特集の傍流

2019.9.9

山形ならではの弁当には、愛され続ける理由があります。

2019年10月号(180号)やまがた弁当巡行。
九十九鶏本舗 社長 田中千賀子さん、(有)ミートデリカ・クドー 専務取締役 工藤令子さん、(株)松川弁当店 代表取締役社長 林真人さん
山形県山形市、鶴岡市、米沢市

 県内各地で人々の胃袋を満たしている弁当。「弁(そな)えて用に当てる」と書くその名の通り、昼食や晩御飯として食べるのはもちろん、永く親しまれている名物弁当などは、土産やもてなし用に買い求める人も多いよう。ひと箱のなかに主菜、副菜、香の物、さらにはデサートまでも詰め込まれた弁当は、さながら小さなコース料理。手軽に素早く、日本の食文化を存分に体験できる存在と言える。そんな我々が愛してやまないご当地弁当の数々を紹介しよう。

 

愛され続けて53年。
郷愁を誘う思い出の味、『九十九鶏弁当』

 甘辛いそぼろの上に、特製ダレに漬け込んだ照り焼きがのった鶏づくしの弁当。50数年前、精肉店だった初代の時代に、山形駅で売る駅弁を作ろうとしたのが起源だという。しかし当時、山形駅へ弁当を納入出来る業者は限られており、新規参入はできなかった。そこで納入業社である1社へ食材とレシピを提供し作ってもらっていた経緯がある。以来、山形駅の名物弁当となって人気を博すが、時代の変化に伴い納入業社が駅弁の製造販売から撤退することになる。ならばと一念奮起。初代が残したレシピをそのまま受け継ぎ、自社で製造し販売するようになったという。自社製品となってからも30年以上の時が過ぎている。

 

サニシキ米100%使用。副菜はこんにゃくの煮物、大根とキュウリの漬物、さくらんぼ漬など。税別750円。

 

九十九鶏本舗(本店)外観。

 

 「作り方は販売当初から変えていません。長く通ってくださるお客様が多く、この味を求めてきてくださるかと思うと変えられないんですよね。長く働いてくれているスタッフたちとは家族のような感覚でね、仕込みから仕上げまで一つひとつ丁寧に、それこそ手作りでやっているので1日に大量に作ることもできません」とは三代目の田中社長の談。「これからも皆様に支持していただける味を守っていきたいです」と話す。
 会食弁当として、ご褒美ランチに、週末の晩御飯としてお土産に。頬張ればきっと〝あの時代〟がよみがえる、郷土山形の思い出の味。

 

朝には完売?
幻の弁当と噂の駅弁『庄内弁』

 庄内産「つや姫」のだだちゃ豆ご飯(酢飯)を、遊佐町産の高級ブランド鮭「めじか」のあみえび魚醤漬けで巻いた〝めっこい巻〟をメインに、庄内豚のすき焼き風、山菜のおひたし、赤かぶ漬、しそ巻きなどの庄内各地の名物が添えられた弁当。
 2015年に行われた「山形日和。」の観光キャンペーンに合わせて、食の都庄内親善大使を務める土岐正富氏監修のもと誕生したのが始まりだ。長らく駅弁が存在しなかった鶴岡駅や酒田駅において、庄内を代表する駅弁を作りたいという関係者たちや駅長の想いを受け、地元企業と話し合いを重ねた結果、鶴岡市の「ミートデリカ・クドー」が製造を一任されることに。観光キャンペーンが終了して4年経った今も作られているのは、当然ながら、その味を求めてやってくる人が後を絶たないからだ。

 

数量限定のため、午前中で売り切れることも。鶴岡駅内のNewDaysで購入できるほか、ミートデリカ・クドーでは、受取日の前日の昼まで要予約にて受け取り可能。税別1,111円。

 

ミートデリカ・クドー外観。

 

「美味しくて体にもいいものを届けたい気持ちと、庄内への想いなら私たちも負けませんからの」とは専務取締役の工藤令子さん。自身がかつて大病を患ったことが、食生活を見直すきっかけになったと話す工藤さんは、美味しく体にも良いものを多くの人に提供したいという想いを強くしたという。そのためなら手間ひまも惜しむことはない。特に、柔らかくて身の崩れやすい「めじか」の扱いにはとても神経を使い、身の切り出しから骨を一本一本取り、ご飯に巻きつけるまでは繊細な手つきが求められ、冷蔵庫で「めじか」の身が引き締まるまでじっくり冷ましてからでなければ、包丁を入れて切ることすら難しいという。
「めじか」が高級魚であることに加え、どうしても大量に作ることはできないため、数量限定の発売となっている。「それでも、予約をしてまでお買い求めになるかたもいらしゃって本当にありがたいです」と工藤さん。食べれば納得、ぎゅっと込められた、庄内を愛する人々の想いを舌で感じることができる。

 

懐かしい昭和の余韻と、地元美味を楽しむ
『牛角煮弁当』

 甘辛い醤油ダレで、ことことと柔らかく煮込んだ角切り国産牛がご飯を覆い隠す、焼肉系の弁当が数多くある中でも根強いファンが多い駅弁。「駅弁は冷めて食べたときに100点になるように作っています」と現社長の林真人さん。冷めても脂が浮くことはなく、注ぎ足しながら使っているというタレがよくしみた牛肉の旨味とコクを存分に味わうことができる。山形新幹線開業10周年を記念して製造され、牛の顔をしたインパクト大のふたを開ければ、昭和40年代に「特急つばさ」の車内放送で使われていた「花笠音頭」のメロディーが鳴り出す仕掛けが施されている。

 

赤い帯も目を引く「牛角煮弁当」(税別1,204円)の開封前パッケージ(左奥)。創業当初は、米沢を代表する郷土料理である鯉の甘露煮を添えた「鯉弁当」(税別1,204円/写真手前)をメインに販売していたというが、昭和から平成にかけて牛肉弁当へとシフトしていった。「鯉弁当」は今でも、米沢出身者や、米沢にゆかりのある人に根強い人気を誇る。

 

松川弁当店本社工場外観。

 

 創業以来、奥羽本線とともに歩んできた当社。東北新幹線が開業した1982年、多くの「つばさ」号が福島始発となったことで、米沢で駅弁を買う人が少なくなってしまった時代もあった。上りの「つばさ」号でも、乗客が終点・福島駅の弁当を購入していくのを見て、林さんは「もっと美味しいものを作らなくては」という気持ちにさせられたという。

 

代表取締役社長の林真人さん。

 

 以降、昭和30年代後半に販売を開始した「すき焼き弁当」を皮切りに、地元の美味・米沢牛などを使った弁当を開発し、客の声やニーズに耳を傾け、メニュー数を増やしてきた。「すき焼き弁当」は、現在も「復刻版米沢牛肉すき焼き弁当」(税別1,065円)として、当時のデザインの掛け紙も復刻した上で販売中だ。
「今年で創業120周年を迎えますが、これからも時流に合わせて新商品を開発しつつ、ふるさとの味、地元の食文化を守り続けていきたい。これからも、弁当をきっかけとして地元のことを知っていただくお手伝いができれば」と林さんは語ってくれた。

 

※当記事に掲載されている弁当の金額はすべて、2019年8月31日現在のものです。

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