特集の傍流
地域全体でつなぐ伝統、古より高級織物の素材に使われた植物繊維。
青苧復活夢見隊 代表 村上弘子さん
青苧復活夢見隊(西村山郡大江町)
青苧(あおそ)という植物をご存知だろうか。
青苧(あおそ)とは、古くから着物の素材となる繊維を採るため栽培された、山野、特に人家近くに生えるイラクサ科の多年草だ。カラムシ、真麻(まお)、苧麻(ちょま)など、文献上の別名が多く存在し、採り出した繊維からは、素朴ながら水に強い丈夫な糸ができる。
江戸時代には、紅花と同じように最上川舟運で各地に運ばれ、富裕階級の単衣などに使われていた。一説では紅花より高値で取引されたこともあるというが、今日、自生した青苧は雑草扱いされてしまっている。

夏空の下、青々と葉を広げる青苧畑。
古く県内では主に置賜・村山地方で栽培され、中でも大江町は、高品質の青苧産地として名を馳せた。
というのも、村山地方では「月山の見えるところには紅花を、見えないところには青苧を植えよ」と伝えられてきた。風に弱い青苧は、地味の肥えた山の麓などの傾斜地での栽培が適しており、このような小盆地をなす地形は、比較的風が弱い。大江町をはじめとする山間の農村一体は、青苧にとって好条件がそろった環境だったのだ。
しかし明治以降は養蚕が盛んになり、栽培は衰退の一途をたどった。
そんな、繊維にする工程も分からなかったという青苧を蘇らせ、人々に触れてもらいたいと活動しているのが「青苧復活夢見隊」だ。元大江町職員である村上弘子さんをはじめとするメンバーは、青苧の植栽から糸づくり、機織りまで一貫した技術を習得している。
当初、青苧のことを全く知らなかったという村上さん。活動を始めたきっかけは、大江町歴史民俗資料館の管理を任されたとき、訪れた人に青苧を説明するにも、実物がないため不便を感じたことだったという。なんとか青苧を復活できないか。村上さんは、資料館の裏の畑に青苧を試験的に植え、研究を開始。地元住民に支えられながら、活動は今年で9年目となる。

青苧と麻はどう違うのかと訊ねたところ、「全く違います。そもそも別の種類なんです」と村上さん。麻とは正確には、青苧をはじめとした「糸をとる植物」の総称。青苧は「青麻」とも書くところから麻と呼ばれることもあるが、本来の麻とは全く別種の植物。本来は、植物の皮から取れた繊維を青苧と呼んだそうだが、現在では青苧という呼称自体が、繊維ではなく植物そのものを指して使われているようだ。
我々取材班は、青苧の刈り取り初日にお邪魔した。和気藹々と談笑しながら手を動かすメンバーの皆さんは、神社の境内で「苧引き(おひき)」作業の真っ最中。

メンバーが集まったきっかけは、元々は大江町橋上地区の老人クラブ「橋朗(はしろう)クラブ」のイベントが始まりだったとのこと。その後も、クラブの方が協力され、今に至るという。
「苧引き」とは、茎の皮を削ぎ落として繊維を取り出す作業のこと。その後、繊維は陰干しされ、数ヶ月にわたり乾燥される。
青苧は、栽培から繊維を取り出し紡ぎ上げ、製品となるまでに丸9ヶ月ほどかかるうえ、繊細な糸ゆえにどうしても機械化ができず、全ての工程が手作業にならざるを得ない。 一つ一つが機械に頼ることのできない、手間と根気のいる作業であるところも、衰退の一因なのかもしれない。

皮を剥ぎやすいよう、茎を2時間水に浸け、水分を含ませて繊維を取り出しやすいようにする。

メンバーの中には若い方も。大江町地域おこし協力隊 兼 伝承文化支援研究センター 地域研究員の高橋里奈さんは、学生時代の青苧との出会いから青苧の特徴まで幅広く語ってくださった。その語り口からは静かながら熱い想いを感じた。

作業用の茎は1メートル20センチ。長すぎても短すぎてもいけないのだ。

繊維を織物にすることも考えると、このくらいの長さが適当とのこと。

取り出された繊維の束。

青苧は灰汁(あく)の強い植物。それゆえに手が黒くなってしまう。取り出した繊維の先の方は弱くなってしまうが、より合せて結ぶと、かなり強い力で引っ張っても全く千切れることのない強靭な糸になる。

大江町歴史民俗資料館内の、青苧のコーナーにて。青苧から取り出した糸を紡ぎ、織り、つくられたバッグなどが常設されている。

素朴ながら、やさしい風合いの「青苧織(あおそおり)」。
人とのつながりが、 地域全体の伝統をつなぐ。
現在、メンバーを含め全体の作業者は25、6人。メンバーは、町内の小中学校と連携し、青苧を題材とした総合学習を充実させたり、次世代が青苧文化を実際に体験できるよう、地元の小学校の児童を対象に、毎年青苧刈り体験教室を開いたりするなど、青苧の記録を地域全体で残せるよう励んでいる。
「地元住民の支えがあってこそ、地元以外にも活動が知れ渡り、青苧が深く知られるようになりました。これからも人とのつながりを大事にしたい」と微笑む村上さん。その強い想いは、これからも人と人を結ぶだろう。
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