チマタの話題

2018.6.8

老舗鮮魚店が描く、新たな町の光景。

2018年7月号(165号)掲載

南陽市宮内でおよそ140年前に鮮魚店として生業を起こし、近隣の住民はもちろん県外から足繁く通う客もいるという、小売り・卸し専門の『マルシチ遠藤鮮魚店』。天然・近海物にこだわり、養殖物は出来るだけ使用せず、自然本来の味を味わってほしいという理念と、歴代続く確かな目利き、そして客との会話を大切にした対面販売にこだわる老舗だ。

「地域と繋がり、人と繋がる」という言葉が、創業以来守り続けてきたポリシーであるという遠藤鮮魚店。30年ほど前からスーパーや量販店が台頭し、地元の鮮魚小売専門店が業態の変更を迫られるなか、小売専門店として継続し続けているのは、客や業者との強い信頼と信用があってのことなのだろう。

 

窓から見える「旧 遠藤鮮魚店」。140年以上も宮内地区の食卓を支えてきた、先代からのヘリテイジを感じる。

 

巨大な一体型の冷蔵棚がドンと鎮座する鮮魚販売スペースと、居心地の良い飲食スペースが間仕切りなしで空間共有する。

 

初夏が旬の「活タコの刺身とポン酢のジュレ」は、魚料理と酒のコーディネートのコース(5,000円・税別)の一品。拓器(せっき)と呼ばれる焼き物でつくられた器は、店舗監修の須藤氏と交流のある「SyuRo」宇南山加子氏によるオリジナル。

 

5代目店主の遠藤文人さん(左)と、飲食部門責任者の遠藤壮太(右)さん。

 

「ぼくらは魚屋」という原点を軸につくり出した、新たな光景。

現在店主を務めるのは、5代目の遠藤文人さん。そしてそれを支えるのが弟の遠藤壮太さん。二人は長年店舗としていた棟の道向かいの敷地に新しい店舗を構え、2018年6月1日にグランドオープンを迎えた。建物が新しくなっても、歴代から伝わる“お客さま第一”の精神は、若い双肩に確かに受け継がれている。

「店内のレイアウトは旧店舗と同じにしたので、お客さんも違和感無く買い物してくれています」と語ってくれたのは弟の壮太さん。「鮮魚店を利用しない若い人たちが、気軽に来店するためのきっかけになれば」との理由から、店内には鮮魚の販売のほかに、新たに13席ほどの飲食スペースが設けられた。

構想から完成まで2年半の時間を費やしたという、新店舗の空間デザインの監修は、文人さんの地元の友人でもあるデザイナーの須藤修氏に依頼。幾度となく打ち合わせや検証・視察を繰り返し、導き出した答えは、ずばり「端正」の一言。注目すべき点は、皿やグラス、カトラリーなど“客が手に触れるものや料理に近いものにこそ、優先的にコストをかけている”点だ。端正ではあるが、デザインありきではない。難儀の末に入手した一枚板のカウンターや、ウォルナットで統一された家具、濃灰色の壁面なども、すべては料理を引き立てるための必然なのだという。

 

飲食のメニューはコース料理のみとなり、魚料理のほかに日本酒やビールも含まれる。日本酒は好きな銘柄を少量で何種類も味わえるスタイル。取り寄せの難しい希少酒も揃うが、こちらもあくまで魚料理との組み合せを優先し、旨い魚を味わってほしいという想いから。

夕刻を過ぎ、濃紺に染まった街なかにポツンと一軒、「遠藤鮮魚店」の灯りだけが浮かんでいる。若き兄弟が描く新しい宮内の光景はどんなだろう、彼らが握る筆はまだ入れられたばかりだ。

 

シャンパーニュや日本酒など、それぞれの香りの立ち具合に合ったグラスを何度も吟味したという。また、地酒も十四代「白雲去来」や「龍泉」など滅多にお目にかかれない希少酒もあり、仕入れのコネクションが強いという証しでもある。

 

抑制された色彩と、オリジナルやセミオーダーの家具で設えた店内は、あくまで料理を引き立てるための必然だ。

 

マルシチ遠藤鮮魚店

山形県南陽市宮内2616
0238-47-2029
鮮魚8:30〜18:00、飲食部門19:00〜23:00(要予約)
定休:毎週日曜(臨時休あり)


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