特集の傍流

2016.5.12

地球を出て宇宙へ、チャレンジの連続がブレイクスルーを生む。

2016年6月号(140号)ブレイクスルーの鍵
山形大学大学院理工学研究科機械システム工学分野教授:妻木勇一さん、教授:峯田 貴さん
山形大学工学部大学院理工学研究科(米沢市)

「太陽系や生命がどのように誕生して進化してきたのか」その謎の解明に迫るという世界中の夢と期待を背負って宇宙を旅する「はやぶさ2」。2018年夏に小惑星「リュウグウ(Ryugu)」に到着し、およそ18ヶ月間滞在後に小惑星のサンプルを持って2020年末頃に地球へ帰還予定、じつに6年もの「長旅」だ。

 

この小型探査ロボットの開発に、山大工学部のふたりの教授が関わっている。山形大学工学部デザイン・ロボティクス分野の教授である妻木勇一教授と峯田貴教授。このふたりが、2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された4台のローバー(探査着陸機)のうち1台を手がけたのだ。「我々が参加した大学コンソーシアムで作ったローバーは小惑星に投下されます。小惑星の重力はとても小さいので、その小さな重力のなかでも移動できる新しい機構を検証することが目的です」と妻木教授。

 

ローテクノロジーが、宇宙開発の革新技術へ。

「小惑星では太陽光が当たる面は100度を越え、逆に夜になると零度以下まで下がります。このサイクルが地球でいう1日の約1/3、だいたい7時間ごとにやってくるんです。その温度差を利用するために、膨張率の違う金属板を張り合わせたバイメタルを使った移動機構を考えました。バイメタルは、こたつの温度センサーにも使われている昔からある身近なものです。私たちはこの機構を環境駆動型と呼んでいます」と教えてくれた。

 

地球とは違う環境、それもかなり厳しい条件を逆手に取った発想は、まさしくブレイクスルー。そこにはもうひとつ、注目したい点があった。それは、教授は「身近なもの」という表現で紹介してくれたが、メカの動作の基本的な考え方が、時代の最先端をきる最新テクノロジーではなかったということだ。「具体的には、2世代くらい前の技術になるでしょうね」。途方もない遠方で、いざというときに動かなかった…これは絶対に許されない。だからこそ、間違いないのない仕組みが求められ、選択されたのである。

 

ロケットにローバーを搭載するにあたり許された重量の話も興味深い。1台わずか30グラムだそうだ。この条件をクリアするためには、素材や構造などに最新の技術が投入されているのはいうまでもない。
すべては、確実にミッションをこなすため。いたずらに新しさばかりを追い求めるのではなく、発想の転換や柔軟性が求められる。このあたりに科学の難しさ、そして面白さを感じるのだ。

 

教授たちが開発に参加したローバーの動力源は、小惑星の寒暖差を生かし電力を使わない実にシンプルな構造で、大きさは手の平に収まるサイズだ。©大学コンソーシアム

 

研究している技術の将来性、転用は?

妻木教授は宇宙から深海まで、ロボットを遠隔操作するテレロボット工学が専門。峯田教授は、分子・細胞から宇宙までを目指す、マイクロマシンが専門だ。ちなみにマイクロマシンがどれくらい小さいのかというと、将来的には人間の血管に投入され、体の中から治療を行う…まるでSF映画のような話も開発の視野に入っていると教えてくれた。

 

デリケートな農業事情の改善にテクノロジーの方向から挑むことは容易ではないが、両氏の熱意には明るい兆しが垣間見れた。

 

「ベースがあって技術が生まれて、別なものへ広がっていくんですね。たとえばいま、ふたりが協力して携わっている研究のひとつに、サクランボを収穫するロボットがあります。技術は異なりますが、制約条件のなかチームで解を見つける点は同じ。今回の経験が生きています」と妻木教授。

 

ところで、なぜサクランボの収穫ロボットなのだろう。開発にあたってサクランボ農家にヒアリングしたところ、みなが口をそろえて「機械化は無理」と言ったらしい。というのも、サクランボ狩りを思い浮かべて欲しいのだが、茎ごと、枝から生えている方向を考えながら収穫する必要がある。繊細にして大胆、とでも表現しようか。そのニュアンスは、口で説明することすら難しい。それを機械にやらせようというのだから、簡単なことではないのだ。

 

「じつにチャレンジングです」。それは、難しい課題だから?もちろんそれもあるだろう。しかしながら、教授たちの意欲を掻き立てる要素がもうひとつあった。それは、収穫の機械化を待ち望むサクランボ農家の熱意である。そしてその陰には、私たちが知らなかったサクランボ農家の現実があった。サクランボ生産高全国ナンバーワンの山形県であるが、その陰で、多くの農家がある悩みを抱えているという。短期間に集中する収穫作業を少ない労力で無理を押しながらこなさなければならない、という問題である。危険できつくて大変な作業であるうえに、高齢化や後継者不足が拍車をかける。収穫の自動化は、その対策として熱望されたものだったのである。「地域農業の未来のために、これはひと肌脱ぐときだ」研究者たちの心を動かすのに、十分な理由がそこにあった。

 

「はやぶさ2に搭載したローバーの機構も、温度による動きをいかに瞬発力に変えるかが課題でした。そういう技術は、地上でも廃熱を利用した発電などにも応用が期待できます」と峯田教授。未来を彩るさまざまな技術が、日々、研究者たちの手によって進化を続けているのである。妻木教授が「自分たちの研究が人の役に立てればそれ以上いうことはない」と話す横で、峯田教授が大きく頷いた。異なる専門分野のふたりが連携することで倍以上の力となり、ブレイクスルーを生み出したといえる。

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