特集の傍流

2017.6.12

米沢牛を守る人が、伝えたいこと。

2017年7月号(153号)モウっと知りたい、米沢牛。
株式会社米澤佐藤畜産
株式会社米沢食肉公社
有限会社登起波牛肉店
山形県米沢市

高級料理店でも人気が高い米沢牛。その特徴は、なんといってもきめ細かい霜降りと脂の質の良さ、肉質と風味の絶妙なバランスだ。
肉を食べたとき「美味しい!」と感じる瞬間は、食べたときに舌の上で脂が溶け出す温度に関係がある。この融点が低いほど、脂肪が口の中ですぐに溶けるため美味しく感じるのだが、一般的に黒毛和牛は他の品種に比べて融点が低いことで知られる。
また、米沢牛は赤身が美味しいとよく言われるが、これは赤身の中に溶けた脂の成分があり、その脂の品質が良く、融点が低いため、柔らかく美味しく感じるのだ。
この肉の柔らかさは肉質に関係しており、肉の風味は牛赤身が持つ香りである。上質の脂は、溶け出す温度が低いだけでなく、うまみや香りがあり、口の中でとろけるような食感をつくりあげる。

 

米沢牛をスライスする様子。登起波牛肉店にて撮影。

 

米沢牛の、この上質な脂ができる秘密は、置賜の気候風土もさることながら、先人が長い年月をかけて、試行錯誤を繰り返して培ってきた飼育技術によるもの。その技術は現代も脈々と受け継がれている。

 
 

生産から消費まで。関わる全ての人々の厳しい目と愛情が、美味しさを育てる。

ブランド牛の大半は、体格があまり大きくならない但馬牛を種牛としており、生まれた子牛が日本各地の肥育農家で育てられている。同じ種牛でも母牛の系統の違いや、各地の気候や風土、育て方、飼料の種類や与え方の違いで、それぞれの特色を持ったブランド牛が誕生していくのだ。血統牛や飼料は全国どこでも同じものが手に入るが、この自然環境と生産者の育て方は、米沢にしかないもの。そう考えると、わけもなく誇らしい気持ちになりはしないだろうか。

 

米澤佐藤畜産にて撮影。

 

米沢牛として認められるには、厳しい定義をクリアしなければならない。まず、牛は黒毛和種の未経産雌牛で、生後月齢が32ヶ月以上であることが条件だ。この月齢は、他の銘柄牛と比べてもかなり長い方。出荷される米沢牛の平均月齢は33ヶ月、全国銘柄牛の平均は28ヶ月だ。飼育日数が長ければ、それだけ手間とコストもかかる。それでも量より質にこだわるのは、間違いのない美味しさを届け、食べた人に感動してほしいという思いの証である。
ここで、米沢牛の定義(米沢牛銘柄推進協議会ホームページより引用)を、改めて確認してみよう。

 

米沢牛のセリの様子。

 

米沢牛の定義
1. 飼育者は、置賜三市五町に居住し米沢牛銘柄推進協議会が認定した者で、登録された牛舎での飼育期間が最も長いものとする。
2. 肉牛の種類は、黒毛和種の未経産雌牛とする。
3. 米沢牛枝肉市場若しくは東京食肉中央卸売市場に上場されたもの又は米沢市食肉センターでと畜され、公益社団法人日本食肉格付協会の格付けを受けた枝肉とする。
但し、米沢牛銘柄推進協議会長が認めた共進会、共励会又は
研究会に地区を代表して出品したものも同等の扱いとする。
また、輸出用は米沢牛銘柄推進協議会が認めたと畜場とする。
4. 生後月齢32ヶ月以上のもので公益社団法人日本食肉格付協会が定める3等級以上の外観並びに肉質及び脂質が優れ ている枝肉とする。
5. 山形県の放射性物質全頭検査において放射性物質が「不検出」であるものとする。

 

以上の条件をすべて満たしたものが米沢牛と認められ、枝肉に証明印を押印される。こういった厳しい定義や審査基準が、高い評価の獲得につながっているのだ。
この定義をゆるくすれば、米沢牛としての出荷頭数は増えるかもしれない。しかし、最高級の肉質にこだわりブランド管理が行なわれている。
こうしたこともあり、肥育農家の方は、米沢牛の品質レベルを落とさないためにも「牛舎で目の届く頭数しか飼わない」という人が多く見られる。大量生産できなくても、価格が少々高くなっても、高い品質を保つことを最優先しているのだ。

 

品質における審査は、東北大震災や産地偽装などの問題を経て、更に厳しいものとなった。現在ではその肉質はもちろん、生産者の氏名や生育環境、そして、原子力発電所で起きた事故の影響による残留放射能の有無等、各種の情報を、牛の生産から販売までの経歴を10桁の個体識別番号で管理する「トレーサビリティシステム」で、消費者個人が知る事が出来るようになっている。

 

 

米沢牛が消費者に届くまでの流通拠点であり、セリ市場も開催している「米沢食肉公社」も、このシステムのもと、品質を守り、生産者の顔が見える商品づくりで確かな安心・安全を届けている。代表取締役社長の日下部道雄さんは、「それこそが、生産者と消費者をつなぐ我々の役割であり、使命です」と話す。

 

セリ前の枝肉を格付けする日下部社長。

 
 

その旨味は、手をかけた時間にあり。
幾度も工夫を重ね、その美味しさを追求する。

そもそも、牛は本当に敏感で繊細な動物だ。騒音がストレスになるのはもちろん、牛にとっては今まで食べていた飼料を変えるだけでもストレスになり、育つ環境や餌によって肉質が全く変わってくる。
5代前までさかのぼる血統書付きの、生後10ヶ月の仔牛を2年から3年に差し掛かろうかという間、肥育するわけだが、いい米沢牛が育つのに血統5割、餌3割、管理2割と言われている。寝床を綺麗に整え、ブラッシングをし、何事も手間暇のかかるものだが、どの生産者も餌は特に気を使っている。

