山形県民熱愛の“納豆”、その魅力について探る。

2023年4月号(222号)
特集|山形的納豆メソッド

「納豆汁」「納豆餅」「ひっぱりうどん」じつはこの3品、山形県民以外には馴染みの薄い郷土料理なんです。

身近すぎてあまり語られてこなかった「納豆汁」「納豆餅」「ひっぱりうどん」。近年は県民特有の習慣をネタにするテレビ番組やインターネット等による情報伝達力の拡大で、山形県以外でも提供する飲食店や家庭で作る機会が増えたようだが、この3つの納豆料理に対しての山形県民の愛はとりわけ深い。とくに冬の寒い時期に食べる機会が多い納豆料理。なぜ雪国の食卓を彩る料理なのか、調べてみると、納豆にも旬があり、1〜3月に仕込まれた納豆がふっくらとして食味が良いとの情報を得ることができた。

納豆汁

納豆をすり鉢で念入りに潰してとろみをつけ、味噌汁に馴染ませる。豆腐、油揚げ、三つ葉などのほか、からとり芋の茎を干した「いもがら」が具のアクセント。
秋田、岩手、青森県の一部でも食べられている。雪国では早春に芽吹く七草を揃えられないため、その代わりに食べるとも。

納豆汁。納豆をすってみそ汁に溶かし入れ、とろみをつけている。

納豆餅

正月などの祝いごとで食べる餅の味付けとして、山形県内では定番の存在。ぼたもちやおはぎでも納豆をまぶして食するが、全国的には餅といえば甘いものを指す。
山形県以外で現在食べられているのは、宮城県や北海道、京都府の一部など、限られた地域のようだ。京都府では、納豆と餅を共につき、それを焼いて食べる方法と、納豆を餅で包み、きなこをまぶす食べ方がある。

納豆餅。山形では県内全域の家庭で食べられており、小売店の惣菜売り場にも並ぶ馴染みある存在。

ひっぱり(ひぎずり)うどん

大鍋に乾麺のうどんを茹で、家族でひっぱり合いながら醤油だれで食べるひっぱりは、大人も子どもも夢中になる山形の味。薬味の定番は納豆、ネギ、生卵、サバ缶。
バターや七味を加えるなど家庭ごとにアレンジレシピがあるのもひっぱりの特徴。夏は冷たいタレのそうめんでも。

「ひっぱり」は、家庭で料理を担当する人にとっても家事労力が少ないお助けメニューとして人気。簡単でおいしく栄養が摂れる献立だ。

納豆に秘められたパワーとは

納豆菌は田んぼや畑、枯れ草に生息している常在菌で、芽胞と呼ばれる殻(胞子)を作るのが特徴。その殻があるため乾燥や熱にとても強いのだそう。なんでもマイナス100℃〜100℃の環境にも耐え続けることができると言われている。だからこそ胃酸に負けることなく活きたまま腸内にたどり着き、善玉菌を活性化させて腸内環境を改善する働きを持つ。さらに発酵の過程でナットウキナーゼというたんぱく質分解酵素を生成するのだが、これは血栓を溶かし、血液をサラサラにする働きが認められている。

昔ながらの製法で納豆を仕込む「最上納豆」の工場の様子。地域の消費者に支えられているからこその風景(画像提供:最上納豆)

地元密着型の納豆あなたのマイ納豆は?

