特集の傍流

2018.6.8

作品を作り、残すこと。それは、山形の素材と技術を伝えていくこと。

2018年7月号(165号)芳武茂介とクラフトデザイン。
鋳心ノ工房 代表取締役 増田尚紀さん
gura Craft Store プロダクトディレクション&デザイナー 須藤修さん
山形県山形市

 伝統的な茶釜つくりが中心だった鋳物産業に、モダンな形を持ち込み、山形鋳物の新たな魅力をつくりだしたのが、工芸デザインの先駆者といわれる芳武茂介氏。そんな氏に学び、山形鋳物のデザイナーとなったのが、「鋳心ノ工房(ちゅうしんこうぼう)」を主宰する増田尚紀さんだ。
 鋳物の産地にいるデザイナーとして、その伝統を自ら現場で学び、伝統の技術を大切に守りながら、デザインから製造、販売まで手がけている。それらの作品は見て美しいだけでなく、道具としての機能も非常に優れ、モダンなデザインで世界的にも評価を受けている。

 

「鋳心ノ工房」と書いて、読み方は「ちゅうしんこうぼう」。増田さんいわく、「ノ」を入れた方が、全体の画数のまとまりが良いのだそう。また、「なぜ?」と興味をもってもらいやすく、記憶に残りやすいということもある。

 

 

芳武イズムを受け継ぎ、拓かれた鋳物工芸を追求。

増田さんは静岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、全国各地を回りながら地場産業のデザイン開発に取り組んできた。結婚を契機に山形へ移住し、菊池保寿堂で20年を過ごし、独立後、1997年に工房を設立。斬新かつスマートなブランドを数多く提案している。

 

「私のデザインの師匠は芳武先生ですが、現場の師匠は菊地保寿堂の職人さんたち」と増田さん。銅町の工房にて。

 

工房には、次の工程を待つ作品が。

 

 

ケトルの注ぎ口の型は、このようにつくられる。

 

「芳武先生のような先駆者が、どんな思いでクラフトデザインの道を拓いてきたかという話は、今でも私の基本であり支えですし、先生のシンプルな考え方は、今も世界中で通用する普遍性があると思います」と増田さん。
山正鋳造から譲り受けた芳武デザインの金型を元に、その作品を復刻させたのも増田さんだ。金型のないものは自らそれを作り上げることから始めた。

 

円応寺町のショールームには、1960年代当時の貴重な金型が残る。

 

「現存する先生の作品は少ないですが、もう一度復刻して残せばまだまだ知ってもらえますし、興味を持つ人も現れるはず。次世代に作品を通して技術や思いを継承するためにも、作品を残すことは大事だと感じます」

 

 

山形鋳物だけでなく、全国の他の産地との共同開発も行い、後進の育成にも励む。
「伝統は上手に変化してきたからこそ、今も存在しています。歴史や風土の中で培われてきたいいものを、今の暮らしに合わせ、より良い形で表現するものづくりをしていかねばと思います」

 

増田さんの作品には名前が入っているため、それを見て工房を訪ね、商品のメンテナンスに訪れる人も。全て永く使える品物だ。

 

素材、加工、販売までを、山形という円でつなぐ。
山形の素材と技術を活かすクラフトストア。

 山形市旅篭町にある、蔵を改装した新しい〝まちなかの居場所〟「gura」。併設された「Craft Store」では、県内の様々な伝統技術と素材を、デザインを通じて組み合わせ、山形発のクラフトの新たな可能性を提案している。

 

gura外観。

 

店内の商品を見ていくと、木や石や土、リネンなど、山形の素材の豊かさに気づかされる。

 

金属工芸作家である牧野広大さんの作品。アルミニウムを火で熱して打ち延べる「鍛金」という手法を用い、「草木染め」を施した、唯一無二の組み合わせで作られている。

 

「山形には豊かな素材や職人さんの技術があるのに、普段はそれがあまり見えていない気がします。そういったものにこそ、山形の良さがあると思うんです」と、「gura craft」のディレクションとデザインを手がける須藤修さん。商品はすぐ手に取れるよう並べられており、来店した使い手と作り手が、互いの顔を知ることができる、開かれたショップになっている。

 

「まずはモノに触れて、感じてみてほしい」と須藤さん。

 

南陽市にある、南陽えぼし窯が作る、「蔵模様の器」。幾何学模様は「なまこ壁」という工法。

 

幅広い種類から焼物に合う土を選び抜き、昔ながらの手びねりで作品をつくりあげている。

 

 

 

「職人さんも、どこで自分の作ったものが売られているか分かりますし、作り手にとっても足を運びたい店であることができたら」と須藤さん。実際、職人さんもよくいらしてくれているという。

 

 須藤さんは芳武氏と同じ南陽市出身。氏の理念や感性を崇敬しつつ、同様に、素材と技術、作り手と使い手をつなぐ存在として活躍中だ。
「このような形で、山形への興味の入り口を増やすお手伝いができたら」と話す須藤さん。「これらのモノとの出会いが暮らしを豊かに、また、山形をより誇りに思い、好きになるきっかけになればと願っています」と結んでくれた。

 guraでは、クラフト作りのワークショップも行っている。今後は、マルシェなどのイベントと同時に開催できたらと考えているそうだ。

 

 山形の素材と技術を生かし、作品を作り、残している増田さんと須藤さん。モノを通して現代性と普遍性を伝えていくことは、我々だけでなく、次の世代にも暮らしやモノの選び方へのヒントを与えることになるだろう。

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