特集の傍流

2016.10.5

U・Iターンの現状と、迎える私たちが考えるべきこと。

2016年11月号(145号)やまがたを選んだわけ。
(株)キャリアクリエイト キャリアカウンセラー 浅野えみさん
(株)キャリアクリエイト (山形市東青田)

あなたの周りに「U・I(ユー・アイ)ターン」をしてきた人、またはそれを考えたことのある人は何人いるだろう。
「Uターン」とは、地方から都市部へ移住した人が、再び地方の生まれ故郷に戻ること、「Iターン」とは、出身地とは別の地方に移り住むことを指す。これに、「Jターン」(地方から大都市へ移住した人が、生まれ故郷の近くで、元の移住先よりも規模の小さい地方大都市圏や、中規模な都市に戻ること)も合わせて、まとめて「UIJターン」と言うこともある。
近年は、地方自治体などが主体となった、移住者受け入れの取り組みが増えていることもあり、こういった言葉も広く知られるようになった。今回は、その「U・Iターン」の現状と、我々が考えるべきことについて見ていこう。

 

どのくらい居ますか?あなたの周りの「U・Iターン者」。

県の調査では、高校を卒業した人の6割が地元を出て、その内の3割が故郷に戻っていることが判明している。
今回、取材を行うにあたって話をうかがったのは、求人情報の紹介やキャリアカウンセリング、Uターン支援事業を行う、株式会社キャリアクリエイト(山形市)。同社によると、山形県出身者で地元に戻った人、Uターンを考えたことがある人の総計は7割だったという。しかし、実際に戻っているのは3割。この差はいったい?
移住を考えているのにそれをしないのは、移住するだけの明確な理由がないことも原因だ。では、どういったときに人は移住するのかと言われれば、それは「転機」のとき。山形にUターンする理由として一番多いのは、親の介護や、子育て、結婚だ。上記の「3割」の人は、こういった「転機」を理由に移動している。
一般的に、山形県は給与水準が低い。給与が下がるというと人は躊躇するもの。それでも向こうに行くという理由がある人が、U・Iターンをする。お金、仕事、キャリアなど、何かを変えるには勇気が必要だ。つまり、そこまでして移り住む理由がなければ、なかなか動けないのも事実なのである。
我が県では、「山形に帰る理由が、実はそんなにない」という基盤がありながら、そのような転機をきっかけに人が動いているのが現状だ。

 

選択のカギは、「客観的なものさし」。

キャリアクリエイトによれば、某旅行専門雑誌が、地元を5段階(5が「とても好き」)で評価するアンケートを実施したところ、山形県在住で地元を「とても好き」と答えた人のランキングは全国で46位だった。しかし、山形を出ていった人に「地元は好きか」と訊くと、「とても好き」と答えた人の順位は全国で17位にまで上がったという。このギャップの差は山形県が日本一というが、これだけ落差があるということはつまり、一度外に出たことで、地元の良さに気づいたということ。裏を返せば、普段目の前にある良さが当たり前すぎて気づいていないということだろう。

一度、都市部での生活を経験すると、出身地と都市部を比較する客観的なものさしを得ることができる。それが移住地の選択のカギとなって、自らの価値観との照らし合わせを容易にしているのだ。

 

「どうすればよかったの?」移住して失敗しないためには。

何をするにも金銭と時間がかかる都会生活に疲れ、地方のゆとりある省エネ生活を求める人は少なくない。近年、都市部でなく地方へ人が流れる背景には、地方の「賃金の低さ」以外の部分にメリットや魅力を感じる人がいるから、というのが確かに要因ではあるのだが、今度は収入が少ないことに苦しむケースが見られる。
ただ支出を減らすのはコスト削減のようになってしまって苦しいため、それをいかに楽しめるかがカギとなる。同社のU・Iターンに関する相談では、価値観の優先順位をつけることと、地方の「抑えつつも楽しみながら生きる」感覚を持つことの重要性がよく話されるという。

