特集の傍流
珈琲専科 煉瓦家(山形市本町)
その街の、ひと昔をたぐる散歩「界隈証人」。今回は、山形市七日町の大通りから、裏通りの七日町一番街商店街に入って少し歩いたところにある喫茶店、「珈琲専科 煉瓦家」にお話をうかがった。
思い出の残り香漂う純喫茶。
現在の商店街には、かつて喫茶店が建ち並んでいた。

レトロ感漂う店内。居心地の良さを追求し、テーブルの高さや座った際の目線の位置など、随所に設計の工夫が凝らされている。穏やかな静寂が広がる店内で、人々は心ゆくまま時を愉しんできた。
ガッタ(以下G):創業して何年になるんですか?
煉瓦家(以下R):多分45年位になると思います。私は途中から引き継いでいますから、昔のことは余り分かりません。
G:当時、この界隈はどんな様子だったんでしょうか?
R:ここは七日町一番街通り。当時、この通りは喫茶店がとても多かったと聞いています。表通りから裏通りのわずか二、三百メートルの間に、小さなお店も含めて数十件はあったようです。それに、人々が楽しめるような、おしゃれなブティックやギャラリーなんかもあったようです。
私がここに来るようになった頃でも、県外から来られたお客さまは喫茶店が多いことにとても驚いていました。今はもうほんの数件しか残っていません。時代の流れなんでしょうかね、やはりどんな理由でもお店が町から消えてゆくことは寂しいことです。
G:今よりもいっそう、ゆっくりと歩きたくなる通りだったんでしょうね。
R:昔は、道路の両側には堰が流れていたそうです。今はもうその姿は隠されていますが、その頃は店の前は砂利道だったと聞いています。道路に車を駐めていてもまだ余りうるさくない時代、車道に車を駐めてコーヒーを飲んでいたそうです。もしもあの頃のように店の前に川があったら、きっと風流な感じがして良かったのになんて思ったこともありました。

天井からさがる、趣のあるランプの向こうに見えるのは「いつからあるのか、誰が描いたのか分からない」という油絵。店内の奥から玄関付近が表現されたその絵は、客の一人によって描かれ、店に贈られたといわれる。当店が昔から訪れる人々に慕われている証だろう。
お客さまの気持ちを、いつでも一番に考える。
G:どんなお客さんが来ていましたか?
R:朝は仕事に行く前のモーニングコーヒーを飲んで行かれるお客さまでとても賑わっていたとか。今も色んなお客さまが来て下さいます。お客さまにとっての大切な時間をゆっくりここで過ごして下さることを一番に考えています。

丁寧にネルドリップされるコーヒー。
G:確かに、とても居心地の良い店内ですね。
R:初代マスターのこだわりやセンスが、今も若い人たちの心の中に伝わって生きているのではないかと思っています。そして私が一つだけ心がけていることは、季節の花を飾ること。それも自然の花を。雰囲気は人の気持ちを変えるものですから、とても大事なことです。
G:人気のメニューは?
R:ここのお薦めは?とかよく聞かれます。そんな時の返事は「全部です」って言います。なぜって、私がおいしいと思える物だけお出ししていると思っているからです。あとはお客さまの嗜好と合っているかいないかだと思う。

語らい食したこの一品)燻製ベーコンとシャキシャキのレタスやトマトなどを挟んで焼いた「焼きサンド」を、おいしさにこだわったネルドリップで淹れる「煉瓦家ブレンド」コーヒーとともに。
G:お店のこれからについては。
R:何も考えていません。ただお客さまがここに来られて、コーヒーがおいしいって思っていただけるコーヒーを出せるようにとか、おいしいケーキを焼くことですかね。

特徴的な赤煉瓦壁は、これからもそれぞれの時代の思い出を見続け、記憶していくのだろう。
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