やまがたの季節を彩り、暮らしに根付いてきた“火”のすがた。

2023年1月号(219号)
特集|火のある暮らし

神事に欠かせない火の存在

寺社仏閣において火は欠かせない存在だ。火によって罪や穢れを清めたり、法燈が教えを継承する意を持つことなどからも、火を焚くことは古くから人々が大切にしてきた習わしのひとつであると推測できる。歳末のこの時期に思い浮かぶのは、鶴岡市羽黒地区の「羽黒山松例祭」だろう。大晦日から元旦にかけて夜を徹して行われる火祭りで、大松明を焼き払い、新しい年の火の打替え神事まで火が主役となる。

厄を払い清め願いを受け止める存在

新年を迎えると、小正月のお焚き上げに代表される火祭りが続く。全国的にはその神事を「どんと」や「おさいとう」などと呼ぶが、本県の西置賜地域においては「ヤハハエロ」とも呼ばれている。白銀の暗闇のなかできらめく炎は美しく、天高く燃え盛る様はとても神秘的だ。そしてその熱は人々に暖を与え、地域に根づいた祈りの文化として目に焼きつくこととなる。厄を払い清め、新しい年を明るく照らしてと願う象徴でもある「火」。古くから私たちの暮らしの記憶とともにあり、癒し、諌め、さまざまな想いを受け止めている存在といえるだろう。

米沢市にある愛宕・羽山両神社のお山まつりで、毎年8月1日に行われる情熱的な火の神事である愛宕の火祭り(画像提供:米沢観光コンベンション協会)。
東根市のさくらんぼ温泉地区で7月に開かれる火渡り神事。無病息災、大願成就を祈願しながら渡る(画像提供:東根温泉協同組合)。
左上/東根市温泉街の火渡り神事(画像提供:東根温泉協同組合)。右上/出羽三山神社の松例祭(画像提供:羽黒町観光協会)。左下/河川敷で行われる山形の芋煮。右下/飯豊町中津川のさいぞう笑い・ヤハハエロ(画像提供:中津川むらづくり協議会)

山形の傍らに寄り添う火。

厳冬とともにある山形ならではの火の愉しみ方がある。ここでその一例を紹介。

東根温泉の火渡り神事

東根市のさくらんぼ温泉地区で7月に開かれる祭り。無病息災、大願成就を祈願しながら渡る。

松例祭

羽黒修験の四季の峰のひとつ「冬の峰」の満願の祭事において100日間参籠し、精進潔斎した2人の山伏のうちどちらが神意にかなったかを競い合う験競べ、大松明引き、火の打替神事など、大晦日から元旦にかけて夜を徹し行われる。写真は煉松明を大きく左右に3回ずつ回して火先をつけ合う所作をする、陰陽和合の再生の術とされる。

芋煮

おなじみ秋の風物詩であり、これもまた山形に根づいている火の文化であろう。かつては河原にある自然石を積み上げてかまどに見立て、そこに火をくべて調理していた。

さいぞう笑い

毎年小正月(1月15日頃)に開催される飯豊町中津川地区の祭事。ヤハハエローなどと囃し立てて叫ぶ。ヤハハエロの語源は、古代ユダヤのヘブライ語であるとする説もある。

火の持つ力の再確認と関心、期待を込めて

私たちのライフラインを支えるエネルギー資源が、ガスや石油石炭、そして電力が中心となる少し前までは、火から作り出されるエネルギー資源に頼った時代が続いた。森林面積が70%以上と四方を山々に囲まれている山形県はとくに木材を扱う仕事、林業が盛んな土地柄でもあった。しかし輸入材が国内に流通するようになってエネルギー資源の変革が起こり、林業は次第に衰退。安全性が高く、管理しやすい熱源によって私たちの暮らしは便利にはなったが、それらのエネルギーは再生することが難しく、枯渇してしまう心配がある。

今回の特集で〝火〟を取り上げることを決めた背景には、火の持つ力の再確認と、再生可能エネルギーを資源とする薪ストーブやペレットストーブに対しての関心、期待によるところが大きい。火のある暮らしの豊かさや愉しみについては、のちの記事でじっくり紹介したい。

かまどや囲炉裏など、かつて私たち暮らしの中心にはあかあかと燃える火の存在があった。

gatta! 2023年1月号
特集|火のある暮らし。

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特集|火のある暮らし。

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