納豆菌を製造しているメーカーや研究所は日本に3社しかないが、納豆を作っている食品会社は国内に170社ほどある。平均すると各都道府県に3、4社という計算になるのだが、じつは国内大手2社※が市場シェアの過半数を占めているという。しかし山形県内には20社以上もの製造会社がある。これは、山形県では小規模な地域内で流通している〝マイ納豆〟が活躍しているという証しではないか。流通網が発達した現代において、こうした地元の食品会社が活躍できる業界は希少な存在だろう。山形県民の食文化に欠かせない納豆料理は、慣れ親しんだ地元の味、地元メーカーを継承することにも役立っているのだ。

※トップはタカノフーズ(おかめ納豆/茨城県)、2位はミツカン(金のつぶなど/愛知県)

納豆の常識・非常識

どこのスーパーにも必ず置いてあり、手軽で身近な栄養源として全国で親しまれている納豆は、日本のソウルフードと評される発酵食品の代表格だ。ここでは普段から何気なく食べている納豆に隠されていた真実と、思わず人に教えたくなるようなマメ知識を10個ご紹介。知れば納豆愛が深まるかも?

温かいご飯に乗せると死にます

死んでしまうのは納豆菌に含まれている「ナットウキナーゼ」という酵素。これは血栓溶解を促し、動脈硬化を防止する働きをもつが、熱を与えるだけで破壊されてしまう。

じつは納豆にも“旬”があるんです

納豆の原料となる大豆は、例年11〜12月頃に収穫を行う。その後数ヶ月間貯蔵させた新豆は、年を越すと余分な水分が飛んで旨味成分が凝縮する。したがって1〜3月に仕込んだものが新豆の風味も相まって美味しく、納豆の旬だとする説も。

100回混ぜると旨味が増す?

農林水産省食品総合研究所の実験によると、納豆を100回かき混ぜた場合、旨味成分であるアミノ酸は1.5倍に、甘味成分は2.3倍に増えるという結果が。

納豆菌の製造は全国に3社だけ

種菌として市販されている国内3大納豆菌の宮城野菌(三浦菌)・成瀬菌・高橋菌。それぞれの製造販売元は宮城県仙台市、東京都練馬区そして山形県上山市にある3社だけ。

タレを入れるタイミングは?

タレを入れるのは何回か納豆を混ぜて粘り気を出した後がおすすめ。納豆の粘り気が少ないと、せっかくの栄養素や糖タンパクを上手く引き出すことができず、納豆がもつ最大限の栄養を摂取することができなくなってしまう。

納豆はハレの日の御馳走でした

大正後期から昭和初期にかけて東北地方と京都府の一部地域では、年の瀬の大掃除の前後に納豆を仕込んで正月に食べる風習があったそう。納豆餅や納豆汁といった雪国ならではの御馳走はその名残と考えられている。

先人たちの知恵が生んだ「わら納豆」

わらは保温力、保存力に優れ通気性も良いため、発酵に適した素材だそう。「わら納豆」は稲作が盛んな日本だからこそ作ることができたのかもしれない。

納豆+砂糖が定番?

北海道や東北地方の一部地域では、納豆と醤油のほかに砂糖を合わせて食す文化がある。ひとつまみほど入れるだけで砂糖の保水力が作用して納豆の粘りが強くなり、免疫力を高める酵素の「ナットウキナーゼ」が増えるため、更なる健康面への効果が期待できる。

卵はNGなの?

納豆に含まれるビタミンの一種で髪や皮膚などの美容に関わる「ビオチン」。納豆と生卵を一緒に食すと、白身に含まれる「アビジン」という成分がその吸収を阻害してしまうため相性が良くないとされている。

納豆のお年取りとは

年越しのことを指す「お年取り」の日、1月6日に納豆を食してその年の無病息災を願う、北日本の一部地域に伝わる伝統行事。ある地域ではその日に納豆を食べることで「万病の根が抜けていく」という言い伝えが残り、その日の夕方に納豆汁を作って食べる地域もあるのだとか。

※出典:「シュフーズ」shufuse.com/45886 「DiscoverJapan」高野秀行さんに学ぶ、納豆の豆知識 discoverjapan-web.com/article/65535 「ソノモノラボ」labo.sonomono.jp/three-
major-natto-bacteria/ 「ハッコラ」haccola.jp/2021_01_05_10408/ 「はぐくむ」hugkum.sho.jp/353695

gatta! 2023年4月号
特集|山形的納豆メソッド

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