特集の傍流

2018.8.23

アートやデザインが、人や街にはたらきかけるもの。

2018年9月号(167号)山形の芸術祭
山形ビエンナーレ 芸術監督 荒井良二さん
山形県山形市

 9月1日より開催される、みちのおくの芸術祭「山形ビエンナーレ2018」。今回を含めて4回にわたり、「山形ビエンナーレ」を代表する方々からお聞きした話を、冊子に載せきれなかった部分までご紹介する。今回は、ビエンナーレの初回から芸術監督を務める、絵本作家の荒井良二さんのインタビュー記事をお送りしよう。

 

 ビエンナーレの作品制作のために、7月下旬当時、山形に滞在していた荒井さん。制作場所である「やまがた藝術学舎」(山形市松見町)にうかがうと、さっそく広げられた作品が目に入った。頭巾をかぶった少女と思われる姿。机の上には、スケッチやメモなども並んでいる。

 

荒井さんの作品「山のヨーナ」のスケッチ。

 

アイデアメモ。山に生まれ、山に育ち、山に暮らすヨーナは、峠にある小さなお店でおみやげを並べ、お茶を出したりしている。

 

 今回のビエンナーレでは、15年前に着想したという、荒井さんの未完の絵本『山のヨーナ』の物語世界が、文翔館議場ホールに出現する。ヨーナの店は、山の人と街の人が出会い、交わるためのモノがたりの店。人々の話を聞いたり、情報交換の場になったりしているというその姿は、今、山形の街なかで展開している様々な店舗の姿とも重なる。

 

ヨーナがかぶっている頭巾。

 

 

 そんなふうに、様々な人が交じり合う、クリエイティブな場があると、この街はどんなふうに良い方向へ変わるだろう。荒井さんのご意見をお聞きした。

 

「みんなが生活したり考えたり、決定する上での、ひとつの判断材料になっている常識ってありますよね。それと照らし合わせて〝仕方ない〟とか、〝今こうだから〟とか、そういう言い方をよくするじゃないですか。それはやっぱり、そういう時代の流れなのかもしれないし、それを理由にどこか諦めているところがあるような気もするし。その常識を覆すわけじゃないですけど、アートやデザインには、見方を変えたり、気づかないところに視点を少しずらしてあげるという役割があるんじゃないかと思います」と荒井さん。

 

荒井良二さん)山形県出身。絵本作家。1990年に処女作『MELODY』を発表以来、数々の絵本や挿画を手掛けながら、日本を代表する作家として国内外で活躍中。

 

「どうしても、常識ばかりで物事を判断しがちじゃないですか。それをすこしゆるやかに、こうもあるんじゃないの、ああもあるんじゃないの、と提案することができる。山形だけじゃなくて日本全国そうなんだと思うんですが、同じような問題を抱えていて、〝まあ仕方ないよね〟という諦めのようなものが、どこにでもある。でも、〝仕方ない〟というのは、なんとなく切ないと思うわけですよ。たしかに切ないことなのかもしれないけど、〝ちょっと待てよ?〟と考え直してもらう役目もあるのかと。考え方や、生活に役立つ思考の入り口に、少しゆるやかさというか、はばを持たせたりするということですよね。

 日本全国、同じような問題を抱えていて、すぐに答えや結果を求めがちな世の中において、すぐに答えが出せるようなものではないかもしれない。けれど、視点を変えることによって、街の中に転がっているヒントに気づくかもしれないし、街が抱える問題を解決できる可能性もあるかもしれないし、こうすればもっと楽しそう、面白そうって、みんながいろいろなアイデアを出せるようになるかもしれない。
 その点でいえば、ビエンナーレは自然と人が集まるような仕組みになっている。なので、〝なんなんだろう?〟ってもっと興味を引くようなことを、こちらでどんどんしないといけないなと思いますね。ビエンナーレも、楽しそうとか面白そうって、そんなふうに興味を引くような、人を引っ張るようなものでありたいんです」

 

昨年行われた「山のヨーナ」のワークショップにて作られたもの。不思議なお守りのようなものも売っているヨーナの店にありそうなお守りをみんなで考え、粘土や木片や石を使って作ったという。

 

 

「人々が五感で楽しむ入り口を作りたい。アートやデザインは、私たちとは関係のないところでやっているものなんだろう、と思っている人もいるだろうけど、自分の周りって、全てデザイン化されたものなんですよね。デザイン化されたものを選んで、好きなものを作ったり選んだり、身にまとったりするのもデザインだし、それがアートにもなる。それなのに、なぜかデザインやアートと聞くと改まってしまったり、なにか自らハードルを設けて、それを高くしまっている。既にあるものなのに、また別の意味づけをしたがったりする。
 そんな理由で、私には分からない、俺には必要ないとおっしゃるんでしょうけど、いやいやいや、もう貴方はデザインやアートのある世界に入ってますから! デザインされた世界で生きてますから!(笑)ってことなんですよ。それに気づいてほしいですね」

 

 

「デザインって、目に見えるものだけじゃなくて、人と人とのつながりとか付き合い方も、コミュニケーションというデザインされたものだし、単純なものというと違うのかもしれないけど、簡単なものなのかもしれない。追求すると、難しさってものがあると思うんですが。
それでも、ビエンナーレは難しいことをうたうものでは全然ないので、気軽に楽しんでもらえたらいいですね。その中から子どもの声が聞こえてきたらうれしいです」

 

 子どもから大人まで楽しめるイベントが充実している「山形ビエンナーレ」。皆が一緒に楽しもうという試みに対する荒井さんの思いが、ひしひしと伝わってきた。

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