特集の傍流

2017.10.10

地域が受け継いだ古木にみる、〝赤〟と〝白〟のワイン伝説。

2017年11月号(157号)やまがたワイン考《前編》
須藤ぶどう酒工場 代表取締役 須藤孝一さん
月山ワイン山ぶどう研究所 ワイン醸造技術管理士 阿部豊和さん
山形県南陽市、山形県鶴岡市

 やまがたのワイン好きともなれば、県産ワインにまつわる古木の話をご存知の方もいることだろうか。当記事では、そんな古木ならではの味わい深い歴史を感じられる話、ぜひ先人に思いを馳せながら飲んでいただきたいワインをご紹介する。

 

日本ワインの父が伝えた、芳醇なベリーA古木。

 赤ワイン用ぶどう品種としては国内一の生産量を占める、マスカット・ベリーA。これは、新潟県の「岩の原葡萄園」においてブドウの品種改良に生涯をかけ、日本のワインの父とまで呼ばれる川上善兵衛氏が発祥だ。川上氏は今にも伝わる偉大な川上品種を残すことに成功し、このマスカット・ベリーAも今や本州のほとんどの地域で栽培されているが、この品種がどのように各地に広まっていったのかは、あまり語られることがない。

 

 

 詳しい時期は不明だが、川上氏は、南陽市の須藤ぶどう酒工場の初代・須藤鷹次氏にマスカット・ベリーAの苗木を送っている。鷹次氏は、赤湯にぶどう栽培を広め、本格的に栽培されるように尽力した人物。鷹次氏が受け取ったその木は今も、須藤ぶどう酒工場の自家農園、紫金園に存在する。
 

 

創業1921(大正10)年。今のような吊棚にしたのは昭和36年頃(紫金園がスタートした年)。それまでにもいろんなぶどう園を見て回ってきたというが、山梨のぶどう園を見習ってこのようなスタイルにしたのだという。

 
川上氏が送ったベリーAの木が、これだ。
 

 

「昔は枝についていた番号(3986)から398と呼ばれ、それが名前だと思っていました。ベリーAだと知ったのは10数年ほど前のことです」と現代表の須藤孝一さんは話す。
 この地でマスカットベリーAが本格的に栽培され始めたのは、今から70年前とのこと。それ以前から存在するというこの古木は、数々の名品を生み出している山形のベリーA品種のルーツともいわれている。

 

 

 樹齢70年以上という樹齢は国内外でも稀有であり、華やかな香りとともに、力強く奥行きのある味わいを楽しむことができる。マスカット・ベリーAの歴史を感じられること間違いなしだ。
 須藤ぶどう酒では、「ブラック・クイーン アンド マスカット・ベーリーA」を通常販売しているが、この古木に実ったぶどうのみを使ったワインを昨年から限定販売。昨年はノンフィルター加工で醸造したとのことで、今年の古木ワインの醸造は今年(2017年)10月中頃に行われるとのこと。要チェックだ。

 

昔はモーターが貴重だったため、米織に使われていたモーターを動力源とし、除梗機を回していた。20年ほど前はまだ現役で動いていたという。


 

昭和初期の手搾り機は今も現役。


 

栽培・醸造・販売までの全工程が家族の手によって行われる。


 

ワイン蔵は斜面を利用した天然のクーラー。1981年に作成し、元々は外にあった蔵を石垣で囲って母屋とつないだものだ。


 

「須藤ぶどう酒工場」初代の須藤鷹次氏らが全山開放に尽力した、十分一山の南斜面。丘陵地にアーチ型のビニールハウスが連なるさまは、まさにぶどうの産地といったところ。

 
 
 

地元民が守り継いだ、独自の甲州ぶどう古木。

 

 
 甲州は日本を代表する白ぶどう品種だが、江戸時代に鶴岡市西荒屋地区に伝わり、今も栽培されている甲州ぶどうは、山梨や山形県内の赤湯周辺のものとも違う独自のもので、糖度は実に20度を超える。
 

 
 この地は甲州ぶどう栽培の北限でもある。「江戸末期に、酒井藩の家老が取り寄せて自宅に植えていたぶどうを、『ぶどうは垂れ下がるから、武道が下がる』と農民に譲ったんです。この甲州は明治時代に病気で一度絶滅しかけたんですが、地元民の努力によって、大正時代に復興を遂げました」。説明してくれたのは、月山ワインのワイン醸造技術管理士の阿部豊和さん。阿部さんに案内され、地区内の河内神社へ向かう。

 

 

 そこには、ぶどうの復興を記念した「葡萄圃復興之記碑」が。

 

 

碑には、ぶどうがこの地にもたらされ、農民に譲られた経緯とともに復興までの歴史が記されている。


 

 その後も大切に守り継がれたぶどうは、月山ワインによってシュール・リーの製法で醸造された「ソレイユ・ルバン 甲州シュール・リー」となり、「ジャパン・ワイン・チャレンジ2017」では、世界最高部門賞に輝いた。

 

 

 山梨の甲州によるワインに感銘を受けたという阿部さんは、甲州ぶどうでのワイン造りが夢だったという。2006年から醸造を担当し、甲州の魅力は繊細で扱いが難しい点にあると話す。
「他のワイナリーと同じ土俵に立つということを考えた時、自分でどんな色を出そうかと考えました。そして、このぶどうを単独で醸造したら面白いんじゃないかと思ったんです」
 それまでは、他のワインのブレンド用として補助的に使っていたというこのぶどう。阿部さんが手がけたワインは、しっかりとした酸が評価を受け、この地に甲州ぶどうが存在することを全国的に知らしめることとなった。

 

平均樹齢50〜60年の古木。


 

 甲州だけでなく、この土地に適するぶどうを探しているという阿部さん。ワイナリー誕生のきっかけとなった山ぶどうをはじめ、カベルネ・ソーヴィニヨンと交配したヤマソーヴィニヨンなど、この土地の味を表現するにふさわしいと選んだぶどうはどれも、月山ワインの主力品種となっている。
「今後も、次の代にこの土地のぶどうを残すことを重視していきたい」。阿部さんはそう結んでくれた。

 

 

限られた広さの工場内でいかに量をとるかを考えたステンレス製の大樽。密閉性を重視した発酵で、「この方法が自社に向いていると思います」とのことだが、ゆくゆくは樽を使用することも考えているという。


 

旧国道のトンネルを、そのままワイン貯蔵庫として活用。岩盤が強く、削り出したそのままの岩肌で残っている。


 

阿部さんの後を継ぐ、月山ワインの次代を担う次期醸造担当の兵藤奈央さん。

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