特集の傍流

2018.11.12

歴史が紡ぐ石の表情を大切に、街と融合する広場と3つの蔵。

2018年12月号(170号)YAMAGATA COZY STYLE 2018
アーキテクチュアランドスケープ 一級建築士事務所 渋谷達郎さん
山形県山形市

 山形市中心街のにぎわい創出を目的に今年3月にオープンした複合施設『gura(グラ)』。建築設計を手掛けたのは、東北芸術工科大学出身の渋谷達郎さんだ。

 

建物“だけ”ではない。周囲と調和する設計を。

「大学卒業後に就職した設計事務所では、造園の部署にいましたが、建築設計を担当している会社の先輩達が、真っ白な紙に建物の図面だけを描いていて『なぜ周囲の道や木々を描かないのだろう』と違和感を覚えました。元々、大学でランドスケープやアーバンデザインを学んでいたこともあり、建物とその周辺の関わりが大切だと思っていたんです」

 

渋谷達郎さん/長井市出身。慶応義塾大学の大学院では建築家・隈研吾氏の元で学ぶ。

 

 渋谷さんはその後、慶応大大学院で建築の勉強を深める。大学院では、建物と周辺環境の関わりはもちろん、その地域ごとの材料や技術の建築への活かし方についても学ぶ。その後、大学教員や地域おこし協力隊などで街づくりに携わりながら、山形に建築事務所を構え今に至る。

 

過去を、現在につなげるために融合する技と知恵

 『gura』には、もともとあった旧家の土蔵を生かしたクラフトストアと、山形駅西にあった石蔵を組み直したレストランとラウンジホールを広場がつないでいる。

 

広場からレストランを見た様子。

 

guraクラフトストア。

 

レストラン内観。

 

ホールは従来の間口を広げ、大きな窓を取り付け空間を拡張。また、レストランもイベント時に開放できるように広場に面して大間口を設置し、余った石は広場に敷き活用した。

 

ホールには、細長い杉板を平行に並べたルーバー状の天井を採用。

 

対してレストランは高く円形に。ホールの天井とともに、guraのロゴマークである、ひし形と円形のイメージとも合致する。

 

「採石時のノミの削り跡や、風化の跡はできるだけそのままにしました。石の表情が建物ごとに違うのも魅力のひとつです。石が持つ質感や強さ、そして石の歴史が育んできた時間が作るデザインを大切にしました」

 

旧木村邸の土蔵と、山形駅西土地区画整理事業で解体された旧半田商店の石蔵を活用。石は南陽市産の中川石。

 

 土蔵についても、押入れや床の間を棚に変え、新たに取り付けたエアコンや排煙の通気口を隠すなど、随所に工夫が施されている。
「『蔵を住居にしたい』と相談いただくことがありますけど、あまりおすすめしていません。家庭に残っている蔵は土蔵が多く、窓がないなど、生活できるようにするには、かなり手間がかかりますから」と渋谷さん。
 guraを構成する3つの蔵もリノベーションにあたり様々な工夫が施されているが、2つの石蔵だけでなく、クラフトストアとして使われている築百余年の土蔵についても、頭を悩ますことが多かったようだ。

 

 

 この土蔵は元々、土間と畳敷きの二間がある1Fと、ハシゴの様な急な階段で登る2Fで構成されていた座敷蔵だったという。店舗として利用するにあたり、1Fについては欄間や襖を全て外し、押入れや床の間だった箇所を棚にするなどして1部屋に再構成している。2Fは商品在庫の保管や、スタッフの休憩室として使用しているが、床を外し、一部を吹き抜けにしている。これは、建築するにあたり、採光と排煙の基準をクリアするための策なのだそうだ。土蔵は壁が厚く、新たに窓を作ることも容易ではないため、元々あった窓を最大限に活かしている。

 

「七日町界隈はリノベーションが活発。建物だけでなく、広場も含めた『gura』全体が街に溶け込み公共の空間を変えていく起爆剤になってほしい」と語る渋谷さん。
 先人の残したものを利用しながら、現代に則した建築にリノベーションする。時を超えた、技や知恵の融合が生み出す新たな価値は、深慮した意匠によって姿を変えながら、これからも街に生き続ける。

 

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