特集の傍流
蔵王温泉
山形市蔵王温泉
このように寒い時期は、とにかく体の芯から温まって疲れを癒したい。その願いを気軽に叶えられる点でいえば、山形県は12月7日現在、全35市町村に温泉があるという、大変恵まれた環境にある。「ちょっとそこまで」で、身も心もぽっかぽかになれる。行こうと思い立てば、すぐにでも日帰り入浴ができる。今、このWEBページをご覧の方々も、ひとり一箇所くらいは自分のお気に入りの温泉があるのでは?
伝説や由来を知れば納得の効能、そんな温泉も多数あり。
山形県は、北海道や九州などには及ばないものの、全国的に温泉地が多い方であることは紛れもない事実。湧き出ている温泉や、それを中心に形成される温泉街には、それぞれ変化に富んだ雰囲気や魅力があり、「温泉県やまがた」と言われる意義を肌で感じ取れる。
歴史や風情を感じられるのも温泉の良さ。身近に温泉がある我々山形県民こそ知っておきたいそのロマンを手繰りに、まずは県内最古のいで湯の地である、蔵王温泉へと足を運んだ。

開湯は西暦110年といわれ、全国でも有数の歴史を持つ蔵王温泉。かつては「最上高湯」として、白布温泉(山形県)、高湯温泉(福島県)とともに奥羽三高湯に数えられた。写真に写るのは上湯共同浴場。

入り口には注連縄が。
蔵王温泉といえば、スキー客でも賑わう温泉地で、古くは「高湯(たかゆ)」と呼ばれて親しまれた。そういえば、と思い当たる人も多いのではないだろうか。
この「高湯」の名は、『古事記』や『日本書紀』などに登場する伝説的英雄・日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の臣下、吉備多賀由(きびのたがゆ)に由来するという。(多賀由は、『日本書紀』上の、副将の吉備武彦その人だと推察される。)
時の天皇、景行天皇の命を受けた日本武尊とともに蝦夷と戦っていた多賀由は、毒矢を受けて負傷し、全身がただれてしまう。苦しみながら帰路につくが、症状は悪化する一方。そんな道中、山に咲いていた桜に趣を感じた多賀由は、家臣にその枝を折って持ってくるように言う。山に入り枝を切った家臣らは、向こうに白いもやが昇るのを発見。そこには泉が湧き、一筋の川を成していたという。

泉質は含硫黄の強酸性。刺激が強く、皮膚病等に高い効果があるといわれるほか、虚弱体質の改善にも利用されてきた。登録利用源泉34か所が全て自湧しており、特に、源泉のひとつである上湯共同浴場周辺の流量は毎分4000リットルと、湯量も豊富。
泉は不思議な香りのする湯で、舐めると酢のような味が。この湯が主人に効くのではと、戻ってきた家臣たちの話を聞いた多賀由は、日頃崇めている大国主神・少彦名神のお陰と感激し、湯浴みをしたところ、数日で快癒。感謝の意を込めて、泉に自分の名を残し、山頂に自身が崇める神を祀って「酢川温泉の神」と呼んだという。多賀由が造ったという、この酢川温泉の神を祀った祠(ほこら)は、「酢川温泉神社」として、温泉街に存在する。

上湯共同浴場の裏には、温泉の歴史を物語る水車がある。水車を過ぎ、酢川温泉神社の参道を目指す。

鳥居を前に立つ。参道が長く続いている。

酢川温泉神社の鳥居(部分)。

参道の途中には、最上義光が家臣と力比べをして、ただ一人で持ち上げたという「義光公の力石」がある。

酢川神社の由来について。神社は、大国主神(オオクニヌシノカミ)、少名彦名神(スクナヒコノカミ)、須佐之男命(スサノオノミコト)、迦具土神(カグツチノカミ)の四神を祀っている。

凛とたたずむ、酢川温泉神社。
不思議な泉の効能が知れ渡るにつれ、多賀由の名も知られるようになり、時を経て「たがゆ」から「たかゆ」へと変化するも、この名は昭和25年に、蔵王山が観光地百選山岳の部で1位に選ばれたことを記念して「蔵王温泉」と改称するまでの、実に一千年以上にも渡って人々に親しまれてきた。
元は、尊崇の篤い多賀由が見つけた蔵王温泉。現地では、多賀由が祀った温泉の神に感謝し、年明けに湯を抜いて3箇所の共同浴場を清め、新湯をはる伝統行事「洞開」が、現在も毎年行われている。

川原湯共同浴場は、すのこ状の浴槽底から、源泉が湧き出ている。

湧き上がる源泉の上に、直接入浴することができる。

川原湯から流れていく廃湯。
このように、歴史ある温泉地が数多く存在する山形。そんな歴史と風情ある温泉郷を巡り、開湯伝説や湯にまつわる秘話、ロマン薫る伝説を手繰る今回の特集。普段足を運んでいる地元の温泉であっても、その由来を紐解いてみることで、より馴染み深い存在に感じられるのではないだろうか。
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