 

お金の問題以外にも、「家族の理解が得られず、移住してからパートナーとの関係が悪化した」、「コミュニティに馴染めずに苦しい」、「会社に入ってから聞いていた話と違うことに気づく」など、失敗のケースは多々ある。こういった失敗は概ね、移り住む本人の問題と、受け入れる側(家族・地域・会社など)の問題に分けられるが、その問題の前提として、何故その地を選び、そのための準備をどれほど行ったかが、課題として挙げられる。

 

U・Iターン先で特に重要になるのは、仕事・住む場所・コミュニティの3点だ。この3点の選び方が様々であるから失敗の原因も十人十色なのだが、原因を突き詰めていくと、最終的に行き着くのはどれも「孤立」である。
Iターン者は、明確に「やりたいこと」があって移住を決める場合が多い。移住先が山形でなくてはならない理由がある人、例えば好きなものが山形にあり、それを求めて来た人は、仕事・住む場所をなんとか見つけるとしても、コミュニティは一から作らなければならない。そこで共感、相談できる相手がいなければ、孤立は避けられない。
Uターンで多いのは、「何となく出ていき、戻ってから孤立する」ケース。進学などで地元を出て、帰ってから「家族とつながっているから食べるという意味では飢えないが、精神的に共感してくれる人が近場にいない」ことに陥る場合がある。そうなると、自分を認めてくれる場所を求め、より多様性のある都市部を目指すのも致し方ない。

 

失敗しないためには、生き方全体を見直すこと、掘り下げて考えることが必要になってくる。支出・収入を含めた移住先の幅広い情報を確保しながら、自分にとって何が一番大事なのかが分かれば、周囲との対話も生まれ、その中で自分の価値観や、自分がこの先どう生きていきたいかということもさらに明確になってくる。
また、個人と受け入れ側が「こうでなくてはならない」というこだわりや条件で自ら窓口を狭めず、互いに歩み寄る必要性も挙げられるだろう。U・Iターンを機に転職を考える、または、行う人も多く見られる。U・Iターン者の門戸を開けば優秀な人材が確保できることも多いなど、企業にとってのメリットも少なくないのだ。

 

(株)キャリアクリエイトの皆さん。上記の、優先順位の決定や価値観の違いなどについてどうしても話がうまくまとまらない場合は、キャリアカウンセラーに相談するのもお薦め。 カウンセリングは、「その人の鏡になること」と表現される。その人が持っている答えを、対話によって引き出すのだ。

(株)キャリアクリエイトの皆さん。上記の、優先順位の決定や価値観の違いなどについてどうしても話がうまくまとまらない場合は、キャリアカウンセラーに相談するのもお薦め。
カウンセリングは、「その人の鏡になること」と表現される。その人が持っている答えを、対話によって引き出すのだ。

 

山形に帰ってきた人にとっての「山形」とは?

先ほどから「キャリア」という言葉が出てくるが、キャリアとは、仕事や経歴だけを指すのではなく、各人の「生き方そのもの」を表す言葉であるという。その支援などを事業として担う方(かた)は、自身の選択や生き方を、自分の中でどう捉えているのだろうか。山形へUターンをした、同社のキャリアカウンセラーである浅野さんに、「やまがたを選んだわけ」をうかがってみた。

 

主に学生キャリア支援を行っている、キャリアカウンセラーの浅野えみさん。

主に学生キャリア支援を行っている、キャリアカウンセラーの浅野えみさん。

 

