特集の傍流

2016.10.11

「木と一緒に楽しく暮らしたい」、思いに突き動かされて始めたりんごづくり。

2016年11月号(145号)やまがたを選んだわけ。
果樹園木楽 古田晋さん・古田雅子さん
果樹園木楽(山形県朝日町)

言わずと知れた「りんごの里」朝日町。この町を居住地に選び、りんごを作り続けているご夫婦がいる。化学肥料や除草剤を全く使わず、農薬を極力減らしたその味には「りんごの美味しさに目覚めた」との声もあるほど。安心、安全と、美味しさを山形から届けているお二人に、その地を選んだわけや日々の暮らしについて、お話をうかがった。

 

やりたいことをやるための場所、それが山形だった。

「果樹園 木楽」は、園主の古田晋さんと奥様の雅子さんの二人で営むりんご農家だ。この木楽という名前には、ご主人である晋さんの、木に対する思いが込められている。
「私、木が好きなので、木とともに楽しく暮らしたいっていう想いがありまして。そこから〝木楽〟というふうに」

 

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園主の古田晋さん。木楽さんのりんご園は、晴れた日には月山や葉山を眺める景色のよい場所にある。時々カモシカやたぬき、りすやキツネも遊びに来るという。

 

晋さんの専門は、元々は林業。埼玉県出身でありながら、大学進学に山形大学の農学部を選んだのも、森林の勉強をしたいという思いが大きかった。

前職は公務員で、そこでも林業関係の仕事をしていたが、自然や木とともに暮らせる職業として、果樹農家への転職を決意。
「やっぱり、やりたいなっていう思いがすごく強くて。だからどっちかというと、Iターンするっていうんじゃなくて、自分がやりたいことをやりたいっていう思いがあったので。やっぱり、したいっていうのが一番ですからね」

 

りんごの実全体に日光が当たり、色がムラなく綺麗につくように、光を遮る葉を摘み取りながら実を回すご夫妻。<br/>あえて葉を取らない農家もある上、どの葉を取り、残すかという選び方や肥料の使い方も、それぞれで違う。同じように安心、安全で美味しいりんごを追求していても、アプローチの仕方は様々なのだ。

りんごの実全体に日光が当たり、色がムラなく綺麗につくように、光を遮る葉を摘み取りながら実を回すご夫妻。
あえて葉を取らない農家もある上、どの葉を取り、残すかという選び方や肥料の使い方も、それぞれで違う。同じように安心、安全で美味しいりんごを追求していても、アプローチの仕方は様々なのだ。

 

ご夫婦で育てた「つがる」。「つがる」のほか、「シナノスイート」、「王林」、「サンふじ」なども育てている。

ご夫婦で育てた「つがる」。「つがる」のほか、「シナノスイート」、「王林」、「サンふじ」なども育てている。

 

晋さんにとって、山形は「やりたいこと」をやるための場所だった。そんな山形に移住を決め、寒河江市で農業研修を始めたのは2011年。ちょうど震災の年だった。
「3月末に引っ越すって話だったんですけど、ガソリンも手に入らなくて、山形行けるかなあって思っていたんですけど」と苦笑する。
「前の職場では、震災の前にはもう、仕事辞めてこういうことやりたいんです、3月いっぱいで辞めますという話はしていて、『がんばれ』と言われていたんですけども、3月に地震が起こって、やはり忙しい時期になっていましたし、だいぶ仕事も辞めづらかったんですけど。でもここはもう、思い切って行くしかないなと思って」
職場の方からは応援されたが、当初は家族の方から反対を受けたという。しかし今では、りんごを買いたいというお客さんをご夫婦に紹介しているなど、とても応援してくれていると話す。

 

