特集の傍流
高擶獅子踊り会 会長 三宅藤義さん、世話人 篠原広悦さん
山形県天童市
天童市南部の高擶地区に伝わる『高擶聖霊菩提獅子踊り』は、悪魔払いを行うことで知られる。7頭の獅子が笛や太鼓の音に合わせて全12演目を勇壮に舞うが、一番の見せ場となるのが悪魔払いの〝かかす〟という演目だ。この〝悪魔〟というのは不成仏の悪霊や疫病を指し、その悪魔に見立てた藁人形を獅子が倒すことで、無病息災や家内安全、豊作を祈る。
高擶獅子踊り会会長の三宅藤義さんと、世話人の篠原広悦さんは、「高擶の獅子踊りは天保12(1841)年に、中山町の土橋集落から伝わったもの。聖霊菩提とあるように、もとは鎮魂供養が目的なんです」と話す。

踊りの伝承と広報に携わる篠原さん(左)と、7頭の獅子のリーダー格である中獅子を20年ほど務めている三宅さん(右)。

高擶の獅子踊りの由来や演目について書かれた「聖霊菩提獅子踊り根元」
もととなった土橋地区の獅子踊りも、地元に伝わる縁起書によれば元来〝聖霊菩提踊り〟と呼ばれ、祖霊を供養し、家の永代繁盛を祈願する踊りとされる。それがいつしか先祖供養のほか、豊作祈願、家内安全の意味も込められるようになったのだとか。

大正12年、高擶小学校広場にて撮影された獅子踊りのようす。 写真提供/高擶獅子踊り会
『山形シシ踊りネットワーク』に所属し、県内のシシ踊り(獅子踊り・鹿踊り)に詳しい篠原さんは、「山形県内陸部の一部の地域では、いまでも新盆の際に依頼を受けた家で獅子踊りを奉納する風習が残っていますが、これは高擶地区も同様。〝かかす〟は新盆の際に〝回向舞〟という演目とセットで踊られるんですよ」と解説してくれた。〝かかす〟を行うことで家に災いがやってこないようにする意味があるのだという。「また、〝回向舞〟は神前式と仏前式があり、神社で奉納する場合や、個人宅の位牌の前で踊る場合などで演目を変えているんです」とのこと。
高擶の獅子踊りは、中獅子1頭、雄獅子2頭、子獅子2頭、雌獅子2頭の計7頭で構成される。人形を倒す獅子は決まっており、雄獅子2頭が倒しつつ、中獅子がとどめをさす。いつ、どのタイミングで倒すのかは暗黙の了解があり「大抵は、跳ねる動きを9回繰り返したところで倒しますね」と三宅さん。3回跳ねることが1セットになっており、人形を倒す回数は必然的に3の倍数になるわけで、6回目に倒すこともある。そのタイミングは演者に任せられているという。
「私は、跳ねるのを9回も繰り返すのは何か意味があるのではないかと思っています」と三宅さん。「除災を祈る〝九字切り〟がありますけども、悪魔払いの演目ですし、その〝9〟からきているのではないかとも思うのですが、確かなことは言えませんね。でも、そうでなければ、なぜあのきつい動きを9回も繰り返して倒すのを待つのか……疑問に思います」と、その声は苦笑混じりだ。

頭には南無阿弥陀と書かれた梵天と、角に見立てた2本の長い羽がつけられている。目はつり上がり、鼻は猪のように前に突き出ているが、このような頭は村山地方の多くの山寺系獅子踊りにほぼ共通している。この系統の獅子踊りは、いずれも山寺から授けられた斧を背負って舞うのが特徴だ。 写真提供/高擶獅子踊り会

写真提供/高擶獅子踊り会
平成10年には「高擶獅子踊り会」が組織され、現在は会員数22名で活動している。踊りは毎年8月22日またはその近日の土曜日に開かれる河上神社の例大祭で奉納するが、「雨が降っても、踊るとなぜか晴れるのは不思議ですね」と三宅さん。踊り手の願いは、しっかり祖霊や神様に届いているのかも。
今年の奉納は8月22日の午後6時30分より、河上神社の境内で行われる。「今年はコロナ禍で騒がれているということもありますので、コロナという悪魔、疫病の収束を祈りつつ、踊ることができれば」と三宅さんは話してくれた。

河上神社の例大祭での奉納のようす。 写真提供/高擶獅子踊り会
『悪魔払い』は東日本の獅子に多い!
そのルーツと理由とは……?
高擶以外にも『悪魔払い』を行う獅子踊りは数多くあります。県内では鶴岡市の大谷獅子舞や大江町の左沢三区獅子舞など、県外では青森県五所川原市の漆川獅子舞などが有名です。東日本の獅子踊りは多くが獅子頭をひとりでかぶる「一匹獅子」で、土着系の芸能「風流(ふりゅう)系」に由来するとされています(反対に、複数で操る獅子舞は「伎楽系」と呼ばれます)。風流系の踊りは疫病や悪霊を払う目的のものが多く、一匹獅子もこの流れを汲んでいるため『悪魔払い』が演目のひとつになったのではないかと考えられています。(黒木あるじ氏)
(TOP画像提供/高擶獅子踊り会)
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