特集の傍流

2018.8.25

さまざまに表現された、山形に会いに行こう。

2018年9月号(167号)山形の芸術祭
山形ビエンナーレ プログラムディレクター 宮本武典さん
山形県山形市

「山形ビエンナーレ」を代表する方々からお聞きした話をご紹介する3回目は、初回のビエンナーレからプログラムディレクターとして全体を構成する、東北芸術工科大学美術館大学センター教授でキュレーターの、宮本武典さんのインタビュー。
「ビエンナーレも今回で3回目です。着実に、地域に根付いてきたというか、生活の中に無理なく組みこまれて来始めた感じがします」と宮本さん。

 

心躍る出会いや、学びが生み出される芸術祭

「回を重ねるにつれて、最初は特殊なものとして捉えられてきたアートが、もう当たり前になってきたのかなという感じがしますね。だから、これ以上ビエンナーレでもっと何かをやりたいというよりは、なだらかに、溶け込むように、普通の風景として存在していけたらなと思います。今回のお祭りを通して、ビエンナーレがある町・地域として、〝ああ、またビエンナーレがやってくる時期だね〟と人々が話してくれるようになるのが理想なんですが、ビエンナーレを楽しみにしてくださる方がだんだん増えてきていることは嬉しいです」

 

宮本武典さん)東北芸術工科大学美術館大学センター教授・主任学芸員。展覧会やアートフェスのキュレーションの他、多様な企画をプロデュースしている。

 

山形ビエンナーレでの作品やイベントは1回目から一貫して、暮らしの中に地続きで存在しているものを意識し、表現していると、宮本さんは説明する。
「いわゆる、美術館の中でしか存在していない美術というよりは、暮らしの中に馴染んでいくようなアートや表現の語り方を意識していますね。特に、山形ビエンナーレの場合は、芸術監督の荒井良二さんによる、絵本という入り口があります。絵本という形で、ひとつの物語をみんなに語りかけているんですが、すごく壮大な紙芝居みたいな感じですね。それは一回目からずっと大事にしていることなんです。その語りを、まずは感じてもらうことですよね。まずは見に来て参加してもらうことが大事かなと思います。
アーティストも、自分自身がわかりきったことを表現するのではなく、それこそ未知のものに挑戦して物語ります。山形と関わることで、今まで見えなかったものや、いろいろなアイデアが生まれてきたり、思いもよらなかった出会いがあったり、という積み重ねの中から、どんどん表現を探求していくので、ビエンナーレで展示されているものは、整理されて分かりやすくパッケージされたものというよりも、アーティストが山形と出会って作ったものが、生のまま出ている。そういう意味で言うと、一見、分かりにくいものも含まれているのかもしれませんが、作ったアーティストがそこにいるので、〝これはなんですか?〟ってぜひ聞いてもらって、コミュニケーションしてほしいですね。ビエンナーレは作家との距離も近いですし、そのコミュニケーションをぜひ楽しんでいただきたいです」

 

今回の開催テーマは、「山のような」です。

 ビエンナーレには多くのプログラムがあるが、そこにあるのは、今回の開催テーマに沿った〝山のような〟もの。そこに表現されているのは〝山形〟であるため、ある意味私たちの自画像でもあるのだ。
「いろんなアーティストたちがどんなふうに山形を見て、捉えているのかということを、ぜひ楽しんでもらいたいです。それは僕らの物語でもありますし、それを見た方の物語にもなると思います。よその世界のお話ではなくて、ぜひ自分に関わっていることだということを見てほしいな、と思いますね」

 

山形県内だけでなく、全国各地から「山形ビエンナーレ」を見に、足を運ぶ人は多い。宮本さんいわく、そういった方々にとって、ビエンナーレは様々な地域づくりの参考になる部分もあるのだとか。
「山形だけでなく、全国各地にいろんな地域芸術祭がありますが、山形ビエンナーレに来てくださる方々からは、アーティストのセレクションにしても、打ち出し方にしても、山形だけちょっと独特なことをやっているよね、とよく言われるんです。山形ビエンナーレは、当然ながら山形のことをテーマにしていますが、〝山形すごいぜ!〟という話ではなくて、小さな町で文化的に自立して生きていくことがどういうことなのかを考える場でもあると思うんです。つまり、東京を代表とした都会や、世界的に見た場合のスタンダードに合わせていくのではなくて、山形は山形の美意識や〝これって、いいな、素敵だな〟と思うものを大事に育てていって、山形独自の美意識や、大事なものを表現していけば良いんですよね。でもそれはどこかにお手本があるわけではないので、そういう地域の文化の目覚めのようなものが、いろんな町で起こっていったらいいなと思います」

 

 

