特集の傍流

2019.4.11

やまがたを活字で描き続けて40年。いま改めて思うこと。

2019年5月号(175号)やまがた 市民の出版物。
編集出版工房「書肆犀」 主宰 岩井哲さん
山形県上山市

 先日惜しまれつつ休刊した「やまがた街角」の編集人であった岩井さん。大学卒業後に務めた出版社での経験を生かし、帰郷後の1970年代後半から文学や芸術、カルチャー誌ほか数多くの郷土出版物の制作に携わってきた。

 

仕事場には『書肆犀』が出版を手がけた書籍がずらり。詩集、エッセイ、歴史文学などジャンルも多岐にわたる。

 

本の編集を通して活字表現を支え続ける。
郷土出版の第一人者に訊いた、活字表現の愉しさとは。

「本好きだった親父の影響もあって、子供のときから本に囲まれて過ごしたというか身近にあったことは確か。好きが高じて読むだけじゃ物足りなくなって、作るほうにいっちゃった気もするね」と回想する。
 とはいえ帰郷してすぐ地元で出版の仕事を続けたいと模索するも、当時の山形に出版社の存在は皆無で、それならと山形大学小白川キャンパス前に喫茶店を開いたという。「喫茶店をやりながら地元の友達や文学仲間と雑誌を立ち上げたりしてね。そんなことをしているうちに音楽や美術、演劇とかそういう表現活動をしている人たちが寄ってくれるようになったの。手段こそ違え、それぞれになにかをやりたいっていうエモーショナルな部分って共通しているんじゃないかな。まぁそんななかにあっても私の核の部分では出版をやりたいって気持ちがあったと思う」と話す。
 当時から『書肆犀』を屋号に掲げ、自費出版のサポートを続けていた岩井さんは、喫茶店の経営が10年目を迎えたことを区切りに、いよいよ出版業に主軸をおいた仕事に注力しようと決心する。

 

岩井哲さん/1949年上山市生まれ。編集出版工房「書肆犀」主宰。「月刊かみのやま」編集。(書肆犀 http://syoshi-sai.com)

 

ひたむきさ、情熱、それをカタチに残すもの

 現在、岩井さんが編集を請け負う本は年間5冊ほど。詩集、エッセイ、歴史小説、論文、写真集とジャンルも形態もさまざまだが、それぞれの原稿を読み込み、何度も何度も内容を整理しながら、作者とともに作品をまとめあげていく。本作りで一番大切にしていることを尋ねると、「著者が、その本に託そうと決めた思い、情熱、まずはそれを一番に考えるね。書いてある文章が多少稚拙であっても、まずは著者の思いを優先したい。このデジタル優勢の時代にわざわざ時間と費用をかけて一冊の本をつくりたいっていう強い気持ちに応えたいっていうのかな。山形の同じ景色を見ながら生きている者同士だからこそ共感できることもあるだろうし、はい、綺麗にまとまりましたっていうだけの本にはしたくないよね」と教えてくれた。
 こうして本作りのサポートをしながら、岩井さんはつい先日まで「やまがた街角」の編集を、また「月刊かみのやま」の発行・編集をそれぞれ18年以上続けている。

 

「やまがた街角」第36号と岩井さんの最新著書「異貌の維新《奥羽越》の矜持と無念」(改訂・増補版)

 

 「“やまがた街角”は18年の歴史を閉じたわけだけれども、取材や編集を通して毎回いろんな収穫がありました。誰しも見慣れた景色は当たり前だと思ってしまう。だけと一歩踏み込んで調べてみると違う表情が見えたりする。“月刊かみのやま”も同じで、数十年と住んでいるホームグラウンドなのにまだ知らないことがあった。これは残しておかないとダメだと感じて作りはじめたんです」と岩井さん。デジタルが重宝される現代にあえて活字出版を続ける意味について問うと「デジタルってコンセント抜いたら終わりでしょ。どんなに高尚なことが書いてあっても実態がなくなる。仮想現実だよね。だから大切なことはカタチに残しておきたい」との応えが。
 本に囲まれて育ち、そのなかに広がる世界で学び、気づき、羽ばたいてきた経験を持つ岩井さん。いまなお編集者として影となり、ときには自らが書き手となり、本作りという情念の旅を続けている。同じ活字を扱う者として、活字表現の持つチカラ、その可能性は想像している以上に深く愉しいと改めて感じさせてもらった。

 

エディトリアルやグラフィックのデザインも手がける岩井さんにとって仕事道具が革新的に変わった思い出がある、’90年代初期の相棒「Macintosh SE/30」

 

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