特集の傍流

2016.9.9

保存文化が発展した今、干し物を作る意義。

2016年10月号(144号)置賜の干し物。
公益社団法人 山形県栄養士会 会長 西村恵美子さん 副会長 山川晴美さん
公益社団法人 山形県栄養士会(山形市小白川町)

長期保存が効くというのは分かるけれど、干し物は衛生面の問題が気になるし、見た目からして干からびているから栄養価なんてさして高くないだろう、第一、作るのだって面倒臭いし…。そういった、何かと億劫なイメージを持たれている方も少なくはないようだが、冷蔵や冷凍など、保存文化が十分に発展した現代において、なぜ未だに「干す」という文化が根強く残っているのか、不思議に思われたことはないだろうか。

そんな干し物のメリットについて、『公益社団法人 山形県栄養士会』にお話をうかがった。先人が、永きに渡る多くの経験から受け継いできた知恵には、受け継がれるだけの理由がある。この飽食の時代、伝承が薄れつつある今だからこそ見直しておきたい、干物のメリットを紐解いていこう。

 

なぜ「干す」のか。先人の知恵には、理に適った理由がありました。

取材に応じていただいたのは、山形県栄養士会会長の西村恵美子さんと、副会長の山川晴美さん。「今でこそ冷凍という保存方法がありますけども、昔は塩蔵と乾燥、それしか方法がありませんでした」と話す西村さんは、「水分が無くなれば、カビも生えませんし、何年間もある程度保存できます。脱水されることによって他の栄養素がきちっとつまった形になり、アミノ酸が増え、必然的においしくなります、うまみ成分が出て、ということですね」と続ける。干し物は実はとても衛生的な食品であるだけでなく、栄養やうまみの面から見ても優れているのだ。

 

会長の西村恵美子さん(右)と、副会長の山川晴美さん(左)。

 

公に流布している栄養成分表の中で、干し物の栄養価をはっきりと提示できるものはなかなか無く、国で発行している本の中でも、そういった情報がまだ出ていないとのことだが、独自に調査をしている研究者の研究結果などからも、干した食材は栄養価が増すことが一般的に知られている。これは、干したことで水分が蒸発した分、栄養成分が濃縮したため。また、紫外線や酵素の働きによっても栄養素は増える。干し物は、栄養素を効率良く摂取するにはオススメなのだ。なお、しいたけは、我々人間と同じように、日の光を浴びることでビタミンDが増えることが知られており、これは熱風乾燥させた場合には得られない結果だ。ちなみに、他の野菜でのビタミンDの増加は、期待できるほどではないという。

 

また、太陽の光を浴びることで、甘みがぐっと増すのも干し物の特徴。さらに、天日干しすると、甘味成分だけでなく旨味成分を増やすことにもつながる。今まで天日干しの効果というのは、水分の蒸発によって甘味や旨味が濃縮するのだと言われていたが、紫外線が当たることで、旨味の元であるアミノ酸が増えるということがさらに判明している。紫外線が当たると、食材に含まれる酵素が活発に働いて、タンパク質(アミノ酸が長くつながってできたもの)のつながりが断ち切られ、アミノ酸がばらばらになる。すると、旨味と強く感じるようになるのだ。つまり総合的に考えると、干し物は天日干しによる乾燥が一番だと言える。また、そうすることで殺菌や消毒効果が高まることにも注目したい。

 

また、先の記事でも述べたように、干し物などの保存食は、厳しい冬を乗り越える「命をつなぐ糧」としてだけでなく、冠婚葬祭や、ハレの日の料理、行事食やもてなしの料理として昇華されてきたという点がある。「晴れの日の行事っていうのが、四季折々あるんですね。その中に、元々は餅をついて食べるのがあるみたいですが、そこに、タンパク質を取り入れるということを考えると、昔は干した魚くらいしかなかったんですね」と西村さん。
「庄内は生魚がありますから、そういう乾物の食文化ってないと思うんですよ。内陸だからこそ、乾物の、からかいとか棒鱈を使った文化が根付いたんじゃないかな、という気がします」と山川さん。

 

県内では、刈り上げもち、さなぶり、お盆、お正月…と、ことあるごとに餅を食べる風習があるが、地域によって餅に「からかい」などの当時貴重だったタンパク源を合わせることが、特別な日の食事の特徴だったという。このような料理は現在、郷土料理として根付いている。また、年中行事の祭礼食は、農作業を主とした生活と密接な関係があり、そういった特別な日に縁起を担ぎ、食べるべき節目に食べることができるように、保存をすることが普段から行われたのだ。現在は、農業人口の減少に伴い、こういった伝承も薄れていってしまっているが、めでたい日や特別な日に、栄養があり美味しいものを食べることは、今も昔も変わらないことなのだろう。

