特集の傍流

2021.8.12

新たな羊肉文化の発信者、「羊」に惚れた山形人。

2021年9月号(203号)山形で羊を語る。
羊肉のなみかた:行方進之介さん
山形県米沢市

 山形で馴染みの羊肉料理といえば「義経焼」、そう答える人も多いだろう。にんにくの効いたあの味わいはまさにソウルフード。今回の特集でも真っ先に名前が上がり、その原点を探るべく米沢へ向かった。

 

米沢市民から半世紀以上愛されているソウルフード「義経焼」。醤油ダレでいただくジンギスカンとは違い、にんにくの効いた味噌ダレが特徴。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

1万年以上前から食べられていた羊肉の歴史。

 羊肉専門店の4代目、若き社長の行方進之介さんは、羊肉に対する並々ならぬ探究心と行動力から、2019年に世界を一周巡った経験を持つ。
 「羊と関係の深い国にはほとんど行ったと思います」とさらりと話してくれたが、約半年かけて45ヵ国もの国々を訪問したそう。そこでの経験を当地の美しい写真とともに綴ったウエブコラムが話題となり、料理専門誌での羊肉特集や全国紙のカルチャー系マガジンで取り上げられるなど、羊肉界では一目置かれる存在に。
 「人類最初の家畜は羊だといわれています。その起源は古代メソポタミアあたり、約1万年もの歴史があります。世界には数えきれない羊料理や人と羊との深い結びつきの文化がある。そのことを自分が身をもって経験し、世界基準の目利きができるようになること、それが現代に生きる私の使命だと思っています」と話す。

 

アルゼンチンにて。強風が吹き荒れ荒涼とした土地で育つアルゼンチンの羊は、運動量が多いため旨味ののった肉に仕上がるそう。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

オーストラリアでは、3,000頭の羊を飼育する家族経営の牧場に1週間ほどファームステイした行方社長。見回りや移動、選別作業を経験。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

羊肉と関係性が深い国はほとんど制覇。

 「言葉はiPhoneの通訳機能を駆使してなんとか。レンタカーで車中泊をしながら移動して、訪ねた先々の牧場で働かせてもらったりするなどしては旅を続けました。様々の羊料理や、羊と共に生きる人々と触れ合えたことはとても貴重な経験でした」と行方社長。

 

中央アジアのキルギスでは元遊牧民に吊り下げ式屠畜を教わったそう。ここでは選び方、屠畜、解体、調理を経験。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

モンゴル人は遥か昔から羊を常食とする羊肉のプロ。遊牧民と馬に乗り羊を捕まえて屠畜し、伝統料理の作り方を習ったとのこと。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

 帰国後は自社のウエブサイトに羊旅コラムを執筆するだけでなく、世界中の羊肉料理法を紹介するなど、知り得た体験を惜しげもなく公開。また自社の食肉部門では羊肉を使ったカレーや羊乳を使ったデザートといった新たな商品開発にも取り組み、未知との美味しい遭遇を提案している。「日本で食べられる羊肉を世界基準に、その距離を縮めたい」と奮闘中だ。

 

「羊サーロインのユッケ」。マトンの赤身だけを贅沢に使用。特性のユッケだれと卵を絡めて。※めえちゃん食堂で提供中。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

「ハニーペコリーノのカッサータ風」。イタリア産羊乳チーズと国産蜂蜜を使用したシチリア伝統のアイスケーキデザート。※めえちゃん食堂で提供中。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

「羊乳チーズとはちみつのジェラート」。口に入れた瞬間にイタリア産の羊乳チーズの豊かな香りとコクが優しく広がる。ほんのり塩気もあり、オリーブオイルと相性抜群だ。濃厚かつ軽やかな逸品。※めえちゃん食堂で提供中。羊肉店でも持ち帰り用を販売。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

救済を願って始めた初代、受け継いだその先は。

 『羊肉のなみかた』の創業は1958(昭和33)年。緬羊の需要が羊毛から食肉へと切り替わっているなか、農協職員として働いていた初代が困窮していく羊農家の助けになりたいと一念発起。まだ羊肉を食べる習慣のなかった米沢市で、自宅の一部を改装し、たった2坪の店舗を開いたという。
 「農協職員の時代から料理好きで、羊農家さんから分けてもらった羊肉を独学で調理して振る舞っていたのがそもそもの始まりのようです。オリジナルのたれを作るなどして仲間内では評判だったとか」と行方社長。「そうやって仲良くしていた農家さんたちが、羊毛が売れなくなって落ち込む様を見過ごせなかったのでしょうね」とも。「しかし創業当初は大変苦労したそうです。先代が幼い頃はだいぶ苦労をしたと聞いています」と。

 

なみかた羊肉店創業当時の店舗と初代の行方貞一さん。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

 この窮地を打開すべく、初代が試行錯誤の果てに1960(昭和35)年に生み出したのが“義経焼”だ。まず雪深く、寒さの厳しいこの地で好まれている調味料・味噌を使うことに。そして羊肉の独特の香織をにんにくで調和し、米沢産のりんご「紅玉」を使用して甘みとコクを加えた。このピリリとした刺激と旨さは、置賜一円の人たちにことさら愛されている。また羊肉が薄切りのスライスである点も特徴的だ。当初は切り落とし肉の活用だったかもしれないが、馴染みの薄かった羊肉が食べやすくなり、結果的に功を成したのではと推測できる。

 

なみかた羊肉店の代名詞でもある「義経焼」。にんにくの効いた味噌ダレが羊肉とベストマッチ。

 

秘伝のタレをまとった羊肉のコクと、野菜の甘みでご飯もどんどん進む。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

義経焼がヒットし、米沢グルメとして定着し始めた昭和40年代頃。二代目と当時のスタッフが並んで写っている。(写真提供:羊肉のなみかた)

 

 そして義経焼というネーミングもまた印象に残る。「初代は源義経が北方から海を渡って大陸を目指し、モンゴルのチンギス・ハーンとして名を馳せたという伝承を信じていたそうです」と行方社長。モンゴルでは羊を余すことなく活用し、古くから共に支え合って生きてきた。初代がその名に込めた想いは、地元で愛される料理、郷土との深い結びつきに対する羨望であり、その願いはまさしく受け入れられたと言って過言ではない。
 2代目、3代目と紡いできた羊愛ゆえの挑戦と探究。いまその舞台を4代目が世界へと繋ぎ、新たな羊肉文化の発信者として駆け抜けている。

 

 

なみかた羊肉店 めえちゃん食堂)山形県米沢市東2-1-30

営業時間/羊肉店:10:00~19:00(毎週月曜日と第一・第三火曜日休)、食堂:17:00~22:00(毎週月曜日と第一・第三火曜日休)

TEL /羊肉店:0120-355-229、食堂:0238-24-6887

お取り寄せ可能なオンラインショップも営業中。(下記URL)

https://www.umai.co.jp

2021年9月号(203号)
山形で羊を語る。

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