特集の傍流

2020.1.15

これは秘密じゃありません。切迫する、樹氷の危機。

2020年2月号(184号)蔵王のふしぎ。
山形大学 学術研究院(理学部担当) 柳澤文孝さん
山形県山形市

 長年にわたり樹氷の研究に取り組んでいる、山形大学の柳澤文孝さんによると「アイスモンスターは、1950年代の初めまでは北海道から長野県と広域で確認されていた」という。それが1960年代には北海道から山形県域に縮小し、1970年代には青森の八甲田山、岩手と秋田にまたがる八幡平、宮城と山形にまたがる蔵王、山形と福島をまたぐ西吾妻、秋田県の森吉の5地域でしか観られなくなっている。
「蔵王の樹氷の分布域は1940年代がピークで、その後徐々に減少。80年ほどの間で1/4ほどに縮小しています。地球温暖化がこのまま進めば山形蔵王の樹氷は40年以内になくなるでしょう」と柳澤さんは警鐘を鳴らす。樹氷は地球環境を示す指針なのだ。

 

資料を広げながら解説する柳澤さん。

 

「樹氷美の蔵王」と題された観光用の絵葉書。戦後のものだが、樹氷のサイズがいまより大きく見える。なお、ここでは樹氷は「ホワイトモンスター」と紹介されている。

 

蔵王では100年間でおよそ2度前後の温度上昇があり、1940年代(昭和15〜24年)は、標高1300メートル以上の場所で観測が可能で、見頃の時期も12月後半〜4月初めまでと長かった樹氷が、現在は1600メートル以上で1月後半〜2月前半にしか見られなくなっている。(柳澤さんがまとめたリーフレット「アイスモンスター・樹氷 2018年版」より)

 

害虫による立ち枯れ、大気汚染、黄砂問題

 地球温暖化は単に樹氷の生成条件を違えるだけでなく、アオモリトドマツに生息するトドマツノキクイムシを活発化させ、立ち枯れの原因となる。さらに近年の大気汚染と黄砂の影響も加わるとなれば対策は急務だ。そこで東北森林管理局では、2019年度から被害状況の調査を本格化させ、宮城・山形両県と連携しながら、自生苗の採取や移植などといった再生に向けた取り組みを始めたという。

 

アジア諸国の工業化が進み、それに伴って大気汚染物質の排出量が増加。硫酸やPM2.5などがアジア大陸からやってくる北西の季節風にのって蔵王の山々にも飛来している。(柳澤さんがまとめたリーフレット「アイスモンスター・樹氷 2018年版」より)

 

樹氷から採取した雪解け水。汚染物質が樹氷を酸性化させているという。

 

若木が成長するまでにどれくらいかかる?

 とはいえ、アオモリトドマツの成長は極めて遅く、実をつけるのさえ発芽から50年以上の歳月が必要だとか。いま蔵王の山々に植えられた若木がアイスモンスターへと変貌するまでには、この先何十年、いや100年以上の時間が必要になるかもしれないのだ。こうした事実を知ったうえで見直すと〝樹氷〟のある景観がいかに特別なものかが想像できる。

 

蔵王の樹氷を写した最古の紙焼き写真「蔵王山地蔵岳の樹氷群(昭和4年4月上旬)」 撮影/佐藤定男氏(吉野屋絵葉書店主人) 写真提供/柳澤文孝氏

 

樹氷は山形の冬の特別なプレゼント

 ここ数年、冬の山形にある美景観を愛でようと、世界中から人々が訪れているのはご周知のとおり。毎年雪と対峙している我々は寒い時期にわざわざなぜと発想しがちだが、改めて〝樹氷〟の希少価値を知れば納得がいく。アイスモンスターが生成される自然環境が私たちの故郷にあること、これはまさに特権なのだ。柳澤さん曰く「樹氷には表情がある。毎年変わるし、1本1本違う。そこが面白いし魅力です」と締めてくれた。

 

樹氷のできかたは、その年の降雪量や気象によってもさまざまに変化する。そんな樹氷の姿を楽しめる特権を、間近で味わいたい。

 

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