表紙の小さな物語

2016.12.7

素敵なジィジたちに囲まれて、パンづくりのお手伝い!?

2016年10月号(144号)表紙

お目当てのパンが何時くらいに焼きあがるかを、ちゃんと知っているのだろう。小麦粉の香ばしさが店内に漂う時をはかったように、お客さんが入れ替わり立ち替わり。迷うことなくパンを選び、会計をしながらお店の人と会話を交わしてスッと店をあとにする、馴染み客が少なくない。古くからの商家が健在する山形市十日町に佇む『パンドリーム お~や』さんは、粉づくりから焼き上がりまで一貫した手作りと良質素材にこだわる、地元密着のパン屋さんだ。

 

店奥のドアから、ひょっこりと顔を出して迎えてくれたのは、横川向(むく)くん(4歳)。両親が仕事に出ているあいだは、母親のなおこさんの実家である『お〜や』に連れてきてもらい、パン店や2階にある祖父宅で過ごしているとのこと。『お〜や』店主である祖父のことを、向くんは「じじ」と呼び、おかみさんである祖母を「ばぁば」、パン工場長を務める祖父の弟さんを「パンじじ」と呼んでいるのだ。ご家族の紹介を伺っているあいだに、はじめは、ちょっぴり恥ずかしそうに振まっていた向くんだが、次第に慣れてきたのかこの笑顔(下写真)。いつもの元気が、いよいよ本領発揮のようす。

 

 

店奥の工場でパンを焼く「パンじじ」(右上)。店内に並ぶ焼きたてのパンがいい香りで迎えてくれた(左上)。ひと段落した頃、工場長の指導を受けながらパン作りの修行?をする向くん(左下)。店内に飾られている小さな木の家で遊んだり(右下)。

 

朝早くからはじまった『お〜や』のパン作りがひと段落して、じじ(店主)とばぁば(おかみさん)が来店客の応対をしている間、ふと店内の間仕切りガラスから店奥のパン工場に目をやると、向くんはパンじじ(工場長)と一緒にパンをこねていた。この日つくっていたのは、干しぶどうを水につけたものを生地に練りこんだレーズンパンのようなもの。「じじやばぁばの影響なのかな、よく一緒にテレビで大相撲をみているので、向も相撲が大好きなんですよ」とは母親のなおこさん。“パン修行”をしているこのときも、相撲力士が土俵の上で塩を撒くように「えいっ」と豪快にパンの打ち粉をふってから、手ごねして見せてくれた。なんだか、楽しそう。

 

店内に飾られているカラフルで小さな木の建物は、お父さん側の祖父が創作した「mini家」シリーズの小物、地元で活動するクラフト作家さんなのだ。向くんは遊びながら、たくさんの「mini家」を見せてくれた。

 

 

2階にある祖父宅のリビングにいるよりも、1階のパン店で、「二人のじじ」や「ばぁば」、馴染みのお客さんと一緒に話をしたり、店裏の庭や駐車場で遊でいるほうが、今日は楽しいようす。向くんがお祭りで買ってきた金魚を飼っている水槽部屋(じじが大きな水槽で大切に面倒を見てくれているので、さすがに大きく成長して生き生きとしていた!)を見せてくれたり、店裏の庭でサッカーボールを蹴ってシュートやパスをしてみせてくれたりと、自分の日常にあるいろんなものを(私たちに)見せてあげたいんだ、という気持ちが伝わってきて微笑ましい。

 

自分でこねたパンが焼きあがって、さっそく味見。私たちにも食べさせてくれた。

 

私たちに好きなものを見せてくれたり、一緒になって遊んでいる間に、向くんがこねてつくったパンが焼きあがっていて、皿にのせたパンを「はい、はい!」とみんなに振舞ってくれた。店で売られているパンもいくつか買って食べてみた、うまい。ふと気付いたのは、『お〜や』の店内にほのかに漂うバターとパンのやさしい香り、マーガリンのような鼻につく香りがまったくしないことだ。その点を伺ったところ、改良剤・科学物質・添加物や、それらを含む原材料、マーガリン、ショートニングなど、本来のパン作りにいらないものは一切使わないということ。なるほど、心底から感じる美味さとやさしい香りの根拠はここにあり、か。あたりまえって何なのか、をあらためて考えさせられる味だった。

 

「えいっ!」と掛け声をかけながら手ごねする向くんと、その様子をやさしく手をそえ声をかけながら教える、パンジジ。

 

サッカーをしたり、金魚にエサを食べさせたり、木の小物で遊んだり。いろんな「好き」を教えてくれた向くんだけど、やはり、見ていていちばんいきいきしていた、パンじじと一緒にパン生地を手ごねするようすが、gatta!144号(2016年10月号)の表紙に。撮影のあと、家族みなさんが手を振って見送ってくださったのだけど、その仲睦まじい雰囲気が繕いではない普段そのもので、手を振り返すこちらまで、ほっと和らいだ気持ちになれた。

 

2016年10月号(144号)置賜の干し物
表紙モデル:横川向さん(4歳)
山形県山形市十日町

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