「計画された偶発性理論(=プランド・ハプンスタンス・セオリー)という考えがあるんですが、これは、キャリアの8割は予期しない出来事や偶然の出会いによってできているという……私、理論大っ嫌いなんですけど、この理論だけは大好きで。必ず学生さんに紹介するんです」
そういうご自身も、予期しない出来事や偶然の出会いから、今の仕事をすることになったという浅野さん。
「本当は、山形には専業主婦になろうと思って帰って来たんです。でも、行動を起こしてみると、人生変わるなって」
そんな浅野さんが、山形に帰ることを意識したきっかけとは?
「私の場合は、小さい頃から『将来山形さ帰ってこいなー』ってずっと言われていて。なんか洗脳されていたんですかね(笑)。なんか『帰んなきゃ!』みたいな感じで」
幼い頃から、家族、特に自分の祖父母から、このように「帰らなければならない」という気持ちを植え付けられることは多く見られるというが、浅野さんの真に「山形に戻ってきたわけ」は、結婚、出産がきっかけだったとのこと。
「結婚して、子育てということを意識したときに、将来子どもを産んで育てるなら、やっぱり山形の環境がいいなと思って。私が以前働いていた会社は、女性も子どもを預けてばんばん夜遅くまで働いている会社だったので。あと、周囲の話などを聞いたときに、自分が育った環境というか…自分の小さい頃を思い出して『自分みたいに育てたいな』って」

 

山形に帰ってきて、不便になったことは?と訊ねると「趣味の海外旅行に全く行けなくなりました」と笑いながら答えて下さったが、「心に余裕が持てるようになりましたね」と笑顔を見せる。
「家族との時間が増えたなって思って。東京にいる頃はこう、満員電車の中で立って新聞を読んでいるのが自分の時間だったんですけども、今はもうどこへ行くにも30分以内で山形市内、大抵行けるので。『その時間を私、何に使おう?』みたいな」
心にゆとりが生まれた時間を楽しんでいる様子の浅野さん。山形に帰ってきてからの、ご自身の生活や心境の変化はどうだったのだろう?
「東京にいるころは個人としての自分……自分はどうしたいのか、自分はこうやって生きていきたい、みたいなところがあったと思うんですけど、こっちに来たら、家族を含めた自分というか、集合体とかコミュニティみたいなところをすごい意識するようになって。近所のお友達とかと、『今は子育てが大変だけど、将来、落ち着いたらここ行くべねー』とか。そういう、個としてでなく集合体として、地域のかかわりとしての楽しみも今あるかなって」

 

地域のかかわりとしての楽しみ……それはまさに、地域性の強い山形の魅力でもあるだろう。しかし、山形はどちらかと言えばその地域性の強さゆえか、「おらいのとこ、これだから」という主張があり、合わせられない人が悪いという考えが根を張る傾向にある。受け入れる側も柔軟に変化していく必要があるだろう。

 

潜在的に多いUIターン希望者に対して、私たちができること。

同社が運営する「ヤマガタ未来Lab.」(http://mirailab.info/ リンク先新しいタブで開きます)では、山形へU・Iターンした人の取材記事やコミュニティ、イベントを紹介し、山形に関わる人のより良い未来のための環境づくりを行っているが、そのように「知ろうとする努力・歩み寄ろうとする努力」が我々に求められているのではないか。
確かに、ある程度閉鎖的な部分を残しておかなければ、我々だけでなく、移住者側も気疲れを起こしてしまうだろう。ほどよく閉じながら、ほどよく開けたコミュニティを作ること、その一員としていつでも知識や知恵、時間を貸すことができるという「受け入れる基盤」が必要なのではないか。
U・Iターンは、地方と都市部のメリットとデメリットを前に、「自分はそれをどう選ぶのか」という、人生で大切にしたい価値観に基づいた、それぞれの選択の結果の表れであり、数ある事例を見てどう感じるかというものでしかない。
しかし、もし自分の周りにU・Iターンを考えながらも、そのきっかけがないという人がいたなら、その人に対し、周囲の人が「プチU・Iターン相談員」になれたら素晴らしいのではないかと、キャリアクリエイトは提案している。
「ふーん」、「へえー」と頷くだけで終わらないために、次の少しの第一歩につなげられるようなアクションを起こす……相談があったら否定せず話を聞き、「何を大事にして生きていきたい?」という声から対話が生まれたなら、あなたはすでに立派な「プチU・Iターン相談員」なのだ。

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