特集の傍流

2019.7.12

日々進化し続けている山形のさくらんぼ。その影には、研究者たちのひたむきな努力がありました。

2019年8月号(178号)やまがたとさくらんぼ。
山形県農業総合研究センター 園芸試験場 果樹部長 長岡正三さん、バイオ育種部長 石黒亮さん
山形県寒河江市

 園芸作物の品種育成や栽培技術の開発に努める山形県農業総合研究センター園芸試験場。昭和40年に創設され、果樹部やバイオ育種部などの4部門に分かれ県内農業の発展に取り組む。「紅秀峰」や「紅さやか」もここで誕生し、場内のさくらんぼ畑では大規模化、省人化を目指して、「Y字仕立て」や「V字仕立て」など新しい樹形の開発、さくらんぼの新たな栽培方法の研究も行われている。
 果樹部長の長岡さんは、今年のさくらんぼの出来について「6月上旬の降雹と大雨の影響で、出荷量は例年より少し落ちるかもしれないが、糖度、着色ともに申し分ない品質」と話す。

 

樹形を説明する長岡さん。新しい樹形では、従来より結実が早く、収量も多い。

 

 さくらんぼの栽培は難しく、ちょっとした気候により、その出来が大きく左右される。例えば、さくらんぼの開花前にあたる4月上〜中旬の朝方、気温がマイナスに下がってしまうと芽が枯れてしまい実をつけなくなってしまうという。園芸試験場の管理も難しいため、気温がマイナスになりそうなときには、泊まり込みで対応することもあるそうだ。

 

サイズは直径で選別。生産者は基準プレートを使って、厳しくサイズ選別を行っている。現在は、19〜22mmのMサイズ以上の果実のみを生食用に出荷している。

 

さくらんぼの糖度計測を実演していただいた。糖度は20度以上になることも普通で、メロンよりはるかに甘い。

 

 長岡さんの所属する果樹部は、果樹の品種適応性、栽培技術の改善に関する試験研究や、果樹の貯蔵・流通に関する試験研究を行なっている。そんなさくらんぼのプロが考える、「一番おいしいさくらんぼ」を聞いてみた。
「早朝、例えば4時半頃とかに収穫し、すぐに食べるさくらんぼがおいしいですね。新鮮で、果実が締まっていて、甘みもあります」と長岡さん。さすがに、早朝4時の採れたてさくらんぼは、生産者でないと味わえないかもしれないが、最近では6時頃からオープンしているさくらんぼ園もある。来シーズンには、少し早起きして、朝のもぎたてさくらんぼを食べに行ってみてはいかがだろうか。

 

糖分の高い濃縮した乳酸菌飲料に浸して冷凍し、2〜3ヶ月の長期保存をする農家もいるそう。食べる際にはシャーベット状になった飲料とともに、今まで味わったことのない美味しさに出会えそうだ。

 

さくらんぼの未来を担う期待の大型新品種

「やまがた紅王」は、1997年より開発スタート。500円玉以上の大きさ、艶があり色鮮やかな外観、「紅秀峰」よりも果肉が硬い特徴を持つ。硬い実は、長距離輸送にも適しているため、台湾などの海外輸出も期待されている。

 

やまがた紅王。収穫最盛期は佐藤錦と紅秀峰の間頃。写真提供/山形県農業総合研究センター園芸試験場

 

 開発を進めてきたバイオ育種部長の石黒さんは、「開発に20年と長い歳月を要したのは、2011年から主産地での栽培適応試験を重ね、栽培に関わる人たちから評価してもらったから。だから自信を持って送り出せる」と話す。新品種開発のために、実ったさくらんぼを、ひたすらに食べ続けてきたという。そこには、山形でさくらんぼを大切に育ててきた先人らの意志を未来へ繋いでいこうという想いがある。

 

「やまがた紅王」への期待を語る石黒さん。

 

 石黒さんは、「生産者、消費者、県民に愛される品種になり、県内だけでなく、県外にも大きく羽ばたいてほしい」と結んでくれた。2023年に本格デビューを予定する新たなさくらんぼの王様に期待が集まる。

 

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