特集の傍流

2020.9.18

登山初心者による姥ヶ岳山行記。

2020年10月号(192号)山行ことはじめ。
姥ヶ岳
山形県西村山郡西川町

 最後に自分の足で山に登ったのはいつだろう。もしかして、小学校で近所の山に遠足に行った時以来か。そんな私の山行ことはじめ。

 

 夏真っ盛りの8月中旬のこと、快晴の取材日和。少し早起きをして、取材クルーは姥ヶ岳へ向かった。姥ヶ岳は月山の南西に連なる山で、春先から初夏までは夏スキー客で賑わい、7月下旬から10月初旬の登山期には様々な高山植物が楽しめる。まずは姥沢駐車場に車を停め、月山ペアリフトへ。入山前には協力金として200円を支払うため、皆さんもご用意を。「ペアリフトまでの道のりが一番きついかもしれないね」と誰かが笑いながら言ったのだが、本当にその通り。ヘトヘトとまでは言わないが、運動不足を実感させられ少し苦笑い。

 

急勾配なコンクリートの坂が登山者を出迎える、まさに第一の試練といったところか。

 月山ペアリフトの往復券は大人1人1,100円、子ども700円。営業時間は8:00〜16:30 。今年の夏山リフトは10月18日まで運行とのこと。

 

 重要な低山トレッキングの装備について。長時間の歩行を予定しているのならば、スニーカーではなく登山靴で。もちろん自分の足にフィットした歩き慣れたものであることが重要。登山靴が普通のスニーカーと違うのは、丈夫な造りや滑り止めのある靴底はもちろん、足首が固定できる点。登山道の不安定な足場では、一歩一歩の着地が難しく怪我の恐れもある。しっかりと足首を固定することで脚全体を使った歩行が可能になり、安全な登山につながる。山の天気は変わりやすいため、レインウェアはたとえ天気予報が晴れでも持っていくこと。服装は薄いものを何枚か重ねて臨機応変に調整すると良い。これからの季節はしっかり防寒着を着用しよう。

 

 まずは牛首までの道のり。月山は牛が伏せているような形に見え、その丁度首あたりに位置することが由来とされているのが「牛首」だ。

 

木道が整備されており、比較的歩きやすい道が続くが、ゴツゴツとした岩場も。

 

 岩場を歩き慣れていない初心者の私は、ぐらつく足場に体幹の重要性を痛感しながら、置いていかれるまいと恐る恐る足を進めていた。リフトから降りて標高約1,500メートルからの登山、数分歩いただけでも見渡す限りの絶景。目下に広がる日常では見られない山の表情にいちいち感動してしまうのだった。

 

さっき通った志津温泉があんなに小さく!改めて山に登っているのだと実感が湧く。(写真:山形県みどり自然課大場さん提供)

 

 そして「牛首下分岐」でひと休み。ここで水分補給と携行食で小腹を満たす。ここでみどり自然課のかたがくださった冷え冷えの蒟蒻ゼリーのおいしさたるや。慣れない登山で少し緊張していた私の心が和らいだ。

 分岐を過ぎると登りが続き、太ももに負荷がかかる。日陰も無いため直射日光が容赦無く照りつけた。熱中症対策のためにも、水分と帽子は必ず持参を。そして、若干心が折れそうな私の味方になってくれたのが登山ストックだ。(快く貸してくださったK取締役、ありがとうございます!)登山ストックを使うことで推進力がつき、不安定な足場でも身体のバランスが保ちやすくなる。ガイドの倉本さんによれば、登りで疲労を感じたら、道を一直線に進むのではなく、左右ジグザグに進むのが良いとのこと。歩数は多くなるが、傾斜が緩やかに感じられる。

 

岩場に咲く一輪の花。その力強さに私も負けてはいられないと心を奮い立たせる。

 

大きな岩に足を取られながらも、歩みを進める。姥ヶ岳の山頂はもうすぐ。

 

山頂、と目にすると達成感が。遠くに見える月山山頂にいつか登ってみたい。(写真:山形県みどり自然課大場さん提供)

 

 牛首から続く稜線をゆっくり1時間ほど歩き、姥ヶ岳山頂へ。山頂には庄内平野まで見渡せる休憩場があり、反対方向を向くと、月山山頂も見え、南西には朝日連峰の雄大な稜線も。爽やかな風が吹きつけ、眺めもいいし、なんだかずっとここにいたくなるような・・・と、のんびりしていると「そろそろ行きますよー」と倉本さん。名残おしく下山の歩みを進める。下山は靴の中で足が前にずれやすくなるため、一回靴紐を締め直して気合を入れ直そう。

 

下りの道には小さな湿原を発見。湿原といえば鶴岡方面にある月山八合目の弥陀ヶ原湿原、天空の楽園と評される幻想的な世界、ぜひ一度訪れたい山のスポットだ。(写真:山形県みどり自然課大場さん提供)

 

 ちょうど正午にリフト乗り場着。リフトに乗っていると、綺麗な水色の蝶がふわふわと目の前を横切った。目を凝らすと何匹か花の蜜を吸っている。本誌にも登場している山形県みどり自然課の大場さんによると、その蝶は「アサギマダラ」で、渡り蝶とよばれるほど分布が広く、春から夏にかけて南から北へ移動し、数千kmを旅するというから驚きだ。風に乗るように舞う幻想的な蝶の群れが私たちを見送ってくれた。

 

リフトのチケットは思い出の一枚に。はじめての山行お疲れ様でした。

 

 約3時間のはじめての山行、山形の自然を目で、耳で、身体全体で丸ごと体感できたあっという間の時間だった。「こんにちは」とすれ違う人々への挨拶は登山する上でのマナー。普段見ず知らずの道ゆく人に挨拶などしないものだが、挨拶をすること、返してもらうことで一歩一歩進む勇気をもらえた。見たことのない山の雄大な景色は時に優しく、時に力強い表情で私たちを包み込み、自分の心が解放されていくような気がした。なんだかいままですぐそばにあっても遠く感じていた山々との距離が、今回の取材で少し縮まった気がする。また違った表情を魅せてくれる紅葉の季節を心待ちにしながら、四方を山に囲まれた「山形」で私は今日も暮らしてゆく。

 

追記:山形県人として、締めはしっかりラーメンをいただきました。疲れた身体にスープが滲みわたる〜。

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