特集の傍流

2016.6.3

開けた山腹に鎮座する樹は、森に君臨する、神を顕現した姿。

2016年7月号(141号)いざ、癒しの地へ。
東法田元気な村づくり協議会 事務局長 柴崎幸正さん
最上郡最上町東法田

最上町東法田にある「権現山の大カツラ」。ここ一帯は昔、ツキノワグマの通り道とされ、約300年前にたまたま通りかかったまたぎによって発見された。幹回り20メートルという大きさは、2001年の環境省の発表により日本一のカツラと認定され、巨樹全体でも6位という規模を誇る。樹齢は1000年以上と言われているまさに日本最大級の巨木である。

 

昔から慣れ親しんできた山の案内人

取材を受けてくださったのは東法田元気な村づくり協議会事務局長である柴崎幸正さん。同時に柴崎商店というお店を営んでいる。小さな頃からこの東法田地区に慣れ親しんできた柴崎さんにとってはこの一帯の山も身近にあったものだという。大カツラについて、どんな印象を持っていますか?と尋ねると、「やっぱり大きいな、とは思うけどな、どうとかはねえな。」と見慣れているからこその回答だ。どんな人が見にきますか?という質問には「樹の力強さを感じてパワーをもらえるってんで来るんだべな。」この日の取材から数日後も、県外から来る登山客を権現山に案内する予定だそう。ただ、この日は急な取材だったため一緒に大カツラを見ることはできなかったが、柴崎さんとの山登りはさぞかし楽しい時間であるだろうと、その語り口から想像できた。

 

権現山や最上地方の山について語ってくださった、東法田元気な村づくり協議会 事務局長 柴崎さん。

 

いざ、権現山へ。

我々編集部のみでも大カツラを見ることは可能とのことで、最上町役場農林課の菅嶋さんに登山入り口まで車で案内をしていただいた。五月下旬の初夏の陽気、のどかな田園風景、さすが森林面積8割を誇る最上町と言わんばかりの豊かな木々を眺めながら、森の中を数分程度進むと「権現山の大カツラ 入り口」という看板にたどり着いた。近々草刈りをして整備をするという話だったが、すでに誰か登った跡があり、草がかき分けてあった。菅嶋さんによれば、この跡に沿って道なりに登っていけば辿り着けるとのことだった。

 

img_bo_141_7243

途切れながらも木道はあるが、傾斜がきつい道のり。

 

いよいよ大カツラまで約40分のトレッキングスタートだ。しかし、想像していた以上に厳しい道のりとなった。誰かが登った痕跡があるとはいえ、他より少し草が踏み分けられたくらいの道だ。かすかに湿り苔が生えた水の流れていない沢を渡り、倒れた木と地面の隙間をくぐり抜けながら、傘を杖代わりに段差、斜面を一歩一歩踏みしめながら登る。時折後ろを振り返ると思いの外自分たちが高い場所にいることに気づく。汗だくになったが、新緑の季節、立ち止まり、休憩した時に吹き抜ける風が爽やかで気持ちが良い。さらに先へと進んで行く。「大カツラまで10分」という道のりを知らせる目印を発見し、最近設置したと言っていた木製の階段とロープが見えた。まだ10分か、もう10分か、またしばらく登っていく。必死に転ばないように下ばかりを見ていたが、ふと顔を上げ、目線を横に向けると、そこには明らかに他の木々とは一線を画す荘厳な大樹が在った。

 

img_bo_141_7257

張り巡らされた巨大な根に息をのむ。

 

空に向かって龍のように伸ばす枝の複雑な造形は、想像し得ない悠久の時間を経て形成された人間では到底為し得ない業だろう。中心には大人も入れるほどの空洞があり、その幻想的な光景に拍車をかけている。思わず手を合わせ拝みたくなる存在感があった。幹なのか、根なのか、過去に存在していた折れた木の枝なのか、わからないほど複雑に入り組んだカツラの足元をぐるりと一周する、そして見上げる。登山での疲労感、それ以前にあった日常の「疲れ」などちっぽけなことのように思えたたのだ。「日本一」と称されるほどの威厳と雄大さがそこには確かに存在していた。

 

img_bo_141_7259

クマの通り道とも言われていた、大カツラの幹の空洞。

 

たくましい生命力を誇る深い森の巨人たち

国土の約7割と、先進国では有数の森林国である日本。山形県最上地方もまた、総面積の約8割が森林であり、その豊かな森には全国的に注目されるほど数多くの巨木がある。ちなみに巨木とは、環境省の定義では地上から約1.3メートルの位置の幹まわりが3メートル以上の木を指す。両手を広げた長さが身長と同じとして、最低でも二人以上でないと囲めない大きさ。近づくと視野からあふれてしまうほど見事な枝ぶりは、たくましい生命力を誇る森の巨人というに相応しい。いったいどれくらい昔からこの場所にあるのだろうと、想像を膨らませながら、ただただ感心するのである。

 

山神様の御神木として守り育てられた「大アカマツ」

最上町東法田地区には大カツラの他に、樹齢が500〜600年とも言われるもうひとつの日本一の巨木「大アカマツ」がある。山道を5分ほど登ると斜面に太く根を張り、幹から三つ分岐し空に向けて広がるように大きく枝を伸ばしている。同じ地域に存在する二つの「日本一」は、そのどちらも冠された名に相応しい風格があった。

 

img_bo_141_7265

関連記事

上へ