特集の傍流

2020.8.12

県民の多くが知る、建築にまつわるナゾの風習。その信憑性はいかに?

2020年9月号(191号)郷に伝わる奇しき物語。
株式会社市村工務店 代表取締役社長 市村清勝さん
山形県山形市

 業歴100年以上を超える老舗企業の割合が、京都府に次いで多い※山形県。そこから推測できるのは、堅実かつ、継続を重んじる価値観といったところだろうか。今回取り上げる一定地域に残る習わしやしきたり、不思議な現象について語られる背景にも、そうした県民性や気風を感じるところである。

 

習わしやしきたりを
受け入れやすい県民性あり

「今年はあっちに〝大将軍〟がいるから、工事ができないんです」「この日は〝三隣亡〟だから、家建ては避けないと……」──このような話を、山形県民なら多くの人が聞いたことがあるのではないだろうか。
 大将軍とは方位の吉凶をつかさどり、3年ごとに決まった方角を移動する神だ。この神がいる方角は建築や伐採などが忌まれ、特に土を動かすと災いが降りかかると根強く信じられている。
 今回は、県内外を問わず、寺社仏閣といった歴史的建造物の修繕工事や再建にも数多く携わっている、市村工務店(山形市)の市村清勝社長(TOP画像)にお話しをうかがった。

 

鳥海月山両所宮(山形市)修繕の様子。 写真提供/株式会社市村工務店

 

同じく、鳥海月山両所宮の瓦屋根修繕のようす 写真提供/株式会社市村工務店

 

「大将軍に関しては、実際、施主様が亡くなったとか、土を動かした大工さんが怪我をしたという話は都市伝説のように語り継がれています」と市村社長。「ただ、当社では土を動かす以外の工事は行いますし、大将軍は決まった時期の5日間は一時的に他の方角に動く遊行日があり、この日を狙って工事をすれば災いがないともいわれています」とのこと。
 大将軍は2019年から2021年までの3年間は西の方向にいるため、この方角に向かっての建築を避けなければならないということになるが、このように特定の方角を忌み、回避しようとする〝方位呪術〟は徳川家が天下を取っていた時代に禁止したという。それがなぜ山形にここまで強く残っているのかということには疑問が残るが、一説に山形県に徳川家の支配があまり強く及ばなかったからではないかと推察されているが、詳細ははっきりしない。

 

建設業者は暦とのにらめっこが欠かせない。大将軍は暦にも掲載されている神様でもある。

 

 また、月ごとに寅・午・亥の日が該当し、この日に家を建てると隣家の人に災いがあるとされる三隣亡。「庄内地方では昔から知られていますが、その風習が次第に南下してきたのだと思われます。内陸で騒がれ始めたのは20、30年前からでは」と市村社長は話す。
「〝年間三隣亡〟って知っていますか? 寅・午・亥の年は一年間ずっと三隣亡になるというもので、いまでさえ気にする人も多いようですが、山形では信じられていませんでした。じつは〝隠れ三隣亡〟なんてものも言われたりするんですが、暦にも説明があるように、三隣亡自体に確かな根拠がないんです。ですから、それが一年間も続くとか、ましてや隠れているなんてありえないこと。ですが気にする人も多いので、柱だけを前年に建てることもあります」と教えてくれた。実際、国土交通省の「住宅着工統計」で、山形県内の過去20年の新築住宅着工数を見ると、年間三隣亡の年の着工数は、必ず前年より落ち込むという結果になっている。
「地鎮祭を行えば気にしなくても良いのでは……と思いますが、施主様が風習を知らない場合や気にしない場合でも、周囲への配慮として説明して理解と安心を得てから着手しています」と市村社長。こういった風習が根強く残るのは、地域共同体の意識が強い県民性の表れなのかもしれない。

 

暦の確認や儀式が欠かせないのは、建築の加護を願うからこそだ。写真は住宅の上棟式のようす。 写真提供/株式会社市村工務店

 

起工式での鍬入れのようす。 写真提供/株式会社市村工務店

 

恐怖の三隣亡は三輪宝だった!
原因はなんと「書き間違い」?!

 三軒隣まで不幸になるとされる凶日『三隣亡』。なんと、もともと江戸の暦には『三輪宝』と書かれていました。「天・地・人、三つの輪の中央には宝がある」という意味で、「屋立てよし(家を建てるのに良い)」と解説まで添えられている、とても良い日だったのです。ところがある年、解説者が「屋立てよし」の「よ」を「あ」と書き間違え、「屋立てあし(家を建てるのに悪い)」という反対の意味になってしまいました。それ以来、三隣亡は凶日になったとか。つまり、我々は誤植に怯えているのです。なんだか笑えない話ですね。(黒木あるじ氏)

 

※帝国データバンクの企業概要データベース(1470,000社)をもとに調査(2019年11月時点)

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