特集の傍流

2017.10.24

南陽を舞台に、日本のワイン界へ新風を。

2017年11月号(157号)やまがたワイン考《前編》
グレープリパブリック 取締役 藤巻一臣さん
山形県南陽市

2017年9月、山形県内14番目のワイナリーが誕生した。場所は南陽市鳥上坂付近、全国的にも名高いブドウの名産地、十分一山の麓にある。
取材に訪れたのは9月下旬。キャメルとブラックカラーで統一された真新しい建物内には、収穫されたデラウエア、ナイアガラ、メルロー、キャンベル、スチューベンetc、さまざまなブドウたちが大きな樽やコンテナのなかに積み上げられていた。

 

 

「ここ、手を入れてみてください。ブドウが醗酵して熱を持ってるからあったかいんです」
グレープリパブリック(以下グレリパ)取締役で、ワイナリーの醸造責任者、藤巻さんに促されて上着の袖をたくし上げる。踏み台を借りて背丈より大きい仕込み樽のなかに腕を入れると、皮と実がほどよく崩れ、果汁が肌に吸いつく感じ。そのままじっとしていると、フツフツとブドウたちが醗酵し合い、じんわり心地よくあたたかい。

 

樽投入から3日目のデラウエア。

 

「ブドウのチカラ、自然のチカラってすごいんですよ。我々ワインメイカーは、原料の声を聞いて、本来持っているそのチカラ、スペックを引き出す手助けをして恩恵にあやかっているだけ。ほんと、感服ですよ」
グレリパのワインはすべてナチュラルワイン。ブドウを房ごと、皮とともに“醸して”仕込み、酸化防止材である亜流酸を使わず、補糖、補酸もなし、野生酵母のみで醗酵させてつくる。

 

 

 

「ワインの仕込みにステンレス製や木製の樽も使いますが、うちではアンフォラという陶器、素焼きの壺に入れて寝かせる手法を採用しています」と藤巻さん。アンフォラは有史以前から使われている道具で、原料の特製や自然味が生かされワインが仕上がると、近年ナチュラルワインメイカーたちが好んで使っている。こうしたナチュラルワインを国内で醸造するワイナリーとしては、ここグレリパが最大規模を誇るそうで、年間およそ1万本の出荷を見込んでいるという。

 

アンフォラでの醸しの様子。

 

 

アンフォラが地下に埋め込まれた独特な醸造室のなかは、じっとしていると手がかじかみそうになるくらい肌寒い。冷気を纏ったこの室内で、ブドウたちはじっくりと眠り、姿を変え、世界中へと届けられる。グレリパのワインは国内の愛飲家だけでなく、海外のナチュラルワイン界も注目しているという。その所以は藤巻さんがこれまで歩んできた背景にある。

 

横浜生まれ、横浜育ち、そして東京や神奈川で日本経済の黄金期を過ごした藤巻さん。じつの本業は東京や横浜、大阪で、創作イタリア料理の人気店6店舗を展開するサローネグループのゼネラルマネージャーだ。五感で味わえる独創的な料理、行き届いたサービス、心を満たしてくれる上質なもてなしが評価され、日本のレストラン業界において一目置かれる存在だ。そんな藤巻さんが醸造責任者となって自分のワインをつくるという一報が流れた途端、諸手を挙げて欲しいと願うファン、業界関係者からの予約が殺到し、その期待はワイナリーが本格始動したいま、さらに高まっている。

 

 

「自分はずっと海派、シティ派だと思ってたけど、いまこうしてワインづくりをしているのが面白くて仕方ない。毎日畑へ自転車漕いで出かけて、ひと房ひと房手をかけたブドウが育っていくこと、畑が仕上がっていく様がすごく愛しいんです。自分は完全に山派だった、そう気づきましたね。レストラン業界が天職だと思っていたし、それはいまも変わりませんが、店のなかでできることはすべてやったというか、だからこそその延長で、50歳を超えてさらにやりたいことができたということが本当に幸せです」と話す。

 

 

「上山市に続いて南陽市もワイン特区の認定を受けることができました。南陽市は昔からブドウ栽培においては100年以上の実績を積んできた地域。それがいま農業従事者の高齢化や後継者問題で、年々ブドウ畑の耕作放棄地が増えている。こんなにおいしいブドウ、ワインが作れる場所なのにもったいないですよ」と藤巻さん。耕作放棄地を借り受けて生産量を上げることやワイナリーを順調に稼働させることで、南陽市や置賜エリアの新規雇用創出にも一役買いたいと、藤巻さんは願う。
「後進に続く人たちのためにも南陽産のブドウ、ワインを主役にした地域活性化につながるモデルケースをつくりたいんです」とその目は我々の想像のずっと先をみている。
グレリパ自社工場仕込み初出荷のワインは、2018年2月頃にリリース予定だ。

 

関連記事

上へ