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2年間の農業研修を経て、果物の中で「りんご」が一番好きという理由から、県内でもりんごで有名な朝日町へ移住し、独立を果たした晋さん。朝日町では、果樹農家を辞めるときには、樹から樹へと病気が移ってしまうのを防ぐため、樹を伐らなければならないという決まりがある。「朝日町での農家は〝やるか、やらないか〟なんです」と話す晋さんは、朝日町に来た当初のことを語ってくれた。
「朝日町に来たときは、りんご畑の場所が最初に決まって、その近くで住むところを探したんですけども、ここの区長さんに相談しに行ったんですよね。そのときに区長さんがだいぶお世話してくれて、地区に入り込むのも、区の総会があるんですけども、そういうところに出て、みんなに紹介してもらったりとかして。地区に入りやすかったですね」

 

ご夫婦が住む地区には、十何年も前に関西から移住してきたご夫婦が今も住んでいるなど、移住者を多く受け入れている実績があったという。
そう話してくれたのは、奥様の雅子さん。北海道出身の雅子さんは、2012年に「地域おこし協力隊」として舟形町へ移住した経歴の持ち主だ。
雅子さんは、震災時の首都圏の様子について語ってくれた。
「震災のとき、私は東京に暮らしていたんですけど、もう本当にこう、スーパーから物が無くなるっていう現象を目の当たりにして。
地方の暮らしのほうが、生きる力があるっていうか。東京だと、どうしてもこう、消費するだけの場所で、生産地ではないんですよね。東京の方がいっぱい物はあるし、全国の物、美味しい物があふれていて、お金さえあれば何でも手に入るんですけど、逆にお金がなければ手に入らないし、自分で何かを一から作ろうと思ったときに、作れるような場所もない。でも地方は、自分で地に足をつけた生活ができるというか、本当の暮らしがあるなって。それが地方の一番の魅力かなと思います」

 

りんごを乗せる台は、晋さんのお手製。奥に見えるのは、ご厚意で飲ませていただいた「つがる」のジュース。業者に直接りんごを持って行って搾ってもらっているといい、ストレート果汁100パーセントで酸化防止剤、ビタミンCなどの添加物を使っていない、りんご本来の美味しさを味わえる。

りんごを乗せる台は、晋さんのお手製。奥に見えるのは、ご厚意で飲ませていただいた「つがる」のジュース。業者に直接りんごを持って行って搾ってもらっているといい、ストレート果汁100パーセントで酸化防止剤、ビタミンCなどの添加物を使っていない、りんご本来の美味しさを味わえる。

 

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取材にお邪魔した時(9月中旬過ぎ)は、「つがる」の出荷がようやく落ち着いたというが、お客さんに発送する時期は朝早い4時半から収穫を始め、夕方に選果(大きさや色、傷などを選び分ける作業)をし、出荷の報告、箱詰め、出荷伝票の作成など、丸一日を作業に費やすほど多忙を極める。

「やっぱりね、普通に働いてれば、毎月いくらって入ってきますけど、特にうちはりんご農家なんで、収入ってのは年に本当、りんごの獲れる時期だけなので。だからそこでいかにね、ちゃんと稼いで暮らすかっていうのがあるので。

まあ、こういうのが好きというか、自然とやっぱり一緒に暮らしたいって部分があって。自分でこう、ものをつくる、生産をするのがすごく好きなので、そのへんは苦にならないというか」と晋さん。

 

「コンテナは重いし、脚立の上り下りも腰にきます。大変なのもわかりますね。根気のいる作業ですよ」晋さんの好きな言葉は「勇猛邁進」。四字熟語で何が好きかと訊かれると、それを挙げているというが、楽しむということがやはり好きだと語る。

「コンテナは重いし、脚立の上り下りも腰にきます。大変なのもわかりますね。根気のいる作業ですよ」
晋さんの好きな言葉は「勇猛邁進」。四字熟語で何が好きかと訊かれると、それを挙げているというが、楽しむということがやはり好きだと語る。

 

木楽さんのりんごは主に個人に提供するものであるため、「量より質で勝負です」と雅子さん。

木楽さんのりんごは主に個人に提供するものであるため、「量より質で勝負です」と雅子さん。

 

