ブックを読む

関連記事

上へ