 

img_bo_144_9092

写真左は、ひょうの干し物。「ひょっとして良いことがあるように」「拍子がいいように」と新年への期待を込めて、正月に食べる習慣が残っている。右は、なすの干し物。一年の総決算をし、「借金をなす(返す)」という意味で、煮しめの中に入る食材。

 

めでたいときによく目にする、あずきの「赤」の色には魔除けの意味もあるといい、転じて、先祖を祀ることにつながり、祭礼行事に使われるようになったという。赤飯やおはぎなどに使われるのはこのため。干しあずきをかぼちゃと合わせた「あずきかぼちゃ(冬至かぼちゃ)」を冬至に食べる方も多いことだろう。

 

時短も量増しもできる、日々の料理の強い味方。

「干物って、実は簡単なんですけど、皆億劫じゃないですか。買ってきて戻すのがすごく大変だ、みたいな」という西村さんは、実は使い易い干物の魅力を語って下さった。今では、電子レンジで加熱するだけで野菜チップスを作ることができ、干ししいたけや切り干し大根、乾燥ひじきなどは、保存さえしておけば、使いたいときにボウルに水を張って食材を浸し、電子レンジの加熱調理で簡単に戻すことができるなど、調理の手間を省くことができる。近年は料理のレシピ本でも、こういった乾物の下ごしらえ方法が掲載され、食物繊維が豊富なうえ、量増しできるのでダイエットにもいいと、「昔のもの」という感覚が先行しやすい干し物に対し、親しみを持たせるような工夫がされる傾向にあるという。

 

また、お二人からは、干し物の干し方についてもお話をいただいた。「干し物を作る時は、暑い日に集中的に乾燥させて、水分をばっと除くのが良いですね。湿度が低い炎天下のもとで干すと、カラッと干し上がるのかな、と思います」「ひょうなんかは割と早い時期の方が、若い時の方が…今の時期(※取材したのは8月の中旬過ぎ)はちょっと成長し過ぎましたね。伸びすぎると固くなるというか…あと何ですか、落ちるというか。ぼろぼろっと。なので、ひょうを干すなら若いうちに」「あとは、丸いよりも薄い方が。なすなんかですと、薄い方が水が抜けるので乾燥しやすいです。だからなんでも千切りとか薄切りとかして、表面積を広げて薄く、みたいなの方が」「それから、ものによっては一回下茹でした方が。ひょうもそうですね。ひょうもね、下茹でして、灰汁を除いてから、食べるばかりの状態のものを乾燥させると、戻した時もすぐ作れる。大根もそうですね」

 

干ししいたけを水に沈めて全体を濡らし、ラップをかけて電子レンジ(600W)で3分加熱し、戻したもの。乾物の下ごしらえのポイントは、電子レンジで加熱した後に水洗いし、水気をしっかり絞ること。なお、戻し汁にも栄養がたっぷり溶け込んでいるので、捨てずに使用したい。

干ししいたけを水に沈めて全体を濡らし、ラップをかけて電子レンジ(600W)で3分加熱し、戻したもの。乾物の下ごしらえのポイントは、電子レンジで加熱した後に水洗いし、水気をしっかり絞ること。なお、戻し汁にも栄養がたっぷり溶け込んでいるので、捨てずに使用したい。

 

食文化の背景を知り、ありがたみを戴くということ。

だんだんと伝承がされなくなってしまっている干し物や郷土料理。「だから今、次世代への伝承ということで、県でも地産地消、食育推進計画の中に出ているんですが、こういった料理を学校給食とか、行事食で出すようにしているわけです。語り継いでいかないと」と西村さん。確かに現在では、市町村ごとに郷土料理集が出版されているだけでなく、書店でもそのような本を目にする機会が増えてきたように感じる。また、お二人は乾物の食べ方や利用方法が現代にまで受け継がれてきた点についても、その思いを語ってくださった。干し物によく見られる山菜もきのこも、「それは本当に安全に食べることができるのか」という判断は、誰かが食べ、時には犠牲になることでしか分からなかった。「今は全部検査して分かりますけどね、昔はそんな検査機関もなかったので。食べることでしか調べられなかったでしょうからね。そういう人たちのおかげで食べられるんだ、というのは思いますね」。

 

干し物に限らず、どんな食材もそうだが、先人がいたからこそ、食べ方や上手な保存の仕方などの慣習がここまで大事につながってきたのだというありがたみを戴くということ。そういった忘れがちなことをふと思い出させてくれるきっかけは、実は身の回りにあふれている。そのようなことを踏まえ、改めて、干し物を食べる意義・目的を考えたい。

関連記事

上へ