特集の傍流
慶応義塾大学先端生命科学研究所所長、医学博士、工学博士:冨田勝さん
慶応義塾大学先端生命科学研究所(鶴岡市)
世界の誰も成し遂げたことのないプロジェクトに挑み続け、幾多の壁を乗り越え、既存の常識を打ち破る人たちがいる。『ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ』、『サリバテック』、『メタジェン』、そして『Spiber(スパイバー)』。山形から世界を変えうるほどの推進力を持ったこれらの企業はみな、鶴岡市にキャンパスを構える『慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)』から生まれたベンチャー企業である。
ベンチャーはアドベンチャー、冒険がブレイクスルーの鍵。
「ブレイクスルーは人と同じことをやっていては絶対出てこない。アカデミックベンチャーのベンチャーはアドベンチャー。うまくいくかどうか分からない、でもうまくいったら大発見があるかもしれない。冒険が重要なんです」と話すのは冨田さん。『慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)』の所長であり、日本を代表する生命科学者だ。
同所は現在、細胞シミュレーションやメタボローム解析の分野における世界的パイオニアとして注目されている。これは究極の成分分析技術であり、この技術を使えば血液、尿、唾液などから容易に健康状態を把握することが可能になるという。そうすれば病気の早期発見に役立つほか、予防や健康状態のモニタリングなど多様な分野での活躍が期待される。また、NASAや米軍でさえ開発を断念したといわれる、世界で最もタフで強靭な繊維である「クモの糸」の人工合成にも世界で初めて成功している。人工合成クモ糸素材「QMONOS(TM)」は、石油を原料としない、タンパク質を原料とした新しい素材として無限の可能性が期待されるとともに、脱石油社会の実現に向けた熱い視線が注がれている。

QMONOS(TM)紡糸の様子。これを用いた「MOON PARKA」は「THE NORTH FACE」との共同開発プロトタイプとして発表された。(提供:Spiber/上4点写真)
「最先端の学問分野においては教授も学生も一緒に勉強しなければなりません。本所も福沢諭吉の〝半学半教の精神〟に基づいて年功序列的な雰囲気を一掃し、教授、若手研究者、学生が一体となって成功を喜び、失敗を悲しみ、学び、語り明かします」。そう語る冨田さんは、研究の手段や方法、実現の可能性も、教授や学生が各自で考え、意見を言い合い、試行錯誤を繰り返しているのだと話してくれた。
「上司が部下にテーマを振り分けて、全体を回していくことが研究所でよく見られるメジャーなやり方です。しかし、研究テーマの設定は、各自で行うことが大前提です。テーマを考えることが一番面白く、かつ、一番重要なんです。それを上司や教授が決めてしまっては面白くないですし、テンションも上がりません。私は、テンションを重要なことと考えています。エキサイトできるかどうかが大切なんです。
研究を行うときには、〝面白そうだから〟という動機が最初にあります。最初から、人類のために貢献したいと思って、ではどういう研究をしたらいいかと考える人間はいないと思います。しかし、この研究にはこういった良いことがあるのではないか、上手くいけばこんな風に人類の役に立つのではないかということを常に心に持っておくことが、テンションを上げる良い方法だと思います。その“テンション”を持つということが、自分たちが取り組んでいる研究分野をいろいろな研究に広げていけるんですね。そういう研究開発型、創造的な仕事をここ鶴岡でやることに大きな意味があると確信しています」と冨田さん。
ビーチまで15分、スキー場まで30分という、自然豊かな環境がかつてない発想を育みます。
「先進国の大学はみんな地方都市にあるんです。オックスフォード然りケンブリッジも。昼間は最先端の研究や仕事をエキサイティングにやり、夜と週末は自然豊かなスローライフ。こんないい環境はない。けれど多くの人々は、大都会にいるのが格好良い、地方は格下だと思っていますよね。そう思っているうちは、地方は再生しません。だからここに成功例を作ることがいまの日本にとって必要なこと。しかも山形はお酒がおいしい。独創的なアイデアは会議室じゃなく酒席から生まれる、これは私の信念です。都市圏に集中する日本のアカデミズム・サイエンスの在り方へも一石を投じるチャレンジをしています」。
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