「とにかく、お祭りなので、みんなといい時間や空間、出会いを共有できる場にしたいですね。前回のビエンナーレが終わってから準備を始めて、今日までアーティストやデザイナー、地域の協力者の方々と一緒に作ってきた時間が、やっぱり何よりもいい時間で、いいコラボレーションを通して今日まで来れたので。それが最後の最後に作品やイベントとして結実するわけですが、これまでみんなで過ごしてきた時間にふさわしい、お祭りとしての表れっていうんですかね、そうなるように、最後まで丁寧にやりたいなと思います。結果的に、僕らが過ごしてきた時間で気づいたことや、表現しようとしてきたもの、それがしっかりと正しく作品やイベントとして形になっていれば、結果的にそれは良いものを作り出してくれるんじゃないかなと思います。これまで頑張ってきてくれたアーティストの皆さんと、最後まで走り抜けたいですね。
今回は郷土玩具をテーマにしたプロジェクトが多いんですけども、美というものを考えたとき、元々、〝美しい〟という言葉の語源って、〝愛しい〟なんですよね。自分よりも弱くて小さなものに対する愛情や、慈しむ心が、〝美しい〟の語源だったということで。ビエンナーレって、1回目からそこをすごく意識しているんです。こけしとか、子どもとか、そういうものを慈しむ気持ちというものが、日本人の美の原型にあるんだな、という意識ですね」

 

思い返せば、宮本さんの後方に貼られた、「山形ビエンナーレ」の歴代のポスタービジュアルにも、ずっと子どもが登場していることに気づく。

 

「お地蔵さんとか仏像とかを見ても、体は大人っぽいけど、顔つきはすごく柔和で子どもみたいだったり、そういう小さな子どものような存在が持っている生命力とか、新鮮さ、そういうものに対して惹きつけられてきた日本人の文化があるんじゃないかなと僕は思うんです。
美というと、高尚なもので、大人たちやインテリな人しか分からないということではなくて、実はそういう、〝ああ、なんかめんごい(かわいい)なあ〟という気持ちや、〝ああ、なんかこういうのって素敵だなあ〟という気持ち、連れて帰りたいとか、飾っておきたいとか、目に入れても痛くないとか、可愛くて食べるのがもったいないなとか、そういう気持ちがあるじゃないですか。美にあるのは、元々はそういう思いなんじゃないかなあと。なので、山形ビエンナーレはそういう、地域にとっても、〝めんごいなあ〟と思われるようなものを提示していけたらと思います。
わりと、強烈な強さがあってダイナミックなものというよりも、ちょっと儚くて弱々しいから放っておけない、みたいなものが結構好きで、この芸術祭もあまり大きなものにしたくないというか。地域の人からしてみればすごく大きなイベントに見えてしまっているのかもしれませんけど、実はすごくささやかな手作りのもので、ものすごく感動させるものというよりは、これっていいよね・大事だよねとか、あれが無いとやっぱり淋しいよね、というようなものであってほしいんです。そういった、ささやかだけどピュアな芸術祭。そういう地域の新しいお祭りとして続けていけたらなと僕らは思っています」

 

今回の「山形ビエンナーレ2018」のポスターを掲げる宮本さん。

 

ちなみに、お祭りには2つの種類があるのだと、宮本さんは説明する。
「1つは、お盆のときに、亡くなった霊魂が帰ってくるとか、観光客が帰ってくるとか、その時に合わせて帰ってくる誰かを迎えるお祭り。そしてもうひとつは、地域の人たちが自分たちの土地の神様のためにやるお祭り。日本にある有名なお祭りのほとんどは、元々はそうやって、地元の人たちが自分たちのためにやっていたものだったんですが、規模が大きくなっていくと、外から人を迎え入れるというお祭りに変わっていってしまうんですよね。
でもビエンナーレは、外から来る人も、もちろん嬉しいけれども、まずはこの街に関わっている人たちが、関わってよかったとか、楽しかったとか、2年後またこれを楽しみに頑張ろうよとか、それがその街に暮らす動機や楽しみにもなっていったり、その街に住んでいる誇りになったりするようなものでありたい。山形っていいね、みたいな感じを言い合えるようになっていったらいいのではないかな、と思います」

 

そこで出会った人たちが、みんなで一緒に作る経験、それが「山形ビエンナーレ」。その経験から得た発見が、山形を今以上に素敵に感じられるきっかけになるかもしれない。

 

山形ビエンナーレ2018ディレクタートーク「ぼくらのみちのおく入門」の様子(2018年9月1日開催) 写真提供/東北芸術工科大学、撮影/志鎌康平

 

山形ビエンナーレ2018ディレクタートーク「ぼくらのみちのおく入門」で語る宮本さん(2018年9月1日開催) 写真提供/東北芸術工科大学、撮影/志鎌康平

 

山形ビエンナーレ2018インタビュー企画「こどもと本のある風景」ゲストは寺尾紗穂さん(9/16開催) 写真提供/東北芸術工科大学、撮影/志鎌康平

 

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