特集の傍流

2018.8.25

美大のイメージを超える大学が主催する、山形ビエンナーレ。

2018年9月号(167号)山形の芸術祭
山形ビエンナーレ 総合プロデューサー 中山ダイスケさん
山形県山形市

「山形ビエンナーレ」の代表者からお聞きした話をご紹介する記事も、これで4回目。最後となる今回は、「山形ビエンナーレ2018」の総合プロデューサーであり、主催である東北芸術工科大学(以下、芸工大)の学長でアーティストの、中山ダイスケさんへのインタビューをお送りする。
芸工大の学長という立場から、同大学の魅力や地域とのかかわり、そして、今回のビエンナーレについての思いをうかがった。

 

すべての学生が創造的で、地域社会に開かれている大学へ。

 地方に美術大学がある意味を、最も示せるのがこの大学だと思う、と話す中山さん。
「どこも、産業や経済に頼った発展が行き詰まっていて、それを何によってブレイクスルーしていくかということで、必ずクリエイティブが問われている。クリエイティブが世の中を変えてきた事例は世界中にたくさんあって、クリエイターが社長だったり、リーダーにクリエイティブ資質がある企業のサービスがすごく伸びていたりと、そういった事例に事欠かない時代になっています。ただ、いろんな職場にアイデアマンたちがたまたま集まっている町はすごく面白くなっていくんですが、そういう人たちがいない町は、結局、都会の代理店にアイデアを頼んだりと、町の活性化を業者に委託していたりして、それはあまりちゃんとした町の発展につながらないことが多くて。予算が切れたり、そのプロジェクトが終わってしまうと、ひとつの祭りが終わっていってしまう。
でも、山形に芸工大があるということは、4年間人は変わるけれど、必ずクリエイティブを勉強している若い人たちがたくさんいるという状況を作ることができる。町のことを、自由に、真剣に考える人たちが常に2400人いるという状況は、すごい財産だと思うんですよね」

 

中山ダイスケさん)現代美術家、アートディレクター、(株)daicon代表取締役。2018年4月、東北芸術工科大学学長に就任。山形県産果汁100%のジュース「山形代表」シリーズのパッケージデザインや広告、スポーツ団体等との連携プロジェクトなど、地域と関わるデザイン活動も活発に展開している。

 

2400人の学生たちが、常に山形のまちと関わることができる状況を作ることが、この大学がこの場所にある意義だという中山さん。芸工大は山形の地域と様々に連携し、講義やイベントなども開催しているが、好評だった事例や具体例などは、「ありすぎるほどにある」という。

 

「その中で今、芸工大が一番役に立てていると思うのは、空き家活用なんです。山形に住む人が少なくなっている中、生まれる子どもも少なく、人口が減少していく。それを不幸と捉えるか、環境と人のバランスが良くなっていると捉えるかは人それぞれですが、減るものを止めることはできない。ですが、最近よく言われている関係人口を増やすということ、つまり、山形に定住する人口ではなく、山形に毎年遊びに来たり、この時季はこれを食べに来たりするとか、近県に住んでいるけど、山形で働く方がいいと思っている方など、山形と関係する人々の数を増やすことを考えようと。その新しい出方を作っていけるアイデアをたくさん出せるのが、芸工大の強みですから。地方に美大があることで、町が喜んでくれる状況が作れてきたんじゃないのかなと思います。
山形って、地域の課題がちゃんとあるんですよ。これは不幸なことではなくて、どこの地域も必ず同じように問題視されていくことが、山形はちょっと早めに、そこにあるというだけなんです。山形だけの人口が減っているのではなく、本当に全国的に人口は減っていくし、若い人は少なくなってくるし、高齢化が進んでいって、気付いたらおじいちゃんおばあちゃんばっかりになっていると。でも、そういったことが他よりも先に進んでいるなら、先に解決策を考えることができるし、今までのように他県の事例ばかりを取り入れないで、最初にやれることをたくさん作れるはずなんです。
空き家は市に渡して、みんなで住んでもらおうとか、自動運転の車やバスが開発されているなら、山形を実験都市にして、路線バスを全部無人化してみるとか、高齢の方がキャッシュレスで暮らせる街にするとかですね。中国に行くと、田舎の小さな街が、どんどんキャッシュレスになってるんですよ。でも、実験しようという発想が、山形の人ってほとんどないので。僕は関西の出身なので誰もやっていないことのほうがおいしいと思ってしまうんですが、山形の人は、誰もやっていないことは絶対に手を出さないんですよね。でもそういうことを、〝芸工大がやるなら、まあ、やってみようか〟と思ってもらえたらいいなと思いますね」

 

芸工大の学生が復活に関わった『郁文堂書店』。写真提供/東北芸術工科大学

 