また、地方の文化の特徴としていわゆる「もらいものの文化」があるが、最初は驚いたというお二人。
晋さん)「量がね(笑)まずすごい。家に住んでいる人数が少ないって分かっていても、こう、どさってきて、これ食えやって言われて、ありがたいですけども(笑)」
雅子さん)「常にというか、旬の野菜が手に入るってのはすごくありがたいですよね」
もらいものも多いうえ、ご夫婦で自家菜園や田んぼでの稲作もされているので、出費はだいぶ少ないのではないかと話すお二人。コミュニティとの距離もちょうど良いと話してくださり、生活そのものを楽しんでいる様子のお二人は、Iターンしたことによる自身や周囲の変化をどのように捉えているのだろう。

 

晋さん)「今までと仕事ががらっと変わったので、それこそ、朝出勤して仕事してっていう生活から、もう本当に、自分が好きなときに働いて、好きなときに休めるような環境になったので、自分のモチベーションが全く変わってきましたね。やっぱり自分は、好きなこと、やりたいことをできているので。それこそ、人に雇われてあくせく働くよりは、すごく充実してるのかな、とは感じてます」

雅子さん)「将来的に農家民宿をやりたいなって思っていて、そういう農的な暮らしとか価値観に、もうちょっと都市部の人が触れてもらう機会を作りたいなっていうのもあるし、りんご畑もね、(実を)取ったりとか、そういうことができるといいなって」

山形の人でも、りんごの実を実際に樹からもぎ取った経験のある人はおろか、りんごが樹に生っているところをしっかりと見たことのある人も少ないことだろう。

「消費者も、自分が食べる物をどうやって作っているのか、どういう人が作っているの?というのが分かると、安心しますよね」と晋さんは話す。
生産者と消費者が密接につながること。それが本来の「食」のあり方なのだろう。それを実践されようとしている暮らしは、まさに「本当の暮らし」と言えるのではないだろうか。

 

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途中、「山形に来て不便になったこと」をうかがうと、方言の話が登場し、大いに会話を弾まさせていただいた。

植物と関わるということもあり、「おがる」、「がおる」、「たがく」などの言葉に触れてきたというお二人。しかし、当初は返答やリアクションに困ってしまったという。
雅子さん)「舟形で協力隊をやってるときに、お母さん方に『これたがって!たがって!』って言われて『えっ?』みたいな。もう、リアクションのしようがなくって、どうすればいいんだろう!?って(笑)。あとはもう、向こうの人がよく使う『ごしゃぐ』。『かあちゃんにごしゃかってよー』とか『え、どうしたの?』って」
晋さん)「やっぱり『がおる』とか、『おがる』とか。りんごとか植物が『がおる』とかそういう話が出てくるんで。『がおる』……?『がおる』ってなんだ(笑)って」
雅子さん)「私は協力隊だったので、結構おじいちゃんたちにまざって(方言を)教わったりとかもしてたんです。出身が北海道だし、北海道って少し方言とか近いんですよ。捨てることを『投げる』って言うし、静かなときって『あずましい』とかってよく使う言葉だったので、わりと共通する言葉もあって。大学も青森だったんですが、そこまで地元の人と接することはなかったので津軽弁は分かりませんでしたけど(笑)、多少東北の言葉に免疫はありました。でもお年寄りの方たちの言葉とかは、さらに分かりづらいですね。コアな方言っていうか。エリアによってもだいぶ違いますよね。なんか最上とこちらでも、使い分けが少し違ったりとか」

 

お二人の生き生きとした笑顔と、ほっこりとした雰囲気に癒されながら、ご厚意でりんごもご馳走になってしまった。
りんごには、お二人の楽しむ心と愛情がたっぷりつまっている。樹に生る実の一つひとつが愛おしく思えてくるのが、その何よりの証だろう。

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