特集の傍流

2018.11.12

リノベーションは、エリアそのものを変える力を秘めています。

2018年12月号(170号)YAMAGATA COZY STYLE 2018
井上貴詞建築設計事務所 井上貴詞さん
山形県山形市

「夢は新築一戸建てのマイホーム」という形容が用いられるように、日本では、家は築年数が古くなると建て替えるものという考えが一般的だった。建物を壊しては建て替える「スクラップ&ビルド」を繰り返してきたが、近年はマイホームの選択肢が新築だけでなく、中古物件やリノベーションに広がりをみせている。住まいに対する考え方やライフスタイルの多様化にともない、とくに若い世代を中心に「古くても気に入った家を買って、自分の好きなように手を加えて住みたい」と考える層が着実に増えているからだ。

 

「新築には出せない古さが醸し出す味わいやよさを引き出し、魅力に変えるのがリノベーションの本質ですね」

「この数年でリノベーションという言葉がだいぶ普及したように思います。思い描いた理想の住まいを手に入れる方法として、〈中古物件を購入して、リノベーションする〉選択肢を選ぶ方が増えていますね」とは、前の記事でも登場いただいた、建築士の井上貴詞さん。予算を低くおさえられるというメリットだけでなく、あえて築年数が経過した古い建物に興味を持つ方が増えているという。
リノベーションの普及に伴って参入業者も増え、「リノベーション」と「リフォーム」の使い分けは明確ではなく曖昧になっているのも事実。はっきりとした線引きはされていないのが現状だ。
「リフォームもリノベーションも既存の建物に手を加えるという点では同じですが、建物自体が持つ魅力は保ちつつも、そこに新しい価値を付加するところにリノベーションの本質があります」

 

どの建築設計にかかわるときも、施主の方の暮らしや好みに沿ったものを心がけているという。

 

リノベーションではさらに、建物の価値を理解した上でその個性を引き出す設計が求められる。

 

スタジオにはこれまで手がけた物件の模型が並び、これらは井上さん自ら製作したものも多い。

 

リノベーションという言葉の解釈

リノベーションという言葉が大衆化したことで、その言葉の解釈が曖昧になっていることも指摘されている。それは、その言葉自体が普及しているという裏返しでもあると井上さんは言う。
「リノベーションが盛り上がっている今だからこそ、より質の高い空間づくりに磨きをかけていくこと。そして、正しい方向にまちづくりが進んでいってほしいですね。山形には、リノベーションで生まれ変わり得る物件が各地にまだまだたくさんあると思いますから」
懐かしさや経年による味わいを感じさせる場所は、人をあたたかな気持ちにさせてくれる。山形にもリノベーションの点と点が線になり、輪となって、そうした場所が増えていくことを期待したい。

 

音楽記号「♯(シャープ)」が着想という事務所のロゴ。シャープは「半音上げる」の意であり、価値を引き上げる建築を、という設計への思いをカタチにしたものだ。ずっと見てると柱と梁、編み目、井上の「井」などいろんなものに見えてくる。

 

次代に繋がっていくような“場の再生”を感じる、井上さんの仕事一例。右上から時計回りに、月山トラヤワイナリーのショップ、新丁の家(湯守の旅籠)内観と外観、ハーブ/アロマテラピー/フォトスタイリングの教室& SLOW LIVING(写真提供:井上貴詞建築設計事務所)

 

エリアリノベーションが、まちづくりのヒントに

リノベーションは個人住宅だけではなく、町全体に広がりを見せている地域も出てきつつある。全国的に見ると、群馬県桐生市は近年リノベーションの盛んな町といわれているように、古い建物を壊さずにリノベーションをする機運が高まっているという。専門家によると、エリアリノベーションによって生まれ変わった地区は主なところだけでも全国に10カ所以上あるとか。
「リノベーションの点と点が面につながって、リノベーションを通じてエリア全体の価値を底上げしていくのがエリアリノベーションのイメージです。地域の魅力をアップデートする方法として、これからとても有効な選択肢になっていくでしょうね。建築に関わる者として、正しい方向にまちづくりが広がってほしいと思います」と井上さん。
地域活性化や街づくりのヒントは今後、エリアリノベーションという考えも持つことが大切な要素になりそうだ。空きビルや空き家がその場にしかない本質を取り戻し、あらたな価値を加える輪が広がって、町が活気を取り戻していく。再生の可能性を秘めたエリアは、意外と身近にあるのかもしれない。

 

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