特集の傍流

2016.8.9

在るものを輝かせる、技と感性の交編。

2016年9月号(143号)紡いで織りなす想い。
米富繊維株式会社 代表取締役社長/Coohem ディレクター 大江健さん
米富繊維株式会社(山辺町)

米富繊維株式会社の社長であり、自社ブラント「Coohem」のディレクターでもある大江健さん。自社ブランドの生地で作られた手帳を持ち、今秋のコレクションからスタートするというメンズのジャケットを身にまとい、ブランドに込められた想いの丈を語った

培われてきた技術による唯一無二のテキスタイル。

 

江戸時代から繊維産業が盛んな山辺町で1952年に創業、今年で64年目を迎えるニットメーカー「米富繊維株式会社」。40年前に編地開発室を設け、これまで開発されたオリジナルのテキスタイルは1万数千種類にも及ぶという。幾種もの糸を使い、織物のようなテキスタイルをニットの組織で作る「交編」の技術を生かし、2010年にスタートしたのが自社ファクトリーブランド「Coohem(コーヘン)」だ。カラフルでデザイン性の高いニットの服やグッズが、国内外の百貨店、セレクトショップからも高い評価を受け、山形から世界に発信されている。

 

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ファクトリーブランド「Coohem」のへの道程。

自社ブランド「Coohem」誕生のきっかけとなったのは、現在、米富繊維の社長を務める大江さんが、東京で大手セレクトショップの販売員をしていた時。自社製造の商品なのに、名前も出ないまま売られる現状を杞憂するように。やがて販売員の仕事を辞め、実父の会社である米富繊維に入社すると「他にはない強みを持ちながら、時代についていけていない」と感じ、自社ブランドの設立を目指す。だが、当時はブランドを立ち上げるノウハウはなく、デザイナーもいなかったため「自分がやるしかない」という思いで販促物の作成や営業活動に奔走。2年半後、2010年の秋冬シーズン、遂にデビューを果たしたのだ。

 

デザインから編地のプログラミング、製造や縫製といった行程が全て自社の工場内で行われている。

デザインから編地のプログラミング、製造や縫製といった行程が全て自社の工場内で行われている。

 

糸の厚さや質感によってもまた表現の幅が広がる。カラフルで独特な糸もオリジナルのデザインだ。

糸の厚さや質感によってもまた表現の幅が広がる。カラフルで独特な糸もオリジナルのデザインだ。

 

厳しい時を乗り越え、成功した理由。

「コーヘン初の海外展示会の後、ちょうど日本に着いた日が東日本大震災だったんですよ。空港にいたらすごく揺れて。工場は大きな被害はなかったんですけど、世の中全体が低迷するので、服とか言ってる場合じゃなくて。正直、もうダメだなと思いました。でも、震災で山形になかなか帰れなかったので、東京での活動にとにかく専念しました。」
その成果が実を結び、次第に定評を獲得するようになっていった。

 

今では日本での取り扱い店舗数は70店舗以上、海外でもコーヘンのニットを手にすることができるまでになった。「社内での衝突はあったかという質問をよく受けますが、少なかったと感じます。それは全く新しいことをしたのではなく、今まで蓄積されてきた技術をファッションとしてどう見せるかに、注力してきた部分が大きいですから。」培われてきた確かな技術と、県外から山形を見た販売員としての新たな視点が、地方発のファクトリーブランドを成功に導いたのだろう。

 

ブランド化の成功例に学ぶ、これからの山形の産業。

 

アパレル産業に限らず、日本ではOEM生産で黒子に徹する企業が多く、そのため自社ブランドの展開は稀だという。しかし海外では「工場で行われるものづくり」がそのまま「ブランド」へと展開されるケースが多いとのこと。優れた技術を持っていながら、それらが正しく評価されないまま縮小しているケースが少なくない地元の現状や、地方の工場が自社ブランドを設立する困難さは、東京で販売員をしていた経験から、十分に知っていた上でブランドを立ち上げるに至った。

 

「大きな反対こそされなかったんですけど、理解をしてもらうのには時間がかかりました。例えば、今でこそ当たり前ですけど、外人さんのモデルを使用したり、新しいことを始めるにはコストがかかるので。でも、逆に気にしなかったですね。結果を出さなければ人はついてこないし、ブランドを立ち上げるために、とにかく良いなと思ったことは何でもやってみました。」

 

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「最近はインターネット交流も盛んだし、絵が描ければモノが作れる時代。それでも、実際に山形の現場にいる作り手とともにものづくりを行うことを重要視しています。」ベテラン職人と県外から移住した若手職人が、それぞれが一緒になって製品作りに励んでいるという。デザイナーが柔軟にアイデアを出し、ベテランの職人がそれを形にする。それにより、これまでのニットの常識にとらわれない、スニーカーやダウンジャケット、手帳カバーといったアイテムへと表現の幅を広げているのだ。

 

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「山形はオンラインショップでしか買えないんですけど。最近は山形のお客さんも増えています。それでも、山形だと知名度があまり知られてないんだなあと感じていて。5月に七日町のとんがりビルで、コーヘンの展示会と生地をカスタマイズして作るクラッチバッグの販売をしました。地域の人に知ってもらう機会でしたが、普段、展示会は都心や海外で行われるので、工場の社員が見られる良い機会にもなったと手応えを感じています。まだ予定は立っていないんですけど、いつかは山形にも取り扱っている店舗を出したいと思ってます。」

 

「良いなと思ったことは何でもやります。」力強い言葉には、新たな指針を手にした迷いなき決意が感じられた 。

 

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