特集の傍流

2018.3.10

「山形の酒」を先導、一歩先の酒造りを目指して。

2018年4月号(162号)やまがたの日本酒と蔵人。
山形県工業技術センター 石垣浩佳さん
山形県山形市

「吟醸王国やまがた」の地位が確立して久しいイメージがあるが、取り組みを始めたのは昭和50年代に入ってから。「私の上司だった小関敏彦さん(現:山形県酒造組合特別顧問)が、酒蔵の若手社長たちから相談されたことがきっかけで、酒米や酵母の開発を始めました」と話すのは、当時小関さんの部下であり、その後30年もの間酒造りに携わってきた山形県工業技術センター(以下/センター)の食品醸造技術部 開発研究専門員の石垣浩佳さんだ。

 

危機感が駆り立てた、酒米と山形酵母の開発

 山形は、今でこそ全国新酒鑑評会で金賞を受賞する常連県だが、昭和61年に受賞数が0となったことがあった。「山形の酒をなんとかしなくては」という危機感が石垣さんたちを酒造り好適米と山形酵母の開発へと駆り立てた。
「それからすぐに山形県酒蔵適性米生産振興対策協議会を立ち上げ、全国の酒蔵を訪ねては酵母を譲ってもらい、山形独自の酵母をつくるために日々研究を重ねていきました」
 同時に蔵人育成のための研究会も発足。こうして『NO.1の酒を造る』という明確な目標のもと、県と業界全体が団結し、長い年月をかけて酒造りに取り組んできた結果、今がある。

 

 

 

時流を捉え、進化し続けるために

 山形県工業技術センターの中を案内してもらって驚いた。酵母の開発などを行う研究室の他に、日本酒を造る一連の作業ができるように設備が整っている。

 

 

 酒蔵に引けを取らない酒造施設を持つセンターでは、過去には杜氏を招き石垣さんたちもセンターに泊まりがけで新酒の開発を行ったという。その情熱が蔵元にも伝わり、お互いの信頼関係を良好なものにしたのだ。

 

発酵をコントロールする温度調整などに高いレベルで対応できる「サーマルタンク®」の様子を見る石垣さん。酒造りに関する情熱は、先代のセンター長であり山形県の酒造りに尽力された小関敏彦さんから受け継いだと語る。その想いは若手のスタッフにも引き継がれている。

 

 石垣さんたちは、山形の酒の未来をつくっていくために正面から向き合っていた。今更だが、酒米、酵母、人によって美味しい県産酒が生み出される。
 平成21年には「TY24」と呼ばれる酵母の特長を生かした発泡清酒「スパークリング・ワイ」を完成させた。シャンパンのような泡立ちを楽しめるこの日本酒は、今や県の定番商品になりつつある。また、洋食やチーズに合う日本酒を造ろうと、乳酸発酵させた純米酒も開発。スタンダードな酒だけではなく、様々なシチュエーションで活躍する酒造りを目指す。現在は、県オリジナル酵母の開発と、「雪女神」とをマッチングさせる研究も進めている。

 

 

 

 時代の変化とともに、好まれる酵母も、そして好まれる酒も変わってくる。伝統を守りつつ、日本酒も進化し続けなければならない。
「〝日本酒はお父さんが飲む酒〟のようなイメージを払拭したくて低アルコールタイプも造りましたが、逆に若い人たちからすると〝スタンダードな酒を飲むのが格好いい〟という流れがあったりするので、その時代に合わせて開発していかなければなりません」と、石垣さんは話す。
「フレーバー成分分析」も、先を見据えた酒造りのための取り組みだ。酒の美味しさを表現するときに「キレがある、コクがある」という言い方をするが、「フレーバー成分分析」に取り組み、具体的な数値によって各酒の味を分析している。「いずれは〝どのくらいのキレなのか〟を独自の物差しで測れるように、現在、膨大な量のデータをまとめているところです。将来的には、酒造組合と協力して県産酒の味をマップ化していきたいですね」

 

山形県工業技術センター外観。

 

 石垣さんたちが何より大事にしているのは「信頼」。山形の酒を造るために関わっている人たちとの信頼関係が無くては美味い酒はできない。「メーカーからいつでも相談をしてもらえるような立場でいたい」と、石垣さんは微笑んだ。

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