「今はアイディアを売る時代で、スマホを例に挙げると、スマホをどう使うかの方が求められている。そういう時代と、美大のあり方がフィットしたんだと思います。この山形にとっての芸工大は、地域にとってのスマホのようなもので、どう使うかは地域にも求められていると思うんですよね。
以前は芸工大に対して、丘の上にあるよく分からない大学だと思っている人が大勢いたと思うんですが、毎日、新聞やテレビに、芸工大が仕掛けているいろんなアイディアが報道されていると、まあ、そのことで余計に遠く感じる人もいらっしゃるのかもしれないけれど、芸工大ってこういうこともやるんだって、大小さまざまな事例があるんだって知ってもらうきっかけになる。そういった様々な事例を仕掛けていけるのが芸工大の強みかなと思います。
芸工大は本当に、小さな家族経営の農家さんを盛り上げることに学生が何十人も協力したり、自分がまずそこに住んでみようか、というところから始めてみたり、そういった草の根的な事例がたくさんありますが、目指しているのは、どの学科もほぼ100パーセント、クライアントが存在するリアルな課題です。もちろん大学なので、1年生や2年生のときに、基礎的な教養や知識を学ぶんですが、課題はすべて、クライアントがいる状態にしたいんです。現在は、ほぼ7、8割はリアルな課題になっているはずです」

 

町や地域と関わりながら、ここにある意味をともに作ってきた芸工大。そこに在学する学生たちには、4年間の学びの中で、リアルな社会との関わりを持ってもらう。それが、芸工大の大きな指針だ。
「また、芸工大は学内での横のつながりがすごく強いんです。例えば、建築学科がやっているプロジェクトに、グラフィック学科の学生が関わっていくとか、芸術学部でアートなことを学んでいる学生たちが見つけたものに、デザイン工学部でデザインを学んでいる学生たちが関わって、それを編集してみるとか。そういった学科間のつながりが強いのは、美大・芸大業界の中では異例なことなんです。他のところはだいたい、隣同士にある学科がライバルなんですよ。似たような学科が似たようなことをやっていて、もちろん、対抗意識や学内のライバル視みたいなものが学校の力になっている大学もありますが、芸工大の場合は、そもそも教員それぞれがプロで、この大学に教員としてやって来る前から他の仕事をしていて、様々な業界の人と関わり合っていた。つまり、リアルなクリエイティブの現場にいた教授陣が、そのクリエイティブのつながりを持ったまま先生になっているので、自ずと学生たちも同じように交わることができるんですよね。学科を横断していく連携がたくさんあって、それはまさに、プロのクリエイティブの現場と一緒なんですよ。そのプロセスが学校にいる間に体験できるということは、ちょっと驚きですよね。実際に自分が社会に出たときの縮図が、講義の中にあるということ。それは他の大学にはない武器です」

 

そういった〝横の連帯〟を、学長に就任する前から、活発に行っていた中山さん。学長である今、さらにその連携を広められるはずだと語る。
「もっとカジュアルにいろんな学科を混ぜて、クリエイティブの総合大学のような意味で、新しいかたちを持った大学ということを打ち出しているんですが、教養を持った人間で、さらにアイデアのある人を育てなきゃいけないという意味では、美大の概念を超えなくてはいけない。美大に対して持っているマイナス的なイメージを塗り替えて、しかも、とっても保守的な山形の人に、美大を理解していただくっていうのは、とてもハードルが高いと思います。でも、そこに挑戦していきたいですね。
というのも、大学の風土として、課題は社会にあるということを作りたいんです。世の中の一員として、クリエイティブを生かす生き方ができる人を育てていけるようにしたい。
あと5年で、働き方も随分変わると思うんですが、多くの社会の人たちは人工知能(以下、AI)に仕事が取られてしまうと考えていますけど、僕は、誰でもできることを機械が受け持ってくれるということは、それ以上のことをやっていいという時代だと思うんですよね。だから、芸工大を出た学生は、AIとうまく付き合っている人にしたいと思ってるんです。
AIのおかげで空いた時間に違う創作活動をするとか、AIが仕事をやってくれているなら、AIにもっと難しいことをやらせてみようとか。クリエイティブな発想の絶対数が多ければ、それだけいろんなことができるし、AIにもいろんなことをさせられる。そう考えると、AIに仕事が奪われて、人間が要らなくなってしまうということはないと思うんです。そういう、AIとの新しい付き合い方を、美大を出た人が見せてくれるんじゃないかなと思いますし、そういった新しい時代の生き方を実践する人を芸工大卒業生から作っていきたいし、その準備を4年間したいんですよね」

 

 

