特集の傍流
大沼山形本店 キーコーヒー直営ショップ 店長 舟越麻紀さん
山形市七日町(大沼山形本店)
これまでコーヒー業界に起こったムーブメントは「3つの波」にたとえられている。第1の波「ファーストウェーブ」は、19世紀後半から1960年代まで続くコーヒーの大量生産・大量消費の潮流。流通の発達により、安価になったコーヒーがポピュラーな飲み物になった時代だ。続いて、1960~90年代には、“深煎りムーブメント”といわれる、第2の波「セカンドウェーブ」、深煎り高品質の豆を使ったコーヒーと、エスプレッソコーヒーにミルクを合わせたカフェラテを武器に、シアトル系コーヒーチェーンが世を席巻した時代だ。そして、90年代後半から現在にいたる第3波の「サードウェーブ」といわれるのが、豆の産地を重視し、豆の個性を最大限に引き出す淹れ方を追求する新しいコーヒーカルチャー。サードウェーブコーヒーの先駆けといわれるのは、近年、日本にも進出を果たしたアメリカ西海岸発のコーヒーチェーンだが、そのインスピレーションの大本は、日本の老舗喫茶店から受けた技術と心得である、という逸話は有名だ。
日本の珈琲カルチャーを再認識し、質の高い一杯を味わう。
畑から一杯の珈琲になるまでのトレーサビリティ(豆の産地や種類はもちろん、淹れ方なども)が注目され、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れるスタイルが世界中でトレンドになっている現在。だからこそ「トアルコ トラジャ」を復活させた、キーコーヒー大木久氏らの不屈のスピリットと、日本の珈琲カルチャーの素晴らしさにもあらためて着目しながら、コーヒーをたのしんでみてはいかがだろう。
さて、キーコーヒーが認めるトラジャマイスター店は現在、東北で7件、山形県には1店舗(珈琲専科 道)のみとなっているが、このほか『アル・ケッチャーノ(鶴岡市)』や、『ル・ボワァール(新庄市)』、『大沼山形店キーコーヒー直営ショップ』など、「トアルコ トラジャ」が飲める店はいくつかある。また、「遠くてなかなか行く機会がない」という人も、全国各地の喫茶店・飲食店で掲げられている「KEY COFFEE」の青い看板を目印に、お気に入りの店を探してみてはいかがだろう。厳選された豆の味と香りは、上質なひとときを齎らしてくれるはずだ。
老舗デパ地下でコージーな雰囲気を醸す、小さなコーヒーショップへ。
そのなかのひとつ、山形市七日町にある老舗百貨店『大沼 山形本店』に開店して15年以上になるという、山形県唯一のキーコーヒー直営ショップへ。ショーケースにびっしりとコーヒー豆が陳列するなか、目立つのはやはり深緑のパッケージにトラジャ伝統の家屋トンコナンのマークが入った「トアルコ トラジャ」。約26種類もの豆のなかでも、メイン商品かつ一番の売れ筋であり、期間限定品にいたっては高額でも人気だという。100%トラジャ豆のものもあれば、「トラジャブレンドマイルド」といった、他の豆とブレンドされた商品もいくつか販売されている。他の豆とブレンドすることによって、苦みが引き立つコーヒーはちょっと苦手、といった人にも喜ばれているそうだ。

オリジナルのドリッパーは直営店で購入可能。家庭でも美味しいコーヒーを味わってもらえるようにと開発されたもの。

多くの人手と長い道のりを経てきた一杯を愛でるかのように、コーヒーをいれる店長の船越さん。
トラジャコーヒーの復活に尽力した、大木久・元会長もこの店を訪れたことがあったそうで、「私は直接お会いしたことはありませんが、以前の店長が勤めていたとき、前ぶれもなくふと来店されたそうです。とてもフランクな印象の方だったと聞きました」とは、同店の店長を務めて7年になる舟越麻紀さん。ショップに併設された5席の喫茶コーナーは、こぢんまりとながらもコージーな雰囲気、大木氏もここで一杯のコーヒーをいただいたのだろうか。そんな思いを馳せながらカウンターに腰掛けた私たちに、舟越さんが「トアルコ トラジャ」をいれてくれた。ボーンチャイナでつくられた透けるような白色のオリジナルカップは、大勢の人たちの手をつたってここに辿り着いた本物の証だ。
「店長、もちろんコーヒーはお好きなんですよね」と問うと、「実は…」と意外な答えが返ってきた。「以前は、コーヒーが苦手だったんです。必ずお砂糖とミルクを入れないと飲めませんでした。でも、喫茶店やカフェで接客の仕事がしたいと思っていましたし、ここに入社してからたくさんのコーヒーと出会い、ブレンドの仕方やいれ方で、味や風味が変わるのが面白くなってきました。風味の違いもわかるようになって、どんどんコーヒーの魅力にハマっていったんです」と舟越さん。
この日も、コーヒー豆を買い求める人や、買い物帰りにひと息つく人たちを多く目にした。馴染みのお客さんらが束の間の会話を交わし、カウンターをあとにする光景。様々なテナントが立ち並び活気あるデパ地下の一角で、ここだけはゆったりとした時が流れる憩いの場、「おいしいコーヒーを飲んでほしい」という、農園の生産者や先人の想いが、しっかりとテーブルの上まで届いているように感じられた。
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