 

米澤佐藤畜産にて撮影した、餌として与えている厳選飼料(独自のもの)。

 

「牛といえば牧草を食べるのでは?」と思いがちだが、たとえ草でも、生きているものなので、食べれば独特の匂いが肉についてしまう。乾燥したものは肉に臭みがつかないので、稲藁などを与えられている。
一般的に、牛一頭に田んぼ10アール分の藁が必要だ。他に大麦、大豆、とうもろこし、ふすま(小麦を粉にする時にできる皮のくず)など、質の良いものを求め、体調にあわせて配合して食べさせる。各農家でブレンドは違うが、皆、1頭1頭の健康を第一に考え、より良い肉質をつくるため、厳選した餌を与えている。

 

同じく、米澤佐藤畜産にて。

 

また、米沢の肥育農家は地元の農協などと協力しており、餌が空気に触れて酸化しないように、こまめに配達をするなど、様々な工夫や改善を行っている。地域一丸となって米沢牛のために協力していることも、米沢地方の誇れる特色といえるだろう。

 
 

出荷までの期間に、生産者の経験が生きる。

牛の生産から加工販売までを一貫して行っている「米澤佐藤畜産」。その飼育頭数は約1千頭にのぼり、7、8人体制で飼育管理を行っている。特に、飼料には長年の研究と試行錯誤による工夫が重ねられ、月齢ごとに独自に配合した厳選飼料で牛の体調を整えている。

 

一頭一頭の体調によっても、配合を変えていく。

 

月齢ごとに、その時期に必要な栄養素を摂れるよう、何種類もの飼料を独自に配合して与えていると説明する専務取締役の情野衛さん。

 

一頭一頭が隔たれた牛舎がほとんどだが、子牛がひしめきあうように入っている棟もある。これは、子牛が生後16~18ヶ月くらいで骨格ができるまで、少し競争させてストレスを与えた方が、筋肉もできて理想的な体型になるのだという。

 

もちろん、衛生管理にも気を配る。

 

成牛の仕上げの際は、ストレスをかけないように、一頭ごとに柵を設ける「一頭飼い」で、のびのびと育てられる。そのためか、牛たちの表情はみな穏やかだ。

 

取材に対応していただいた、取締役営業本部長の佐藤秀仁さんと、一頭飼いされる牛たち。

 

畜舎は、少し標高の高い山地の中にある。静かで自然豊かな周囲の環境も、牛たちの表情の穏やかさにつながっているのだろう。

 

日々たくさんの愛情を込めて育てられ、牛たちは自信を持って送り出される。自然の恵み豊かな環境と、それを最大限に活かす生産者の努力と工夫、そして愛情が、米沢牛の豊かな味わいと質の高さをつくり出しているのだ。

 

 

 

「米沢牛の定義は他の銘柄牛と比べてもかなり厳しくなっています。そのため価格も高騰しますが、やっぱり米沢牛は美味しいと思っていただけるように、私達肥育業者は、確かな美味しさを追い求めています」。取締役営業本部長の佐藤秀仁さんはそう語る。

 

 
 

「米沢に登起波あり」。老舗の味を伝え続ける。

創業明治27年。米沢市で現存する最古の牛肉店が「登起波牛肉店」だ。皇室御用達にもなった看板商品「登起波漬」は、当初は「牛肉ときわ漬け」の名で遠方からの注文に対応出来るように、常温で持ち運びできて日持ちする商品として、1912(大正元)年に当店で創製された、現在県内で販売されている全ての牛肉味噌漬けの祖である。
「登起波漬」はもちろん、すき焼きの作り方や割り下の配合をはじめ、代々変わらない旨さ、本物の味と技を守り続け、提供し続けている。

 

当店は米沢牛枝肉市場に直接の買参権を持つ。店主自らが競り落とした肉を、自ら切り落とす。

 

米沢牛を切り落とす、店主の尾﨑仁さん。

 

米沢牛をより気軽に楽しめるよう、食事処にして分店の「登(のぼる)」も経営する当店。また、店主の尾﨑さんの著書『米沢牛物語』からも、その魅力を広く伝えたいという熱意を感じる。「当店が何か特別なことを行っているわけではありません。どの店舗も各々の目利きで選んだ、高品質で美味しい米沢牛を提供しています。それを食して、楽しんでいただきたい気持ちは皆同じです」と、代表取締役にして五代目店主の尾﨑仁さん。その姿勢が米沢牛への、そしてそれを扱う店舗への安心と信頼を築いている。

 

店舗1階の精肉店にて。

 

登起牛肉店2階の食事処。

 

実際に、すき焼きを調理していただいた。

 

一説には、脂の融点が低い米沢牛は、薄切りにした肉を最初に強く熱してしまうと、脂が抜け出てしまい、ふわふわの食感が薄れてしまうという。そのため、直接火や沸騰した割り下を当てない方法が生み出されたともいわれている。

 

割下に味噌を入れてつくる登起波牛肉店秘伝のタレは、創業者より代々受け継がれてきた。それが米沢のすき焼きの特徴のルーツといえる、元祖米沢牛すき焼きのタレだ。

 

どの店舗でも「最高」が食べられるという幸せ。米沢牛は全国的に評価されるブランドだが、このような良質な牛肉を美味しく食べるための食文化も、また誇るべき豊かな地域資源に違いないだろう。

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