今、クリエイターに必要なのは、何が課題かを見つける力。

 学生が社会と関わる機会、リアルな地域の問題と関わることのできる機会を多くしている芸工大だが、ビエンナーレは、スタッフとして活動する学生が、社会と関わることができる場でもある。
「よく、デザインやクリエイティブが社会の課題を解決すると言いますけど、それももう使い古された言葉になっていますし、そんな時代も既に古いんです。課題を解決する以前に、何が課題かを見つけるというのが、クリエイターの役割なので。その点でいえば、この大学にあるコミュニティデザイン学科は最新のデザインをやっていますけど、課題を抱えた地域に入っていって、何が課題かを見つけてくるということをしているんですね。それは本当にすごいことだと思うんですよ。そこにはものすごくいろんな技術や根性や、修練も必要になる。
そんな大学がビエンナーレを開催するわけですが、ビエンナーレというのは本当に、アートを難しく考えてもらうのではなく、クリエイティブ表現は自分にとってどうなのか、ということですね。面白いか面白くないかという判断でもいいし、こういう発想って役に立つなあ、ということでもいいし、コンサートだと思っていたらこんな風変わりなものがあるんだとか、そういうものでもいい。美術は、白い部屋に四角い絵画が飾られているものではないというのを知って欲しいですね。体験もアートなんだ、とか。
あと、普段皆さんが見慣れた街に、そういった要素をつくるというのが僕らの狙いにありますので。本当に全国からお客さんがいらっしゃいますけど、本当の目的としては山形の人に向けてのものなんです。山形の方々が一番楽しめるお客さんですし、山形の人が一番ニヤニヤできるんですよ。元々の姿を知っているから。外から来た人にとっては面白いショーですけど、東京から来て見るよりも、山形の内輪ネタが満載なので、ぜひ山形の人々に見てほしい。金・土・日曜と祝日のみの開催にしたのも、山形の人に見てもらいやすいようにという考えからですので、見てもらえたらとても嬉しいです。山形って面白いよね、って思う人を一人でも増やせればいいなと思いますね」

 

ビエンナーレ2016の際、文翔館で行われたイベントの様子。写真提供/東北芸術工科大学

 

「美大への入学を考えている高校生は、面白いものに反応してくれて、ビエンナーレにも足を運んでくれやすいと思うんですが、その学生のご家族の方々が、芸工大って面白いことをやる大学だね、って思ってくだされば嬉しいです。
この学校の入学者は7割が東北の学生で、そのほとんどが宮城県から来るんです。やはり仙台という有名な地方都市を直に知っている人たちにとっては、街を賑やかにしたり、素敵な街を作ったりしていく役割の多くを、クリエイティブが担っているんだと普段から知っているので、芸工大で学んだら、仙台の代理店やテレビ局、雑誌編集部、インターネットメディアを展開する企業などで働きたいといって、芸工大に来てくれるんですよね。
山形の人たちも、山形のあり方をもっと面白くしていきたいと思ったら、芸工大が役に立つと思うんですけど、それを山形の人たちに理解していただくのは、なかなか難しいところがあります。全国の美大ランキングにも4位とかに入る大学が地元にあるのに、そういう意味では地域の方の理解をまだ得られていない部分があると思いますので、一番難しいところに挑戦しようかなと。山形の方と知り合うということが、難しいですが芸工大が一番やらなきゃいけないことです。
将来的には、何かアイデアほしいなと思ったときに、ちょっとデザインや企画について勉強したいとか、一回学校に行きたいなという人を、受け入れられるようになったらいいなと思っているんですよ。将来、芸工大は地域の学校になっていければと。高校を卒業した学生さんがメインなるとは思いますが、その中にもたくさん、地域の大人が混ざっているという学校にしていきたいと思っています。そこで学ぶことは学問ではなくて、ひとつの体験なんですよ、ということですね」

 

地域に向けて、日々新たな可能性を考えている芸工大。その芸工大の試みを直に体験できる「山形ビエンナーレ」は、9月1日から24日までの金・土・日・祝日、計13日間にわたって開催される。
山形の100年の歴史がつまった旧山形県庁舎の「文翔館」を中心に、「とんがりビル」などの街なかと、丘の上の芸工大を舞台に展開される多種多様なプログラムは、地域や、そこを訪れる人々に向けられた、芸工大をはじめとする、関わる全ての人からのメッセージだ。それらを感じに、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

山形ビエンナーレ2018ディレクタートーク「ぼくらのみちのおく入門」の様子(2018年9月1日開催) 写真提供/東北芸術工科大学、撮影:志鎌康平

 

山形ビエンナーレ2018ディレクタートーク「ぼくらのみちのおく入門」で語る中山ダイスケさん(2018年9月1日開催) 写真提供/東北芸術工科大学、撮影/志鎌康平

 

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