特集の傍流

2021.10.4

大蛇の子孫が拓いた土地、生居へ。「上山生居の七不思議」

2021年10月号(204号)黒木あるじが訪う〇〇の七不思議
黒木あるじさん、尾形宗一さん
山形県上山市

 大井沢、八ツ沼、貫見……県内各地に七不思議は多々あれど、上山市生居に伝わる七不思議はとりわけ興味深い。なにせ生居という地名自体、七不思議が由来だとされているのだ。七不思議のひとつ〈化け石〉には「石が尾形権左衛門という男に握り飯をねだり、その礼として子孫繁栄の力を持つ小石を投げた」との逸話が伝わっている。権左衛門が小石を自宅の池に沈めたところ、多くの〈小石〉を生んだという。この謂れから「生きている石=生石」が生居へ転訛したとの説がある。真偽は定かではないものの、そのような謂れに納得してしまう空気が、生居には漂っている。

 

今回一緒に訪ね歩いたのは山形市在住の小説家、黒木あるじさん。

 

 権左衛門の家は現在、「旧尾形家住宅」の名称で国指定の重要文化財となっている。藩政時代に庄屋を務めた尾形家にもまた、以下のような奇談が残る。

 

《その昔、尾形家へ見知らぬ若者が毎夜やってきては娘と逢瀬を重ねていた。若者の正体を訝しんだ家族はある夜、彼の袴へ糸を通した針を刺し、あとを追った。すると糸は山奥の洞穴まで続いており、そこでは1匹の大蛇が苦しんでいるではないか。以来、尾形家では自分たちの先祖である蛇を殺してはいけないのだという(『民間伝承30巻3号』)》

 これは「蛇婿入/苧環型」と呼ばれる異類婚姻譚(人間と獣が結婚する話)の一種で、『古事記』や『平家物語』にも記されている。また、宮城県気仙沼市にも上山市の尾形家とほぼおなじ伝承が伝わっており、蛇神が「我が子に尾形三郎惟義の名を与えよ」と告げたとされる。尾形三郎は鎌倉時代の武将で、『平家物語』には「恐ろしい者の子孫」と書かれている。それが転じて蛇の子孫とされたのだろうが、なぜ気仙沼の伝承が上山でも共有されているのか、生居と蛇神はどのような関係があるかは謎に包まれている。ともあれ、いにしえの壮大なロマンが隠されていることだけは確かなようだ。

 

上層農家、大庄屋として栄えた『旧尾形家住宅』にて。家構は17世紀末の建築とみられ、昭和44年に国の重要文化財に指定された。

 

地域の子どもたちに読み聞かせたという紙芝居。

 

ここで生まれ育ったという第72代目当主の尾形宗一さんから話を伺った。

 

いまも尾形家の池の底には子持石が眠る。

 

奇石と清水に歴史が宿る悠久のミステリースポット

 歴史の断片が、悠久の時を経て七不思議に変化した-。そんな想像を巡らせると、地域へのまなざしも一変する。尾形家周辺には化け石のほかにも〈むかさり水〉や〈三度栗〉などの史跡がいまも残っている。ぜひご自身の足で散策しながら、なんとも不思議でなつかしい生居の空気を感じていただきたい。

(文:黒木あるじ)

 

上山生居の七不思議

生居地区へは国道13号から県道264号へ入り宮生郵便局を左。観光の際は住民の迷惑にならないようご配慮ください。

 

❶むかさり水

遠い昔、ここに水の溜まり場があった。この清水は大雨が降っても濁らず鏡のように透き通る美しい水であった。ある時この土地に嫁いだ花嫁行列の花嫁が、この清水を使ってお歯ぐろをつけ、水鏡を使って化粧をしたら一段と美しくなった。以来、むかさり※水と呼ばれるようになったという。

※山形県村山・置賜地方の方言で結婚の意。

 

上生居の住宅地内に流れ込んでいる清水。周辺の家々4軒共同の用水路として古くから使われ、現在も受け継がれている。

 

真夏日でも湧水は冷たく滑らか。口に含むと柔らかくほんのり甘さを感じた。

 

おそらく「むかさり水」と書かれた看板。

 

❷三度栗

かつて上生居公民館のあたりに坊があり、慈覚大師が東北巡錫の際、蔵王越えで使った栗の木の杖をここに忘れていったという。すると翌年芽が出て、春夏秋と花が咲き、3回も実をつけた。天保年間の上山名産名所番付では前頭二十七枚目に格付けされている。

 

上生居公民館のあたりにある「三度栗」。すでに栗の木の姿はなく、現在は上生居観音堂が立つ。

 

お堂のすぐ裏に大きな切り株があった。もしやこれが栗の木か?

 

傍には奪衣婆と子育て地蔵尊の姿も。

 

❸お花畑

弘法大師が上山葉山を高野山のように開山しようとしたが、沢がひとつ足りなく諦めたといわれている。それで休んだ所が不思議と四季を通して花が咲くようになったという。天保年間の上山名産名所番付では前頭二十三枚目に格付けされている。

 

中生居地区の山中にあり、詳細な場所は地元のかたも分からないそう。

 

❹明見坊と坊の入

かつてこの地にあった明見坊という坊の住職が、災いが続いた際、それを封じるためお経などを埋めたところ治まったという。またこの辺りは坊の入沢と呼ばれ、四つ足の動物を入れると厄が出ると信じられている。

 

「明見坊と坊の入」は中生居地区の一角の山林を指す。残念ながら付近は休耕地となっており車での乗り入れも不可。山村側と結界のように隔たれた「坊の入」山道口。

 

山林に祀られた社を発見。

 

❺ころころ清水

大岩からコロコロと音のする水が流れ出ており、その音は隣村まで聞こえるほどだった。ある座頭が突いたら静かになった説も。

 

赤段山の麓の村と小川。

 

❻葉山権現と妙見菩薩

通称風穴と呼ばれた場所があり年中風が吹いている。その昔この穴より葉山大権現と妙見菩薩の2人の童子が現れたという。

 

下生居から山頂にある葉山神社を目指す参道から行くとのことだが、地元の人でも探索は困難だという。その昔には、この風穴に蚕種をかこい大切に守られていたとも。

 

❼化け石

尾形権左衛門が夜遅くこの大岩の前を通ったとき、闇のなかから「私にはたくさんの子どもがいて飯を食べさせることができず困っています」と声がした。気の毒に思った権左衛門は握り飯を供えたという。

 

下生居の県道264号沿い旧宮生小学校の東隣り。化け石と子持ち石の由来が書かれた看板が目印。

 

化け石と対峙する黒木先生。大きく、独特なフォルムをした化け石はまるで魂を宿しているかのよう。

 

2021年10月号(204号)
黒木あるじが訪う〇〇の七不思議

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