「西のお伊勢参り、東の奥参り」一生に一度“対”で成し遂げたい風習。

2023年2月号(220号)
特集|或る、うさぎ伝
月山神社本宮、月山中之宮(庄内町)、出羽三山神社(鶴岡市)

月の精、神の遣いと称されるうさぎ。月読命を祀る『月山神社』にとっては真意を伝えたり吉凶を告げることもある特別な存在として大切にされている。月山山頂の本宮参拝が叶わない人にとっては遥拝所として、また籠り所としての機能を併せ持つ『月山中之宮』には、狛犬ならぬ狛兎が鎮座し、神話の背景を彷彿させる存在となっている。うさぎはその跳躍力の高さから飛躍する、悪運から逃れる力を備えている、また子孫繁栄の象徴などとして愛されており、この狛兎も別名「なで兎」として、参拝する人々の疲れを癒し、その願いを受け止めてきた。八合目までは開山期になると羽黒登山口からバスや自家用車を使ってのアクセスが可能だ。駐車場から徒歩10分ほどでたどり着く。

天を仰ぐ狛兎が鎮座する『月山神社中之宮・御田原参籠所』。湿原地帯である弥陀ケ原中央に位置し、初夏は一面の花畑が広がる美景観が広がる。7月初旬から9月下旬に開山。

月山山頂を目指すアクセス道路や月山高原エリア内では、元気に野原を飛び回る野うさぎたちに遭遇することもさほど珍しくない。いにしえの時代からその存在は身近にあり、親しみを抱かせる動物の象徴であったと推測できる。これは先に紹介した昔話の伝承からも明らかだ。12年に一度の卯歳御縁年にあたる2023年は、出羽三山神社の主祭神である月山神社にとって特別な一年でもある。うさぎの御縁と導きで主峰月山へ赴く。『出羽三山神社・三神合祭殿』では5月8日に記念大祭が催されるとのこと。このきっかけを大切にしたい。

鶴岡市羽黒地区、県道47号に建つ高さ23.8m、幅31.6mの大鳥居と、奥にそびえる早春の月山。大鳥居は2018年11月に約90年ぶりに建て替えられた。

人生の儀礼であった西の伊勢参り、東の奥参り

天照大神(アマテラスオオミカミ)が鎮座する西の伊勢神宮、月読命(ツクヨミノミコト)が祀られた東の出羽三山。月読命は天照大神の弟神でもあり、太陽の神、月の神として互いに呼応し合うと考えられてきた。いにしえの人々は「西のお伊勢参り、東の奥参り」を合言葉に、一生に一度は対で訪ねてみたいと願ったという。

「出羽三山は推古天皇元年の593年に、蜂子皇子によって開山されたのが起源と伝えられています。古来より自然崇拝、山岳信仰など、人々の篤い信仰に支えられてきました」と話すのは出羽三山神社の吉住参事。

話を伺った出羽三山神社の吉住登志喜参事。「出羽三山信仰は先人が残してくれた宝。脈々と積み上げられてきた人々の想いの集結地」と話す。

御縁年をきっかけに参詣し本心と向き合う時間を

「私たちの祖先は宝ともいうべきその価値を手厚く守り、粛々と受け継いできました。1400年余年ものはるか昔から長い時間をかけて育んできた、人々の祈りや願いといったプラスのエネルギーを生み出す場所と捉えています。近年のコロナ禍により、私たちは必然的に本心と向き合う機会を得ました。本当に大切なことは何か、感謝や希望、そうした自らの心を強くしてくれる存在について、月山神社の御縁年をきっかけに出羽三山を詣でながら感じていただければと思います」

三神合祭殿の拝殿に掲げられた『月山神社』の神社号額
三神合祭殿の目前にある池には古くから神霊が棲むといわれ、御手洗池と呼ばれている。この池から多くの銅鏡が発見されたことから「鏡池」とも呼ばれるように。
年間を通してほとんど水位が変わらないという御手洗池。古書には「羽黒神社」と書いて「いけのみたま」と読ませており、この池を神霊そのものと考えた篤い信仰が捧げられ、羽黒信仰の中心でもあった。

