特集の傍流

2019.4.5

郷土の魅力を伝えてきた、本の価値を考える。

2019年5月号(175号)やまがた 市民の出版物。
山形県立博物館 研究員 野口一雄さん、書肆犀 主宰 岩井哲さん、
山形市立図書館 館長 横倉明史さん、小荷駄のみどりから… 運営委員長 井上幸弘さん、
企業組合リンクシップ 副理事・自分史活用マスター 伊藤洋子さん ほか
山形県山形市、上山市

 ある旅籠屋の主人が、2泊3日で客人に山形市内を案内する様子を描いた「松の木枕」という書物がある。現在の七日町周辺を中心に、北は宮町や下条町、南は十日町や上町を回るコースを解説し、寺社仏閣や行われていた催し事、季節ごとの様子を紹介しており、江戸時代後期における山形市街の地理や習俗の最も詳細な記録と言われている。紹介の内容は、薬師町の植木市や初市など、現代に通じるものも多い。まさに、山形の観光案内書の先駆けと言える本であり、もしかすれば、存在が確認できる山形最古の市民出版物とも言えるかもしれない。

 

写本が多く現存する、著者不明のベストセラー

 山形が事細かに紹介され、「山形最古の観光案内書」とも言える「松の木枕」。その原本はいまだもって発見されてはいないものの、多くの写本が流布し、現在に残されている。著者については仏師権助、初出本は明和年間(1764〜1772)との説があるが、まだ研究をする余地がありそうだ。写本については、詳細な内容が付け加えられているものと、概略的な記述のものとに分かれる。書名も「松の木枕」と冠しているものもあれば、内容が酷似している別名の書物、無題のものなどがあり、それらを合わせると現在20冊以上見つかっているという。写本としては数が多く、当時としては大ベストセラーで広く親しまれていたことが伺える。

 

市民による出版物が、市民にもたらすものとは。

「松の木枕」がこれほどまでに多く写されてきたということは、それだけ人々が夢中になり、広く読まれ、愛され、様々な方面に影響を与えてきたということでもある。現在も、市民による出版物には、自費出版のものや無料配布のものも含めて、まちの声や姿を伝えてきた本が数多く存在する。そして、それらを読んだ人々が著者の想いにふれるとともに、自分のふるさとの姿を見直したり、新たな発見を得たり、自分の住んでいるまちを少しだけ好きになったりすることもある。
 今一度、地域の魅力を伝え、磨いてきた市民出版物の価値を見直すとともに、自分たちが生まれた故郷のカルチャーを活字で残すことの意味を考えてみたい。
 2019年5月号(4/5発行号)特集「やまがた 市民の出版物」。特集のレポートは順次更新していきます。お楽しみに。

 

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