特集の傍流

2016.8.12

あのビッグメゾンにも認められた〝糸〟ができるまで。

2016年9月号(143号)紡いで織りなす想い。
佐藤繊維株式会社 代表取締役 佐藤正樹さん
佐藤繊維株式会社(山形県寒河江市元町) 佐藤繊維株式会社 三泉工場(山形県寒河江市字下河原)

糸によって、日本のみならず海外にもその名を知らしめた企業が、ここ山形にある。2009年、米国オバマ大統領の就任式で、ミシェル夫人が「佐藤繊維株式会社」の超極細モヘア糸を用いたヨーロッパ老舗ブランドのカーディガンを着て話題になったことは、まだ記憶に新しいのではないだろうか。
なぜそれほどまでに細い糸を生み出せたのか。その背景には、技術力の高さはもちろん、並々ならぬものづくりへの情熱があった。

 

国を越えて愛される、
世界でたったひとつの糸づくりへ。

糸にするための素材を求め、自ら世界各地を駆け回っている佐藤正樹社長。世界中の企業が速く安く糸を作るための機械を導入し、企業から言われたものをそのまま作るのが当たり前だった時代、イタリアの工場へ行ったことが、ものづくりの転換のきっかけだった。そこで職人たちが自らの考えで、自分たちが作りたい糸を作っていることに衝撃を受けたという。

 

代表取締役の佐藤正樹社長。糸、染色、ニット、ファッション、小売など多岐に渡る知識から紡がれるその語り口は熱い。

代表取締役の佐藤正樹社長。糸、染色、ニット、ファッション、小売など多岐に渡る知識から紡がれるその語り口は熱い。

 

「誰でも作れるものを、誰かから言われたものを作っていて勝てるのか。自分がやるべきことはなんなのか。私なりに作りたいものを作って、そこから文化を発信していくってことをやらないと、勝てないだろう」。

そう感じた社長は、素材選びからこだわった糸づくりに挑戦し始めた。「いつか、私たちが作ったものを、世界に出せるような、そんなものづくりがしたい」。はたしてそれは、昔の機械を自分なりの使い方ができるよう改良し、何度も試行錯誤を繰り返すことによって成功。今や佐藤繊維は「高くても、いつも一番クリエイティブな糸を出す会社」として憧れの企業になっている。

 

こちらが、ただでさえ扱いの難しいモヘアの限界に挑戦し、その歴史を塗り替えた糸、「風雅」。世界一細いと言われるモヘア糸であり、ミシェル夫人がこの糸を用いたカーディガンを着用したことで話題となった。

こちらが、ただでさえ扱いの難しいモヘアの限界に挑戦し、その歴史を塗り替えた糸、「風雅」。世界一細いと言われるモヘア糸であり、ミシェル夫人がこの糸を用いたカーディガンを着用したことで話題となった。

 

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オーストラリア産の糸車で、ウールの糸を紡ぐ佐藤社長。

オーストラリア産の糸車で、ウールの糸を紡ぐ佐藤社長。

 

「6000年くらい前からずっと糸って作られてるんですけど、糸づくりを機械化するって考えられないくらい難しいことだったと思うんですね」。 そう話す手元に注目していると、糸づくりとは、綿を伸ばして引っ張り、よりをかけて引っ張り、巻き取るという動作の繰り返しであることが分かる。繊細な繊維を切れさせることなく手作業で紡ぐことがいかに大変であるかが目で見ても明らかだ。

「6000年くらい前からずっと糸って作られてるんですけど、糸づくりを機械化するって考えられないくらい難しいことだったと思うんですね」。 そう話す手元に注目していると、糸づくりとは、綿を伸ばして引っ張り、よりをかけて引っ張り、巻き取るという動作の繰り返しであることが分かる。繊維を切れさせることなく手作業で紡ぐことがいかに大変であるかが目で見ても明らかだ。

 

三泉工場にお邪魔し、糸づくりを拝見。原料を見せていただいた。

三泉工場にお邪魔し、糸づくりを拝見。原料を見せていただいた。

 

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原料の引き伸ばしや、よりをかけることを繰り返して作られる糸。それぞれの糸によってその工程も、使用する機械もさまざまだ。使用する機械の中には、今から60年以上前のものも。

 

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古い機械を改良することで、その機械にしかできないこと、その機械にしか作れない糸を作る。中には特殊な糸の工程も。

古い機械を改良することで、その機械にしかできないこと、その機械にしか作れない糸を作る。中には特殊な糸の工程も。

 

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常識にとらわれない太さや、素材の掛け合わせにより生まれる糸は、今までにない風合いや質感を楽しませてくれる。

常識にとらわれない太さや、素材の掛け合わせにより生まれる糸は、今までにない風合いや質感を楽しませてくれる。

 

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小さな輪っかがたくさんあるのがお分かりだろうか。

小さな輪っかがたくさんあるのがお分かりだろうか。

 

先ほどの輪っかをこれで引っ掻き、毛を出すのだという。

先ほどの輪っかをこれで引っ掻き、毛を出すのだという。

 

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地方だからできることを、ここ山形から発信する。

自らが手がけた糸でニット製品の企画・デザイン・製造・販売までをトータルで行い、商品の見せ方を工夫することで、「佐藤繊維」はどんどん進化していった。世界にたったひとつだけの糸を生み出しただけでなく、常識にとらわれない発想が、糸が持つ無限の可能性を引き出した。
作り手の想いを優先させる商品開発を行う同社は、ブランドビジネスの展開にも力を入れている。
「地方の過疎化の一番の原因は、やっぱり産業がないことですね。そのときに、いかにこれから自分で新しいマーケットを作ることができるかどうか」と話す社長は、これからの地方のあり方について、同社のセレクトショップ「GEA」に触れながら「絶対地方じゃないと作れない、ものづくりとファッションと時間と空間も、全部ひとつに共有する商業施設が必要なのでは」と語る。

 

石造りの酒蔵を改築した「GEA」店内。世界各国の商品を取り揃える中、昔使用されていた紡績機が象徴的に置かれている。

石造りの酒蔵を改築した「GEA」店内。世界各国の商品を取り揃える中、昔使用されていた紡績機が象徴的に置かれている。

 

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生地の見せ方やブース作りにこだわった自社ブランドも数多く手がける。

 

ここには書ききれないほどに、海から渡ってきた羊の文化である西洋文化から、世界に遅れまいと速く安く糸を作る機械を開発した日本の話、糸となる素材の話、それに関するこだわり、それぞれの糸のキャラクターに至るまで、長時間にわたりお話しいただいたその姿は、ものづくりのストーリーを大事にし、それを伝え続けていくことへの熱い情熱に満ちていた。
製品を実際に手にとれば、その想いを肌で感じ取れるはずだ。

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