ここが見どころ、うさぎポイント

つちだよしはる作 卯歳の大絵馬

鶴岡市出身の絵本作家つちだよしはる氏が描いた卯年の大絵馬。うさぎの表情がなんとも愛らしく、近くで眺めるとモフモフの毛並みまで表現豊かに描かれている。ひと目でつちだ氏の作品とわかる特有の世界観、美しく配された金色、ほかに例を見ないファンタジーな筆致が印象的だ。十二支分の大絵馬は、2004年から12年かけてすべて描き上げられているとのことで、毎年絵馬の原画として採用されているそう。

大絵馬は縦約60cm、横約90cmの羽黒杉の一枚板に描かれている。三神合祭殿の拝殿に2023年の1年間飾られる。また、昨年(令和4)の「寅(とら)」の大絵馬は客殿に移され、これまでの作品と一緒に飾られる。

羽黒山松例祭の神事「烏とび」と「兎跳ね」

「羽黒山松例祭」は羽黒山三大祭りのひとつで、羽黒山伏の最高位である2人の松聖(まつひじり)が、最後の行として互いの験力を競い合う伝統神事。その松例祭のなかで月山権現の使者で月を表す兎と、羽黒権現の使者で太陽を表す烏(カラス)が登場する神事が三神合祭殿の本殿の前で行われる。神事を通してどちらの松聖が神意に近づいたかを競い合う。

羽黒山松例祭における験比べ「兎ぱね」では、月山神の使いとされるウサギが登場する(画像提供:出羽三山神社)
羽黒山松例祭における神事「烏とび」の様子。位上方と先途方に分かれた山伏が烏の飛ぶ姿を競う(画像提供:出羽三山神社)

冬季の参拝は『三神合祭殿』にて

三神合祭殿の正面には、『月山神社』の神社号額が中央に掲げられている。開祖である蜂子皇子は難行苦行の末、羽黒大神の御示現を拝し、山頂に羽黒山寂光寺を建立。次いで月山神、湯殿山神を勧請して羽黒三所大権現と称し奉賽したという。明治の神仏分離後は大権現号を廃して出羽神社と称し、三所の神々を合祀する『三神合祭殿』となった。建物は国の重要文化財に指定されている。『月山神社』の本宮は標高1984mの月山の頂にあり、冬季の参拝が叶わないため、年中恒例の祭典はこの『三神合祭殿』で行われている。月山神社はうさぎ、湯殿山神社は丑、出羽神社では午が眷属とされているので、それぞれのモチーフアイテムを探しながら訪ねるのもいいだろう。

月山、羽黒山、湯殿山の三神を祀る三神合祭殿正面に掲げられた三神社号額と力士像。羽黒派古修験道独自の豪壮さがある。
出羽三山文化と修験の世界を学び体験できる拠点として、羽黒町手向地区にある「いでは文化記念館」への来館もおすすめしたい。

月山神社の卯にまつわる縁起物で開運を祈る

絵馬

木彫りと土人形の十二支の縁起物。うさぎは耳が長いことから「吉報を知らせてくれる」や、月との縁が深いことから「ツキ(運)を呼ぶ」とも言われているので、傍に置いておくと良い知らせが舞い込むかも。

破魔矢と土田氏作の卯の大絵馬をモチーフにした絵馬。出羽三山神社でのみ取り扱う。

縁起物

正月の縁起物として授与される破魔矢などにつけられる絵馬。願い事を託し奉納する。また破魔矢は矢の先を天に向けないように飾るのが作法で、その年の凶の方角に向けるという説も。2023年は酉の方角(西)。

木彫りの兎と土鈴の兎。出羽三山神社でのみ取り扱う。

gatta! 2023年2月号
特集|或る、うさぎ伝。

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